8 / 15
第八話 理不尽な脅し
しおりを挟む
泰蔵さんのテストを何とか乗り越えた俺は、ナマと泰蔵さんの会話を何となしに聴いていた。自分から帰ろうとも言い出せず、下手に二人の会話の邪魔をしたくなかったからだ。
何時になったら解放してくれるんだろう? そんなことを思いながら、出された湯呑を手にし、ぬるくなった緑茶を啜った。
「ところで白神の」
泰蔵さんに突然声を掛けられ、湯呑と歯をぶつけた。……痛い。
「は、はい。何でしょうか?」
「白神のは嘘を見破る他に、人を殺したことがある人間を一発で特定できるとか? 本当にそんなことが、できるんですかい?」
「ふえっ?」
何だそれは? 隣を見ると、ナマが温かく俺を見守っている。ってことは、やっぱりお前か。さっきから、要らんことばっかり言いやがって。俺を何だと思ってやがる。
で、何だっけ? ああ、そうそう殺人犯が解るかどうかって話だったな。それはさすがに無理だろ。
「すみません。どういう風に俺のことを聴いたのか知りませんが、流石に人を殺したことが有るか無いかまでは解りません」
すると、にこやかだった泰蔵さんの表情が険しくなる。
「するってえと何ですかい? お嬢が私めに、嘘の話をしたってことですかい?」
慌てて訂正する。ナマと泰蔵さんの間に深い絆があることは、十分に感じたからだ。そのナマを嘘つき呼ばわりは非常に不味い。さて、どう言う?
「嘘と言うより。何かの行き違いではないでしょうか?」
我ながら良い言葉を選べたと思う。泰蔵さんが納得するかどうかは別にして。
……そして案の定。
「いいや、お嬢は確かに言いやした。そして私めは、お嬢の言葉を信じやす。要するに、白神の。嘘はいけやせんねえ。正直に話したくなるようにしてやってもいいんすよ? そのためにあんたは、この事務所に呼ばれたんでやすから」
はぁ? 俺はナマのついでじゃなかったってことか? 今の泰蔵さんの話だとそうなる。
初めから俺の能力に興味があり、確かなものか試した。そして多分、人を殺したことのある人を見分けることが、泰蔵さんが必要としている能力なのだろう。
だからと言って、俺の能力はこの両目で胸の辺りを凝視することにより、魂の色を判別するだけ。普通の人は青白く、嘘を吐いている人は赤くなるのだ。それ以外の選択が無い。
例えば、「あなたは人を殺したことが有りますか?」と質問すれば、嘘を吐けばわかるだろうが、泰蔵の言う特定にまでは至らない。何に嘘を吐いているのかが、ハッキリと解らないからだ。
例えるとその質問を受けた人が、何かの拍子に人を殺したと思い込んでしまったとする。だが殺してしまったと思い込んだだけで、実はその相手は助かっていたとする。
だから「あなたは人を殺したことが有りますか?」と質問された場合、その人の返答は二択だ。
まず「殺していない」と嘘を吐いた場合。この場合は魂の色が嘘判定。つまり赤色になる。もしくは、「殺した」と正直に答えたとして、本当のことを言っている。つまり青白い色になるが、実際にこの人は人を殺していない。
つまり嘘判定と、殺人の判定は、全く違うものなのだ。
——しかし泰蔵さんは納得しないだろうな——
そう、問題は泰蔵さんを納得させること。ナマがいい加減な説明をした所為で、かつてないピンチに見舞われる俺。困惑していると、ナマが助け舟を出すように、俺の眼を見て言う。
「打算、思い出すんや」
「何を?」
段々ムカついてきた。そもそもどうしてこんな目に合わなきゃいけない?
