眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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ヘイトクライム(憎悪犯罪)の親玉 ⑦

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参加してみて感じたのは、この集会では会員だけでなく、ここに来たすべての者に対して、あの手この手でヴァンパイアに対する憎悪を搔き立てる仕組みになっていると言う事だ。
それは、大野弁護士の話に続く、成果報告にも表れていた。

成果報告とは、新規会員の勧誘数にはじまり、啓蒙活動と称するヴァンパイア市民に対する嫌がらせチラシ配布の枚数の報告と、優秀な成績を上げた会員の名前が発表される。

さすがにキヨさんにしたようなポストにゴミを入れたり、ヴァンパイア市民の襲撃の活動報告はなかったが、ここで煽られた会員が過激な行動に出ることは想像に難くない。

集会は。これで散会になったが、今日、初めてここに来た人が入り口で選別されていく。
不思議に思ったがその理由はすぐに分かった。既に会員の者は体のどこかに会のバッヂを付けていたからだった。
当然、俺と山田さんは非会員の列に並ばされた。
そして、これから用事のある人たちは任意で名前と住所をを書いて帰宅することが出来るが、用事のない人は、是非この後にあるセミナーに参加して欲しいという旨の説明をされる。
山田さんと俺は、迷わずセミナーに参加することにした。
このまま帰ってしまったら、俺たちが手にした成果は、この団体が不必要に人々を煽っていると言うことだけだからだ。

セミナーは、さっきお茶を飲んだ集会場の隣の部屋で行われた。俺と山田さんを含めて30人ほどの参加者が部屋には集まっていて、そのほとんどが若い世代。
部屋には、長テーブルと椅子が用意されていて学習塾のような雰囲気だった。

「一宇。山田さん。」
声を掛けられて振り向くと、敦がニコニコと立っている。

「敦、お前。帰ったんじゃないのかよ。」

「さっき山田さんが言ってたろ。後で一人で勝手に来られるより、一緒に行った方がいいって。あれ当りだよ。俺はキヨさんの為ならたとえ火の中、水の中、ヴァン共反会の中なんて朝飯前だよ。」

完全に俺の失敗だった。敦がキヨさんの為に不良仲間と戦ったことを知っていたはずなのに、、、。
ここまできたら仕方ない。

「頼むから、おとなしくしてろよ敦。」

「大丈夫だよ。俺、さっきのクソみたいな集会でも我慢したんだぜ。」
山田さんもこの状況を完全に受け入れたようだった。これで仲間は3人になった。

「皆さんお好きな席についてください」
ヴァン共反会のバッヂを付けたスーツ姿の女性が現れた。
俺たちは3人並んで、長テーブルに座る。

「本当に、長い時間拘束してしまって、ごめんなさいね。この会にヴァンパイアが紛れ込むのを防ぐために、集会は外が明るい時間から始めることになっているもんですから。お茶やコーヒー、ジュースは後ろの冷蔵庫に入っていますので自由に飲んでください。セミナーはあと5分ほどで始まります。おトイレなどは、先に済ませておいてください。」
女性の説明で何人の参加者が席を立ってトイレに行ったり、飲み物を取りに動く。

「やっぱ、バカだなこいつら。俺たち眷属が紛れ込んでるとも知らねえで。」
敦が俺の耳元でささやいた。
敦が3人分の缶コーヒーをもって戻って来る。

「どうせ、奴らのおごりだ。飲もうぜ。」
と言って敦が3人分の缶コーヒーを持ってきた。
山田さんは、さっきファミレスでコーヒーを飲み過ぎたと言ってトイレに行った。

セミナー開始ギリギリに山田さんが戻って来る。
「本田君。他の部屋はすごい熱気だったよ。廊下まで声が響いてた。なんか物騒な事を叫んでるやつもいたぜ。」
戻った山田さんが俺に耳打ちする。
「物騒な事って?」
俺がその返事を聞く前に、セミナーの係と思われる男性が二人部屋に入ってくる。

