眷属のススメ

家族の秘密 ②

俺がタウン誌の事などすっかり忘れていたある日、アレは突然やって来た。

「刑部さん。１階ロビーにお客様です。」
内線でアヤメが呼び出される。

珍しい事もあるもんだ。アヤメにお客さんなんて、、。
それから20分アヤメが戻って来た。

「アヤメ、お客さんって誰だったの？」

「一宇のお母さん。」

「そう。俺のお母さ、んって、、、。おふくろが来たの？？」

「そうよ。」

「用事はなんだって？」

聞くのがコワイ。でも、聞かなきゃならない。

「バカ息子をよろしくお願いしますって。」

「それだけ？」

「それと、バカ息子が何にも言わないから、ご挨拶が遅れてすみませんって、謝ってたわよ。」

なんでバレたんだろう、、。お袋には、まだ眷属になったことも、ヴァンパイアポリスに勤務していることも話していなかったはずなのに。

「一宇。なんでバレたのか考えているなら、タウン情報誌を見たって言ってたわよ。」

あちゃ～。あれか、、、。

「お袋、まだ下にいるの？」

「もう、帰られたわ。今から、一宇のアパートに行くって言ってたけど。」

まずい。部屋の片づけは、週末にやろうと思ってた。

「一宇って、お母さん似だったのね。」

「え？俺が？」

「見た目の話じゃないわよ。お母さん美人だし。お母さんから受ける雰囲気と言うか。」

「ええ。そうかぁ。」

俺は、母の性格は、むしろアヤメに似ていると思う。無鉄砲で、正直で、公平で、、、、そして、俺に厳しい。

俺の母、紀美生きみおは名取市の総合病院で看護師をしている。以前は仙台市内の総合病院で看護師をしていた。ヴァンパイア戦争後、名取市総合病院がヴァンパイア医師の常駐する、ヴァンパイア科が併設されたことで、病院から多くの看護師が辞める騒ぎとなった。病院が機能しなくなる恐れがあるというニュースを見ていた母は、ナイチンゲール誓詞がどうのこうのと文句を言っていたが、数日後、置手紙を残して、名取病院の看護師になるために行ってしまった。
置手紙には、「母は頑張る。一宇も頑張れよ！」とだけ書かれてあった。

彼女のバイタリティーと、博愛精神にはいつも驚かされる。
ヴァンパイアの基幹病院に勤務する母の目に、ヴァンパイアのタウン情報誌が触れたとしても不思議ではなかった。