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第2章>仔羊の影踏[ゾンビ・アポカリプス]
Log.40 nightmarish monster
しおりを挟む本能が告げていた。あいつに捕まったら確実に死ぬ、と。
とても残念なことに、後ろからバッタバッタ今まで聞いたことないような足音が迫ってきている。つまり俺は今完全に追われているわけだ。
「はぁ、はぁ、どうする。何ができる」
必死に考えを巡らせるが、酸素が足りないのか、何も思いつかない。結果的に来た道をまた戻ることになってしまった。後ろを振り返ったり違う道を探す余裕もない。
ところがちょうど曲がり角に差し掛かった所で、ちょっとした転機を迎えた。
体の芯まで震わすような爆音が響き渡り、つい振り返る。
「おいおい……」
後ろを追ってきていた怪物の姿を見て、竦んでしまう。
そこには頭をまるごと壁にめり込ませた、トカゲのような体があった。サイズだけは馬鹿にならない大きさだが、全長5メートルといったところだろうか。
冷静に分析している自分に驚いていた。さらには、先程まであの怪物が咥えていたゾンビの頭がすぐそこに落ちているのを見つけて、ある策を思いついた。
もちろん壁に追突したくらいであの怪物が絶命したわけもなく、頭を引っこ抜こうとジタバタしていたので、俺はまた走り出した。
「試してみる価値は、はぁ、あるな」
一番初めにいた部屋の前まで戻り、あまり使ってなかったスマホを見てみる。
[反応なし。後方に大型危険生物1体の反応。危険度10]
「よし」
扉を破り、すぐにさっきバリケードを作った北側の扉まで行く。
[扉の奥に敵14体の反応あり]
14体のゾンビはもう扉を叩くのをやめているようだ。
そう確認して、すぐに長椅子のバリケードを崩す。出来るだけ大きな音を立てながら。後ろの怪物はもうすぐそこまできてるはずだ。
「おいでおいでってな……」
そして素早く部屋の隅の長椅子に隠れた。ギリギリセーフ。ちょうど怪物が反対側の扉を突き破って出てきた所だった。
頼む……上手くいってくれ……。
しばらくキョロキョロと蛇の目は辺りを見渡している。そして静寂を破るのは14体のゾンビの泣き声。
俺が長椅子を崩した音に引き寄せられて、部屋の中に入ってきたのだ。
案の定ヘビのようでカエルみたいなトカゲのような怪物は、ゾンビ達に目を留める。
そして頭から齧り付いた。
──よっしゃ!!
声に出しそうになったが何とかこらえる。次々となぎ倒され喰われていくゾンビ達を見て、俺は清々しい気持ちになった。光景としてはあまり清々しくないのだが。
辺りに血は飛び散り、カエルの手は腐った臓物に塗れ、ゾンビは目が見えていないのか音のする方に、怪物の元に引き寄せられていく。
静かになるのに1分もかからなかった。
──終わったか?
長椅子の裏からこっそりのぞき込む。カエルの口がまだモグモグと動いているのが見えた。やはりアイツの食糧にはゾンビ達も含まれていたのだ。肉食なだけかもしれないが。
非常階段の上でヤツがゾンビの首を咥えていた時点で気づくべきだった。
油断していると、ゴクリと飲み込む音とともに、こちらに何かが投げ込まれてきた。ビチャリと音を立て壁に当たり、それは俺の頭の上に落ちてくる。
間一髪物音を立てることは無かったが、体は自然と動いた。ゾンビの千切れた腕が足下に落ちていた。それを見た瞬間、全身に鳥肌が立つ。あまりにも生々しく気色が悪かった。
──ぐ、グロすぎる。あいつ……なんてことしやがる
睨みつけようと扉の方へ顔を向けると、扉の向こうへ消えていくトカゲの尻尾が見えた。
よりによってエレベーターホール側の扉だ。
「まじかよ……非常階段が……」
ほっとしたのも束の間、俺は苦い顔をする。とりあえずゾンビを一掃してくれた上、それで満足してくれたので、あの怪物には感謝しておくことにしよう。
仕方が無いので、ゾンビ達がいた方の扉、北側の扉の奥を探索することにした。
スマホをもう一度見るれば、[反応なし]と出ていた。
「それにしても滅茶苦茶にしてくれたな……」
足の踏み場もないほど赤くなった床に、カエルの足跡が点々としている。俺はそっと歩みを進めるが、それでもぴちゃり、ぴちゃりと音が鳴ってしまう。いつ怪物が聞きつけるか心配でならない。
「……よっと」
やっと血の池を抜け出し、北側の廊下に出た。しばらくまっすぐ進むと、病室が何部屋か並んでいる。何部屋か入ってみた所、思わず声を上げてしまいそうになる程どこも悲惨な状況。
そのうちの一つに、弾が6発入ったショットガンと、ハンドガンの弾薬10発を見つけた。これでハンドガンは25発撃てるようになった。
使いこなせる気はしないが、とりあえず嬉しい。
「この人はゾンビにやられたのかな……ご愁傷様です」
武器の傍らに倒れているどこかの隊員の死体に、俺はそう言って手を合わせた。
そしてどんどん進むと、突き当りに扉があった。というか壊れていたが、よく見ればその上には見覚えのあるマークがある。
「非常口!!え、めっちゃ運いいじゃん俺!」
そういえばそうだった。マップには非常階段が二つあったが、もう一つはこちら側にあったのか。
そして駆け寄ると、扉の小窓に馴染み深い赤髪が見えて、驚く。
「美頼?!」
と言いつつ自分の声を聞いて、今の俺自身の姿が映っただけであることを思い出す。
「そういえば美頼と麻尋は無事なのか……?早く連絡しねえと……」
俺はそんなことを呟きながら、非常階段のドアを開けた。事態が全く把握しきれてないままで、先に待つことに不安しかない。
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