眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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時の旅人 ④

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二人は映画館に入る。どうやら上映開始には、間に合った。

ローマの休日と言う映画は、1950年代にアメリカで制作された恋愛映画で、ローマを表敬訪問したオードリー・ヘップバーン演じる、某国の王女が滞在先をこっそり抜け出し、町の中で偶然知り合った新聞記者との1日だけの淡い恋を描いた名作だ。この名画座でも、度々上映されている。

二人並んで映画を見る。安芸は映画を見るのは初めてだと言っていた。
夢中になって映画を見ている二人をよそに、俺は、あの安芸にいつも従っている白神と言う男の事が気になっていた。
白神と俺は未来のどこかで出会っている。ヴァンパイアが長命とは言え、俺が暮らす現代は、50年先の未来だ。だとすると、彼はヴァンパイアの成長年齢でいうと15~25年分は年を取っている。今の姿と容姿が違っているはずだ。

思い出せ、思い出せ、、思い出せ、、、。
頭をフル回転させても希望する答えは見つからなかった。

映画は進み、ラストシーンの新聞記者が女王に質問するシーンが始まる。
爺ちゃんが安芸を見る。亜紀は泣いていた。
爺ちゃんが安芸の手を握る。安芸も手を握り返す。

エンドロールが終わり劇場内の明かりがつく。の客が、一人、また一人と帰り出す。
爺ちゃんと安芸は座ったままだった。

「悲しい映画じゃの。」
安芸がそう言った。

「そうかい?」

「そう。安芸には。あの王女の気持ちがわかる。安芸も、自分で結婚相手を選ぶ自由はないからの。」

「またまた、そんなこと言って。安芸ちゃん。今は20世紀なんだぜ。」

「それは関係ないのじゃ。我々は、昔からそうしてきた。」

「ヴァンパイアってのは、自分で結婚相手も選べないのか?」

「一般の者は、自由じゃ。だが、わらわはそうはいかん。この映画の女王と一緒じゃの。」

「ふーん。それじゃ、どうやったら、安芸ちゃんの婿候補になれるのかな?ほら、おとぎ話にあるだろ、ドラゴンを退治したものに姫を与える!みたいなのがさ。」

「勝也はバカじゃの。」
安芸はそう言って笑った。

「俺バカだけど、安芸ちゃんの事は絶対に嫁にする!」

「そうなったら、楽しいかもしれんの。」
二人が見つめあう。二人とも顔が真っ赤だ。安芸のほうが照れて先にうつむいた。

(うーん。爺ちゃん。青春じゃねぇか。二人の恋を応援したい!でも。俺的には里美と結婚してもらわないと困るんだよね。)

映画館の係員が、管内の確認にくる。まだ残ってる二人を見て「ゴホンッ」と咳払いをした。出て行けと言う事なんだろう。

爺ちゃんと安芸は席を立ち出口に向かう。
出口の向こうでは、いらいらした様子で白神が待っていた。

「勝也。今日は楽しかったぞ。生まれてきて一番じゃ。ありがとう。申し訳ないが、今日はもう帰らねばならん。」

安芸はすまなそうに言った。

「いいよ。俺も楽しかった。生まれてきて一番だ。また会えるよな?」

「もちろんじゃ。約束。指切りげんまんじゃ。」

そう言って安芸が爺ちゃんの小指に自分の小指を絡ませる。

「嘘ついたら針千本のーます」

安芸は指切りをして、白神の元へ歩いて行った。

爺ちゃんはポケットに手を入れて、プレゼントを渡し忘れていたことに気が付く。

爺さんは、二人の後を追って走り出す。

「安芸ちゃん。待って!」

爺ちゃんの声に安芸が振り返る。白神も気づいているのに速度を緩めることなく。進んでいく。

「白神、離さぬか。」
安芸が手を振りほどこうと抗うが、白神は離さない。

「おい。白神!待てって言ってんだよ!」

爺さんは白神の前に立ちはだかり、二人ははにらみ合う格好になった。
(爺さん無茶だヴァンパイアに勝てるわけないだろ。)

俺は爺さんの目を通して、白神の顔をまじまじと見る。
頭の中の靄が晴れて行く、わかった、こいつだったのか、、、、、。

白鬼。

髪が白くないが、間違いなく白鬼だ。年齢は幾つくらいだろう。今の奴は20代前半のように見える。
なんで、安芸の従者のような仕事をしているこの男が、悪事に手を染めたのか、それは知りようがない。

「なんですか?」

「ちょっと彼女に渡したいもんがあるんだよ。」
そう言って、ポケットからプレゼントを取り出し安芸に手渡す。

「ありがとう。勝也。うれしいぞ。」
白神、いや白鬼は、プレゼントを受け取った安芸の手を引いて、道を歩いて行った。

爺さんはそれを呆然と見ている。
安芸が振り返った。小指を立てて何か言っている。

その口の動きは「ゆびきりげんまん」と言っていた。

俺はこの時代で白鬼と因縁めいた出会いをし、言い知れぬ不安に襲われた。

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