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最終篇第三章 “兄弟が背負う哀しき因縁”
夢想から現実への一歩
しおりを挟むノアが倒れ込む様に前へと出る。
其の目指す先は、霧に呑まれて行くアークの
身体のほんの一部分だけの標的。
霧に呑まれたら、的を失う。
タイムリミットはほんの数秒だ。
しかし、ノアにとっては充分な秒数。
銀色の風を纏いながら圧倒的な速力を保持し
アークの目指して風と成る。
「絶技…」
ノアの最後の一撃に総てが込められる。
加速を続けながら、突き出された銀色の刃の
鋒が霧に呑まれ行くアークの胸を捉えた。
そして、銀の嵐が激しさを増す。
「 銀狼烈風牙ァァ!!!!」
ノアの一撃がアークへと迫る。
其処からは、不思議と時が緩りと流れる。
「(ティア…フロウ……そして皆、必ず俺達の道の先を見に行こう……想いに応え続けてくれたシェリー姫と共に……)」
ノアは仲間への想いを胸に駆けて行く。
対するアークは、何処か印象をがらりと変化
させるかの様な想いを胸に抱いていた。
「(あァ…強い眼になったな……ノア…。あの時の怯えた眼から…どんだけの成長をしやがったんだ……ヒャハハ…誇らしいよ…兄として…こんな事…言う機会は無いだろうよ…お前はそのまま…真っ直ぐに進め…)」
ふと、アークは思い出していた。
あの日のノアの怯えた眼を。
アレがトラウマだったのだ。
ノアの知らないアークのあの日からの過去に
於いて苦しむ種となったのは弟のあの眼。
両親の秘密を知ってから、アークは壊れ行く
自身の心の中で片時もあの眼を忘れる事など
無かったと言うのだ。
ノアと訣別する事となった十五歳のあの日。
其処からノアが森の街フォレストールの孤児
が集う孤児村ピースハウスに保護された事を
知ったモノの顔を見せに行く事が出来ないと
判断した十六歳の頃。
ろくに食事も摂れぬまま、辿り着いた闇の街
ヘルカイウンのとある落人群に身を寄せても
離れる事の無かったあのトラウマの眼。
其処から二年の時が経ち、差し伸べられる事
となった運命の手のひら。
其の手に導かれて、今では国王直下帝国軍の
大将に迄、登り詰めている。
そして、運命の二十五歳の頃の一報。
ノアを中心とした独立師団革命軍の躍進の報
が帝国軍在籍のアークの耳にも届いた。
やはり、蛙の子は蛙だった。
知らず知らずに親の道を辿ったノアと対抗の
戦力に在籍していたアーク。
其処で総てを受け入れたという。
此れもまた、運命である、と。
そして、緩りと流れた時が通常の速度で流れ
始めるとノアは自身の刃の行く末に驚く。
そして、何故だと言わんばかりに震える顔で
其の現実を直視する事が敵わなかった。
「兄さん……どうして…」
ノアが震えた声で溢す。
其の視界の先には、何故か覚醒を解いた姿で
ノアの一閃を受け入れたアークの姿が在った
事にノアは異常な衝撃を受けた。
アークの表情に、綺麗な笑みが浮かんだ。
其れは、昔懐かしき優しき兄の顔だった。
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