眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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ヴァンパイアポリスの事件ファイル ④

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金曜日。コスモスグループのミーティングの日だ。

トラックの追跡チームは、実際の工場が蔵王山のふもとにあることを突き止めていた。
登記上は、備品倉庫となっているが、人の出入りが多く。電気の使用量も、通常倉庫で使用される量ではない。

ミーティング会場は、前回と同様「若林区民センター」の会議室だった。
俺たちを見つけた白鳥が駆け足で近寄ってきた。

「待ってたよ、アヤちゃん、」

アヤというのはアヤメが書類に描いた偽名だ。ひねりも何にもない。こんなところにもアヤメの単純な、いや、真っすぐな性格が表れている。

俺たちは、部屋の隅にあるテーブルに案内された。

「どうだった?コスモスEX飲んでみた?」

「一粒も飲んでません。」

「ええ、飲まなかったの?飲んでほしかったのになぁ。」

「でも、そのコスモスEXを、ダイエットしてる友だちや、体調不良の知人に勧めて、注文を取ってきました。」

「ええ。マジ?注文ってどのくらい?」

「とりあえず、300本分。初回の100本と併せて400本の注文をお願いします。400本分の代金も持ってきました。それと、一緒にコスモスグループの仕事をしてみたいって友人も15人くらい見つけました。」

「すごいねぇ、たった数日で、400本かぁ。俺も負けそうだよ。アヤちゃんすごいなぁ。美人なだけじゃなく、ビジネスもやり手なんて。俺、アヤちゃんにマジ惚れちゃったよ。」

「いいえ、白鳥さんのご指導が良かったからです。」

(こいつ。なれなれしいぞ。それに、こいつなんの指導もしてないじゃんか。)
俺はちょっとイラついた。

「ちょっと待ってて、在庫確認してくるからさ。」

白鳥が席を外し、会場の後ろで何やらスタッフと話し合っている。

「あいつ、アヤメに惚れたんじゃないか。」
俺は小声で言った。

「ちょっと、私は長内おさないアヤなんだから。アヤメって呼ばないでよ。それに何?信用されなきゃ意味がないのよ。あ~。一宇、やきもち?。」

白鳥が戻ってくる。

「ごめんね。今日は、ほかの会員の注文もあるから。とりあえず200本分しか用意できないんだよ。まさか、こんな期待のルーキーが現れると思わなかったからさ。」

「期待のルーキーなんて。プラチナランクの白鳥さんに褒められるなんて嬉しいです。」

普段のアヤメの高ビーさは、どこに消えてしまったのか、、、。

「あ、じゃあ。次回のミーティングの時で結構です。」

「あ、そんなに待たせたら悪いよ。次のミーティングまで1週間もあるし。本社まで取りに来てくれれば、商品はすぐに渡せるんだけどな。それに、アヤちゃんみたいな新人なら、ぜひ本社幹部にも紹介したいんだけど。どお?」