「皆さん今晩は。平日の夜にこんなにたくさんの若者がこのセミナーに参加してくれて。嬉しいと思う反面。残念にも思います。この中に仕事のない方はいますか?」

10人ほどの参加者が手をあげる。

「それでは、その中でヴァンパイアに仕事を奪われた方はいますか?」
5人の手が上がったままだった。

「これです。私が残念と言ったのはこういうことです。日本政府の考えだした愚策のヴァンパイア新法とヴァンパイア達は、やる気ある若者から仕事の場所を奪っているのです!皆さんが悪いわけではありません。皆さんは、日本政府とヴァンパイアの被害者なのですから。」
男は、「被害者」と言う部分の語気を強めて言った。

しかも、彼の言っていることは事実ではない。
数か月前の俺は彼らの言うところの、ヴァンパイア新法の被害者だった。でも、仕事を探しに行ったハローワークには、ここにいる全員が就職できるほどの仕事であふれていた。

「皆さんの中で、ヴァンパイア犯罪の被害にあった方はいませんか?」

一人の男が手をあげる。

「どんな目にあったのですか?皆さんにも教えてあげてください。」

「被害にあったのは、俺じゃなくって俺の妹です。妹は塾の帰りにヴァンパイアに襲われて、命は助かったのですが、それ以来、外出できなくなって家に引きこもっています。何より、腹立たしいのはヴァンパイアポリスです!彼らはその犯人を逮捕したのに、ろくに取り調べもせずその犯人を釈放したんです!」

この話も事実ではない。人を襲ったヴァンパイアをヴァンパイアポリスが調べもせず釈放するなどありえないことだ。
テーブルの上に乗せられていた山田さんの手がぎゅっと握られたが、その表情からは何も読み取れない。

その話をしている男の顔には見覚えがあった。この男は、街頭で俺にパンフレットを渡してきた男だ。
なんだよ、ヴァン共反会では仕込みまで使ってヴァンパイアを悪者に仕立て上げようとするのかよ。
本当に汚い奴らだ。
でも、一般の市民があの集会に参加してその後でこんなセミナーを受けたら。すべてが終わる頃には立派なヴァン共反会のメンバーになっているだろう。

「この後、簡単なアンケートにお答えいただきます。アンケート用紙にはお名前とご住所の記入欄がありますので省略せずにご記入ください。その後、当会の代表の一人である大野弁護士から挨拶があり、セミナーは終了です。もし、お仕事が無くてお困りの方がおられましたら、セミナー終了後、ここに残ってください。ヴァン共反会独自のチラシの配布や、啓蒙活動、ヴァンパイア排除のなどのお仕事をご紹介させていただきます。」

こいつら、会員に金まで払っているのか。会員が2万5千人に膨れ上がるわけだ。
俺たち3人は、アンケート用紙に全くのデタラメを書き込んだ。
アンケートを書き終えた頃、大野弁護士が部屋に入ってくる。何人かの参加者が大野弁護に握手を求めてわれ先に彼に近寄って行った。

(!!!!!!)
なんと、その中に敦が混ざっている。アイツ何をやってるんだ、まさか大野弁護士を襲うなんて考えてないだろうな、、。
俺の心配をよそに、敦は満面の笑みで大野弁護に握手を求め、ハグまでしている。
敦のやつ一体何考えてるんだよ。

俺たちは犯罪まで斡旋されるのはごめんだったので、大野弁護士の挨拶を聞いて教会を後にした。

今日のヴァン共反会に潜入した成果はほぼ無いと言ってもいい。わかったのは、彼らが洗脳のような技術を使って会員勧誘を行っている事と、勧誘した会員を使って違法な活動をしていることぐらいだった。

「なぁ。一宇。俺腹へったよ。」
敦がのんきな事を言う。

「そうだな。俺もだ。」
山田さんも同意する。緊張状態から解放されたからか、俺も腹が減ってきた。

スマホを見るとアヤメから着信が入っている。俺が連絡するとアヤメは今日一日連絡がつかなかったと、すっかりおかんむり状態だった。

「今から、3人で刑部家に行ってもいいか聞いてみると、すんなりOKが貰える。俺は腹が減った男3人で刑部家へ向かうことを告げて電話を切った。」

こう言っておけば、俺たちの腹の虫を高梨さんが何とかしてくれるだろう。
俺たちは、タクシーを拾って刑部家に向かった。
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