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最終篇第二章 “薔薇に潜む金獅子のルーツ”
捻じ曲がる運命の歯車 “狂気”
しおりを挟む「だ、誰かッ!!たすけ……ッ……」
アイリーンの声が、此処で止まる。
其の理由は背後に居たファラ・スターハート
の行動から示されるモノだった。
「馬鹿が…只では置けんよ。此処を見られてしまったからにはな…ッ…」
ファラは自身の背中に隠していた短刀を使い
アイリーンの喉元を斬り裂いたのだ。
噴き出す血はドロドロと流れる。
そして、ファラは胸ポケットに仕舞っていた
ハンカチーフで返り血を拭うと歩き出す。
「近衛兵はおるか…?」
階段を上がった所で、声を発したファラの元
へと瞬時に降り立つ近衛兵。
其の近衛兵にファラは、命令を差し向ける。
「アイリーン・ハワードにあの部屋を見られた…依って…殺した。死体の処理を頼む。そして、働き手を失った餓鬼に用は無い。レイナ・エルヴィス共々、“失踪”として処理しろ……ッ…」
こうして、近衛兵が動き出す。
其れを聞いてしまった人間が近衛兵の他にも
ただ一人、存在してしまっていた。
其れは、通路の角で聞き耳を立てていた幼き
頃のララ・スターハートだった。
そして、慌てて駆け出して行く。
子供ながらに意味を解ってしまったからだ。
ララは、必死に裏庭へと駆けて行く。
「レイナちゃんッ!!」
不幸中の幸いは、近衛兵よりも先にレイナの
元へと辿り着いたという事だけだった。
此の広い屋敷の中でレイナを探す近衛兵より
先程迄、共に居たララの方が早かったのには
訳があったが、表情を一変させたララを見た
レイナは不思議と意味を察する。
「ララ…ちゃん…?」
「にげてッ!!レイナちゃんとエルくんのお母さん…ころされちゃった…ッ!!たぶん、大人がふたりをねらってる…ッ!!」
レイナの両肩を揺する様にして必死に説得を
続けるララの想いは確かに伝わっていた。
だが、レイナは言葉を失ってしまっている。
突然の出来事に、動揺が見られるのも仕方の
無い事であろうし、子供に此の事態の深刻さ
を理解するのには時間が掛かる。
「ぜったいにまた、会いに行くからっ!おねがいッ…おねがいだからッ……今だけはララの言うことをきいてッ!!!!」
ララの言葉に、緩りと頷くレイナ。
そして、裏庭の茂みからララに背中を押され
レイナはエルヴィスを抱き抱えて走り出す。
訳も解らない儘にー。
泣き出すエルヴィスをグッと自身の胸で抱え
溢れる涙も其の儘に、レイナは走る。
そして、其れを見届けたララは震える身体と
涙を拭って屋敷の中へと走り出す。
背中を合わせて別方向に走る二人の道が此処
にて途絶えてしまった事は確かだった。
「ね、ねぇ。レイナちゃんとエルくん、知らないっ?」
ララは、敢えて近衛兵に此の質問をして回り
ほんの少しずつでも時間を稼いだ。
ララとレイナ、そしてエルヴィスの此の空間
を引き裂いた突然の出来事。
母アイリーンはあの部屋で何を見たのか?
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