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第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]
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生まれて初めて、頭の痛みで目が覚めた。それくらいひどい頭痛がする。
起き上がろうとするが、体が思うように動かない。なんだか体がふわふわするが、たぶん催眠ガスの副作用だろうと結論付けた。
そこまで考えて、自分の身に起きた事態を思い出す。
――みんなは……!?
辺りを見回すが、誰もいない。それどころか……
――ここはどこだ?
俺がいるのは、何かの建物内の休憩所のようなところだった。よくあるホラー映画みたいに、壊れかけの電灯が不規則に点滅している。目に入ってきたのはボロボロになった壁紙に、部屋の真ん中には剥がれ落ちた天井。ところどころ床のタイルはめくれ、そして、
……血しぶきが散っているところもあった。
ここで何があったのかはわからないが、とにかく今はあまり考えないことにしよう。まあそんな感じで、この部屋は荒れ果てまくっていた。
いつ壊れてもおかしくないような、朽ちた長椅子の列が並んでいる。俺はその中の一つに寝ていた。どうりで体が痛むわけだ。
さらに足元に目線を移すと、驚いた。すぐ近くに美頼のものと同じスマートフォンが落ちていたのだ。
――美頼は無事なのか?それともここにもいたけど俺より先に起きて薪原と様子を見に行ったとか……?
まだ現状がつかめない。とりあえず拾ってみる。
[端末ヲ起動。チュートリアルヲ開始シマス]
はい?
ますます意味が分からない。俺が拾った瞬間、電子音がして、しかもスマホが喋りだした?
[前方5m先。ナイフガ落チテマス。拾ッテクダサイ]
見てみれば、確かに部屋の隅に何か光っているものがある。立ち上がって歩いて行ってみる。刃渡り15㎝程果物ナイフ、とでも言おうか。手頃なものだった。
少し振ってみると、シュッと風を切る心地の良い音がした。
[振ッテミテクダサイ]
あ、はい。もう振っちゃいました。
[デハ、隣ノ木箱ヲ壊シマショウ]
木箱?
気が付かなかったが、すぐ横の長椅子の上に、味のある色合いの木箱が置いてある。
えい。とナイフを刺してみると、思いのほか簡単に箱は壊れた。というよりか、粉々に砕け散った。腐っていたのだろうか。
[完璧デス。アイテムヲ拾ッテクダサイ]
今度はアイテムときた。それらしきものが箱の中にはあるのだが……これは、ハンドガン?拳銃?
すると今度は、考える暇もなくアラート音が鳴り響いた。
[敵ガ現レマシタ。死ナナイヨウニ撃チマショウ]
は?いや、は?
さっきから淡々と進んでいるが、これは一体……?
[敵ノ反応一体。上カラ接近中]
上……この部屋に窓はない。出入口は二つのドアのみ。向かってきている敵は上にいる。つまり怪しいのは、部屋の中央にあるあの剥がれ落ちた天井の奥、その暗闇の中だ。
少しだけ近づき、目を凝らし、耳を澄ます。もちろんさっきのハンドガンも一緒だ。
時がゆっくりと流れていく。
そして……その時がやって来るのには、そんなにかからなかった。
グワゥウウウウウウゥゥゥゥッッ!!!
「っっ……!?」
こちらをめがけて唸り声と共に何かが飛び出してくる。咄嗟に避けると、後ろで鈍い音がする。
振り返れば、そこにいたのは……
――ヒト?いや違う。人じゃない。
床に激突して陥没した頭、たぶん頭蓋骨が半分くらい砕けてるんじゃないかと思われるその頭、と共に立ち上がったのは、生きているとは思えないヒト型の何かだった。
ゾンビ、なのか?
