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魔王の嫉妬

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 ディアボロスが2度目の眠りから目覚め、ブレイブは再び商いに戻った。
テリジェに習った簡単な錬金術で錬成した新商品を並べると、離れていた客足も少しずつ戻ってきたのだ。

(ディアボロスも目覚めたし…錬金術はいい収穫になったな)

少ないながらも儲けることが出来たブレイブは、店を閉める。
そして、家の奥からしばらく使っていない窯を取り出し、枯れた花や家の隅にあった虫の死骸を泥水と共に入れて煮詰める。異臭のするうわばみを掬いあげて小瓶に詰めると、緑と黒を混ぜたような色をした薬が出来上がった。それは、人間には毒になり、魔物には安らぎの薬になるものであった。
 
 小瓶を鞄に入れると、ブレイブはダンジョンに向かうため家を出た。モンスターたちも大分戻ってきているらしく、魔物の匂いも濃く、暗闇に光る眼も多くなっていた。
 最奥に辿り着いて扉を開けば、玉座に座り部下に指示を出すディアボロスの姿が見え、ブレイブは駆け寄る。

「ディアボロス!」
『ブレイブ』
「無理すんなよ?ほとんど病み上がりなんだからな」
『魔の王として責務を果たすのが我の役割。この程度でいつまでも休息を得る訳にはいかぬ』
「……まあ、そう言うと思って、ちょっとした栄養剤を持って来たんだ」

そう言ってブレイブが取り出したのは、先程錬成した薬だった。ディアボロスにそれを渡すと、小瓶をふむ…と呟き眺める。

『魔族の傷薬か』
「テリジェに教わったんだ。少しは足しになればいいんだけどな」
『ブレイブよ。魔族の事は魔族に習うが良いだろう。我の部下に全ての錬金の知識を備えた者が居る。その者から習うといい』
「テリジェの知識だって本物だと思うぜ?現にディアボロスの事目覚めさせたろ?」
『……我はあ奴の事が好かぬ。我も多少の錬金術は心得ているつもりだ。我に習うも良かろう』

どこか拗ねているような雰囲気のディアボロスに、まさか…とブレイブは問う。

「ひょっとして嫉妬している?」
『嫉妬………?我がか…これが、嫉妬なのか……あの錬金術師に嫉妬しているのか…?』

どこか納得がいっていない様子のディアボロスに、ブレイブは思わずニヤけてしまう。

「ディアボロス…かわいいな」
『今その言葉は、我にとって嬉しいものではないな』
「でもすっげーかわいい。あいつとはただの友達だから安心しろよ。でも、魔族の錬金術は習いたいな…魔物相手に商いするのもあり…か?」
『村の人間に知られては、居られなくなるだろう』
「だな…ディアボロスやバロメ達のためだけに習うことにする」
『そうか』

ディアボロスの機嫌が治っていくのを感じ、ブレイブは「へへ…」と笑うのであった。
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