白鳥は期待以上の動きを見せた。

「ええ、ぜひお願いします。」

「今週、都合の良い日はある?」

「今週ならいつでも大丈夫です。白鳥さんもいらっしゃるんですか?」

「モチロンだよ。じゃあ、明後日はどお?」

白鳥がコスモスグループの名前の入った手帳をペラペラとめくりながら聞いてきた。

「はい。大丈夫です。」

「幹部が夜しか出勤できないから、午後7時ごろに、本社ビルの1階受付で言ってくれればわかるようにしておくよ。」

「ありがとうございます。楽しみです。」

俺は、200本分の代金を支払い領収書とコスモスEX200本を受け取る。結構、、、、重い。


俺をのけ者にして話はサクサク進んでいく。白鳥はもうアヤメの虜だ。
これなら、俺のお考えた、お色気作戦でもよかったじゃん。

なんだよ、俺たちの設定はカップルじゃないのか?
アヤメの言う通り、この感情はやきもちなのかも知れない。

俺は、アヤメの事でやきもちを焼いて俺にいろいろ言ってくる赤目の気持ちが少しわかったような気がした。
戻ったら、赤目と常盤さんの仲直りに手を貸そう、かな。

そんなことを考えながら事務所に戻ると、トロール・コーヒーの監視チームもちょうど事務所に戻ったところだった。

「一宇~。トロールのチーズケーキ買ってきたよ~。」
ノエルがケーキをもって近寄ってくる。トロールコーヒーの制服を着たままだ。

「ありがとうって。ノエル、それ制服じゃないの?」

「あ、気づいちゃった。可愛いでしょ~。ここのところがフリルになってるんだよ。」

エプロンについているフリルより、ブラウスからはち切れそうな胸の方が気になる。

「それ、ブラウスのサイズ小さくない?」
俺は、まともに見ることが出来ずにうつむく。

「いやだ~。一宇。エッチなんだから~。赤くなって可愛い~!」
ノエルが俺を抱きしめる。胸が、胸が俺の顔に、、。息ができない。

「一宇!何やってんの。明後日の打ち合わせができないじゃない。早く来なさいよ!」
アヤメが怒っている。

「やだ、マジこわ~い。アヤメって一宇の事になるとすぐムキになるんだよね~。じゃあね。チーズケーキ食べてねぇ。」
ノエルは手をひらひらと振りながら歩いて行った。

俺はアヤメのところに行く前に、さっき購入した、コスモスEXが200箱入った段ボールと、白鳥が書いた領収書を持って杉山さんのデスクに寄り道する。

「ああ。段ボールは、後で科捜研に持っていきますから、そこに置いておいてください。」
杉山さんは、パソコンから顔を上げずに言った。

「あああ、これ結構重いから、俺が科捜研に運んでおきますよ。」

「それじゃ、お願します。ありがとう。」
振り向いた、杉山さんと目が合う。気にして見たことはなかったが、彼女は眼鏡の中に優しい目を隠していた。

俺は、段ボールをもって科捜研のある2階へ向かう。このビルには何度も来ているのに、2階に足を踏み入れるのは初めてだった。俺は最初にあった研究所のようなところのドアを開けて中に入る。

「ええと、君は誰かな?」
白髪に白衣を着た老人が顕微鏡から顔を上げる。

「ええと、俺。捜査官の刑部アヤメの眷属で、本田一宇と言います。今日の捜査でコスモスEXを手に入れたので持ってきました。」

「はははは。君がアヤメの眷属になった少年か。そんなとこに突っ立っていないで入りなさい。」

「はい。お邪魔します。」
俺は段ボールをもって研究室に入る。

「あのアヤメが眷属を見つけたって聞いて、どんな人間がアヤメの眷属になったのか気になってたんだがね。」

このセリフは、ヴァンパイアポリスに来るようになってから色んな場面で言われてきた、

「アヤメって眷属を拒んでいたんですか?」

「あの娘は、まぁ、家の事情もあるけど。一匹狼だからな。」

(家の事情?一匹狼???)

「どれ、君のも見てやろう。」

そう言うと、爺さんはおもむろに俺の額に自分の額をくっつける。

(うわわっ。爺さんのおでこの生暖かさが伝わってくる。)

不思議な事に、あわせた額から、何かに覗かれているような気がした。

「おやおや。君がそうでしたか、、。時がたつのは早いもんですね。そうか、本田くんね。なるほど。アヤメと君がねぇ。それは。面白い。」

(えっ、なに?)

爺さんは、俺の理解を超えた世界で勝手に驚いたり、感心したりしている。

「アヤメが君を選んだのは、運命だったのかもしれないな。」

意味不明だ。アヤメは単にバイクを直したかったから俺を眷属にしただけで、それ以外に意味はない。
でも、夢の世界のお爺さんにそんなことを言っても始まらないので、俺は事務所に戻ることにした。

「じゃ、俺上に戻ります。」

「あああ、そうだね。ご苦労様。私は研究室長の刑部主計かずえ。よろしくな、本田君。」

「えっ。刑部?」

「アヤメは私の姪です。君とは長い付き合いになるでしょうから、今後ともよろしく。」

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