[頭ヲ撃チ抜イテクダサイ]
美頼のスマホの声で我に返る。そうだ。こいつが動いてない今のうちに倒さないと、さっきみたいに攻撃してくるかもしれない。先程は間一髪でかわせたが、次はないと頭に入れる。
ウウウウウウウ……
低く震える声が、音が、聞こえてくる。そのうつろな目は、俺を見据えていた。
ゆっくりとハンドガンを構えてみる。リロードの仕方は、スライドだろうか。銃身を手前に引いてみると、かちゃりと手ごたえがあった。小さいころ遊んでいたエアガンの要領で、凹凸で狙いを定める。
――――パン。
一瞬、時間が止まったかのように思えた。
引き金を引いたのだ。どちらが早いか、ちょうどゾンビもこちらに向かって足を踏み出していた。だが、銃弾には勝てなかったようだ。
見えるはずもないのに、ゆっくりとその頭に弾丸がめり込むのが見えた。そこだけスローモーションのように感じる。
一発で当たった。気がつくと、目の前にその生き物は倒れていた。
[オメデトウゴザイマス。コレデチュートリアル終了デス]
「やった……のか?」
ふと口をついて出る声。そしてあることに気が付いた。それは体がフワフワする理由でもあった。
今更ながら、体が軽いのは催眠ガスの副作用ではなかったと知る。本当に体重が軽くなっていたのだ。
「なんだこれ、どういうことだ」
自分の声に耳を疑う。自分の体を眺めてみる。
文字通り胸が膨らんでいた。
加えて静かな部屋に、機械音が響く。
[ヨウコソ『紅のゾンビ』ノ世界ヘ]
世界って何だとか、題名のネーミングセンスとか、そんなこと気にする余裕はなかった。急いでスマホのもとへ行き、拾い上げる。確か美頼は薪原の家の前で、携帯を手鏡代わりに使っていた。
画面を暗くすると、確かにそれは鏡代わりになった。
「なっ……」
俺がそう口を開くと、鏡の中の自分も同じように口を開ける。
「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ!?」
聞きなれた声。美頼の黄色い声が響いた。
鏡に映る俺の姿は、黄色のダボシャツにダメージジーンズ。その顔も間違いなく美頼本人だったのだ。
生まれて初めて、頭の痛みで目が覚めた。それくらいひどい頭痛がする。
起き上がろうとするが、体が思うように動かない。なんだか体がふわふわするが、たぶん催眠ガスの副作用だろうと結論付けた。
そこまで考えて、自分の身に起きた事態を思い出す。
――みんなは……!?
辺りを見回すが、誰もいない。それどころか……
――ここはどこだ?
俺がいるのは、何かの建物内の休憩所のようなところだった。よくあるホラー映画みたいに、壊れかけの電灯が不規則に点滅している。目に入ってきたのはボロボロになった壁紙に、部屋の真ん中には剥がれ落ちた天井。ところどころ床のタイルはめくれ、そして、
……血しぶきが散っているところもあった。
ここで何があったのかはわからないが、とにかく今はあまり考えないことにしよう。まあそんな感じで、この部屋は荒れ果てまくっていた。
いつ壊れてもおかしくないような、朽ちた長椅子の列が並んでいる。俺はその中の一つに寝ていた。どうりで体が痛むわけだ。
さらに足元に目線を移すと、驚いた。すぐ近くに美頼のものと同じスマートフォンが落ちていたのだ。
――美頼は無事なのか?それともここにもいたけど俺より先に起きて薪原と様子を見に行ったとか……?
まだ現状がつかめない。とりあえず拾ってみる。
[端末ヲ起動。チュートリアルヲ開始シマス]
はい?
ますます意味が分からない。俺が拾った瞬間、電子音がして、しかもスマホが喋りだした?
[前方5m先。ナイフガ落チテマス。拾ッテクダサイ]
見てみれば、確かに部屋の隅に何か光っているものがある。立ち上がって歩いて行ってみる。刃渡り15㎝程果物ナイフ、とでも言おうか。手頃なものだった。
少し振ってみると、シュッと風を切る心地の良い音がした。
[振ッテミテクダサイ]
あ、はい。もう振っちゃいました。
[デハ、隣ノ木箱ヲ壊シマショウ]
木箱?