——全部、ナマが要らんことを言ったからだ——
憎しみをぶつけるように返事をする。お前がこんなところに俺を連れて来たから、こんな目に合ってるんだぞ! なのにこいつからは、謝罪の言葉一つない。
「お祖母ちゃんを殺した犯人の魂は、黒色やなかったん? 考えてもみ、それ以来黒は居なかったんやろ? 殺人犯がウロウロしてないからやないん?」
黒……だと? なるほどな。そういうことか。馬鹿げている。
「小三のときに一度しか見てない色で、殺人犯を特定しろってか? 馬鹿じゃねーのか、お前。泰蔵さん、お役に立てず申し訳ない。帰ります」
椅子から立ち上がった。イライラが止まらない。今なら、負けるとわかっている喧嘩もするかもしれない。それほど、理不尽な扱いをされたからな。
——ナマから用事があるときは、やっぱりロクなことが無いな——
「そうですかい。私めもちょっと強引でやした。もし気が変わりやしたら、協力して下せえ。おいっお客様がお帰りや」
泰蔵さんは止めなかった。言い方はともかく、心底悪い人ではないのかもしれない。まぁ、何にせよ。もう二度と会うことはないだろうがな。
何時になったら解放してくれるんだろう? そんなことを思いながら、出された湯呑を手にし、ぬるくなった緑茶を啜った。
「ところで白神の」
泰蔵さんに突然声を掛けられ、湯呑と歯をぶつけた。……痛い。
「は、はい。何でしょうか?」
「白神のは嘘を見破る他に、人を殺したことがある人間を一発で特定できるとか? 本当にそんなことが、できるんですかい?」
「ふえっ?」
何だそれは? 隣を見ると、ナマが温かく俺を見守っている。ってことは、やっぱりお前か。さっきから、要らんことばっかり言いやがって。俺を何だと思ってやがる。
で、何だっけ? ああ、そうそう殺人犯が解るかどうかって話だったな。それはさすがに無理だろ。
「すみません。どういう風に俺のことを聴いたのか知りませんが、流石に人を殺したことが有るか無いかまでは解りません」
すると、にこやかだった泰蔵さんの表情が険しくなる。
「するってえと何ですかい? お嬢が私めに、嘘の話をしたってことですかい?」
慌てて訂正する。ナマと泰蔵さんの間に深い絆があることは、十分に感じたからだ。そのナマを嘘つき呼ばわりは非常に不味い。さて、どう言う?
「嘘と言うより。何かの行き違いではないでしょうか?」
我ながら良い言葉を選べたと思う。泰蔵さんが納得するかどうかは別にして。
……そして案の定。
「いいや、お嬢は確かに言いやした。そして私めは、お嬢の言葉を信じやす。要するに、白神の。嘘はいけやせんねえ。正直に話したくなるようにしてやってもいいんすよ? そのためにあんたは、この事務所に呼ばれたんでやすから」
はぁ? 俺はナマのついでじゃなかったってことか? 今の泰蔵さんの話だとそうなる。
初めから俺の能力に興味があり、確かなものか試した。そして多分、人を殺したことのある人を見分けることが、泰蔵さんが必要としている能力なのだろう。
だからと言って、俺の能力はこの両目で胸の辺りを凝視することにより、魂の色を判別するだけ。普通の人は青白く、嘘を吐いている人は赤くなるのだ。それ以外の選択が無い。
例えば、「あなたは人を殺したことが有りますか?」と質問すれば、嘘を吐けばわかるだろうが、泰蔵の言う特定にまでは至らない。何に嘘を吐いているのかが、ハッキリと解らないからだ。
例えるとその質問を受けた人が、何かの拍子に人を殺したと思い込んでしまったとする。だが殺してしまったと思い込んだだけで、実はその相手は助かっていたとする。
だから「あなたは人を殺したことが有りますか?」と質問された場合、その人の返答は二択だ。
まず「殺していない」と嘘を吐いた場合。この場合は魂の色が嘘判定。つまり赤色になる。もしくは、「殺した」と正直に答えたとして、本当のことを言っている。つまり青白い色になるが、実際にこの人は人を殺していない。
つまり嘘判定と、殺人の判定は、全く違うものなのだ。
——しかし泰蔵さんは納得しないだろうな——
そう、問題は泰蔵さんを納得させること。ナマがいい加減な説明をした所為で、かつてないピンチに見舞われる俺。困惑していると、ナマが助け舟を出すように、俺の眼を見て言う。
「打算、思い出すんや」
「何を?」
段々ムカついてきた。そもそもどうしてこんな目に合わなきゃいけない?
——全部、ナマが要らんことを言ったからだ——
憎しみをぶつけるように返事をする。お前がこんなところに俺を連れて来たから、こんな目に合ってるんだぞ! なのにこいつからは、謝罪の言葉一つない。
「お祖母ちゃんを殺した犯人の魂は、黒色やなかったん? 考えてもみ、それ以来黒は居なかったんやろ? 殺人犯がウロウロしてないからやないん?」
黒……だと? なるほどな。そういうことか。馬鹿げている。
「小三のときに一度しか見てない色で、殺人犯を特定しろってか? 馬鹿じゃねーのか、お前。泰蔵さん、お役に立てず申し訳ない。帰ります」
椅子から立ち上がった。イライラが止まらない。今なら、負けるとわかっている喧嘩もするかもしれない。それほど、理不尽な扱いをされたからな。
——ナマから用事があるときは、やっぱりロクなことが無いな——
「そうですかい。私めもちょっと強引でやした。もし気が変わりやしたら、協力して下せえ。おいっお客様がお帰りや」
泰蔵さんは止めなかった。言い方はともかく、心底悪い人ではないのかもしれない。まぁ、何にせよ。もう二度と会うことはないだろうがな。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる