推理問答部は謎を呼ぶ -Personality Log-

猫蕎麦

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第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]

Log.39 zombie apocalypse

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 「なんで俺、美頼になってんの!?」

 いつも出してる声とは違い、甲高い声が出る。体も多分俺より10㎏以上軽い。その場で跳ねてみると、ブラジャーに覆われた胸がわずかに弾む感触がある。少し、いや、かなり複雑な気持ちになる。

 「なんか驚きすぎてゾンビなんかどうでもよくなってる自分が……」

 独り言をつぶやく。

 美頼とは腐っても幼馴染だ。小さい頃からなんの恥じらいもなく接し接され、異性としての距離感もゼロと言っても過言ではない。今更こいつの体に対して変な気は起きないはず……。いや、起こしてたまるか。

 「まあ、でもちょっとなら……」

 胸を触ってみる。柔らかくてずっと触ってられそうだ。バカやろう。何やってんだお前は。

 「冗談はさておき、まずはあいつらと合流しなきゃだよな……なんでかわからんけど蓑畑ってアンドロイドも携帯は取り上げてないみたいだし……」

 と画面を見ると、圏外と表示されていた。ついでに頬もつねってみるが、普通に痛かった。夢ではないようだ。

 指紋認証でロックを解除すると、通知が表示される。

 [ミッション1:建物の外への脱出]

 「なんだ、さっきまでの声はもうないのか?」

 そう呟くと、[ゾンビは音に反応します。初期設定はマナーモードに設定されていますが、解除しますか?]とポップアップが出てきたので、迷わず[いいえ]をタップした。

 ミッションとはどういうつもりかわからないが、たぶんやるべきことをガイドしてくれているのだろう。蓑畑さんと呼ぶべきかわからないが、あのアンドロイドも命は奪わないと言っていた。

 状況が分からない今、スマホの指示に従ってみるしかない。

 俺は端末をポケットにしまって、とりあえず扉のほうへと向かう。二つある出入り口のうちの一つだ。

 ギィイイィィィィイィ……

 という大きな音を立てて開いた扉の先、薄暗く同じように荒れ果てた細い廊下に、十数体のゾンビ達。俺は彼らの注目を集めていた。

 「ははは……お、お邪魔しましたー」

 俺はすぐに扉を閉めたが、数秒後には物凄い勢いで叩かれ始めた。急いで近くにあった長椅子を積んで、応急処置をする。これでしばらくは入ってこれないだろう。

 「ったく、ほんとどーなってんだか」

 スマホの画面を見ると、[北側の扉の先に敵14体の反応。危険度レベル5]と表示されていた。なるほど、こういうやつが出る時も無音というわけか。もう一つの扉の近くまで行って、携帯をかざしてみる。

 [反応なし]

 そう表示されたので、俺は念入りにゆっくりとドアを開けた。またもや薄暗く細い廊下が続いている。

 そして部屋を後にして、途中でなぜか箱入りのハンドガンの弾15発が落ちていたので一応拾い、後ろから聞こえていたゾンビが扉を叩く音が聞こえなくなった頃。若干大きな広場に出た。と言っても、ただのエレベーターホールだ。4台のエレベーターと、フロアマップを見つける。

 あの部屋からここまでの道のりでの風景から察するに、ここはどっかの病院の病棟らしい。地図を開いたときにほこりが舞い、だいぶむせた。いつからこの病院は人がいないんだろうか。

 「ええと……俺が今いるのが、3階か。ここから外に出るには、1階まで降りて……ちくしょうこの声慣れねぇ!!」

 自分の女々しい声に惑わされつつ、1階までの道のりを確認する。当然ながら電力が来ているわけもなく、エレベーターは動かなかった。非常階段は、2つあった。1つはこのエレベーターホールのすぐ脇だ。

 「このドアか。うわっ、きったねぇな」

 ドアノブを掴むとぬるりとした感触。俺はすぐに手を引っ込める。暗い中よく見ると、俺より一回り小さい美頼の掌が真っ赤に染まっている。

 「は?血!?」

 発生元を辿ってみると、すぐに見つけることができた。

 それはドアノブの真上から垂れてきていた。普通の人なら迷わず上を見るだろう。そして天井に穴があいているのも見つけるだろう。

 そうすればもちろん、蛙のような手に蛇のような目鼻口が、ゾンビの首を咥えてそこからこちらを覗いていることが分かるはずだ。



 目と目が合うその瞬間、‟普通の人”だった俺は一目散に走り出した。
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