気が付かなかったが、すぐ横の長椅子の上に、味のある色合いの木箱が置いてある。
えい。とナイフを刺してみると、思いのほか簡単に箱は壊れた。というよりか、粉々に砕け散った。腐っていたのだろうか。
[完璧デス。アイテムヲ拾ッテクダサイ]
今度はアイテムときた。それらしきものが箱の中にはあるのだが……これは、ハンドガン?拳銃?
すると今度は、考える暇もなくアラート音が鳴り響いた。
[敵ガ現レマシタ。死ナナイヨウニ撃チマショウ]
は?いや、は?
さっきから淡々と進んでいるが、これは一体……?
[敵ノ反応一体。上カラ接近中]
上……この部屋に窓はない。出入口は二つのドアのみ。向かってきている敵は上にいる。つまり怪しいのは、部屋の中央にあるあの剥がれ落ちた天井の奥、その暗闇の中だ。
少しだけ近づき、目を凝らし、耳を澄ます。もちろんさっきのハンドガンも一緒だ。
時がゆっくりと流れていく。
そして……その時がやって来るのには、そんなにかからなかった。
グワゥウウウウウウゥゥゥゥッッ!!!
「っっ……!?」
こちらをめがけて唸り声と共に何かが飛び出してくる。咄嗟に避けると、後ろで鈍い音がする。
振り返れば、そこにいたのは……
――ヒト?いや違う。人じゃない。
床に激突して陥没した頭、たぶん頭蓋骨が半分くらい砕けてるんじゃないかと思われるその頭、と共に立ち上がったのは、生きているとは思えないヒト型の何かだった。
ゾンビ、なのか?
[頭ヲ撃チ抜イテクダサイ]
美頼のスマホの声で我に返る。そうだ。こいつが動いてない今のうちに倒さないと、さっきみたいに攻撃してくるかもしれない。先程は間一髪でかわせたが、次はないと頭に入れる。
ウウウウウウウ……
低く震える声が、音が、聞こえてくる。そのうつろな目は、俺を見据えていた。
ゆっくりとハンドガンを構えてみる。リロードの仕方は、スライドだろうか。銃身を手前に引いてみると、かちゃりと手ごたえがあった。小さいころ遊んでいたエアガンの要領で、凹凸で狙いを定める。
――――パン。
一瞬、時間が止まったかのように思えた。
引き金を引いたのだ。どちらが早いか、ちょうどゾンビもこちらに向かって足を踏み出していた。だが、銃弾には勝てなかったようだ。
見えるはずもないのに、ゆっくりとその頭に弾丸がめり込むのが見えた。そこだけスローモーションのように感じる。
一発で当たった。気がつくと、目の前にその生き物は倒れていた。
[オメデトウゴザイマス。コレデチュートリアル終了デス]
「やった……のか?」
ふと口をついて出る声。そしてあることに気が付いた。それは体がフワフワする理由でもあった。
今更ながら、体が軽いのは催眠ガスの副作用ではなかったと知る。本当に体重が軽くなっていたのだ。
「なんだこれ、どういうことだ」
自分の声に耳を疑う。自分の体を眺めてみる。
文字通り胸が膨らんでいた。
加えて静かな部屋に、機械音が響く。
[ヨウコソ『紅のゾンビ』ノ世界ヘ]
世界って何だとか、題名のネーミングセンスとか、そんなこと気にする余裕はなかった。急いでスマホのもとへ行き、拾い上げる。確か美頼は薪原の家の前で、携帯を手鏡代わりに使っていた。
画面を暗くすると、確かにそれは鏡代わりになった。
「なっ……」
俺がそう口を開くと、鏡の中の自分も同じように口を開ける。
「なんじゃこりゃあぁぁぁぁぁ!?」
聞きなれた声。美頼の黄色い声が響いた。
鏡に映る俺の姿は、黄色のダボシャツにダメージジーンズ。その顔も間違いなく美頼本人だったのだ。
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