眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

文字の大きさ
101 / 166

ヘイトクライム(憎悪犯罪)の親玉 ⑨

しおりを挟む
アヤメが高梨さんを再び食堂に連れてくる。

「それで、その問題のスマホと言うのはどれですか?」
「これよ。」

二人は、敦が大野弁護士からパクって来たスマホを手にしながら何やら話し込んでいる。
高梨さんがスマホをもって食堂から出て行った。

「何話してたの?」
「あのスマホの中の情報を高梨さんに安全に抜き取ってもらおうと思って。」

「えええ。あのじいちゃんに、そんなことができるのかよ。」
敦が俺に聞いてきたが、俺も高梨さんにそんなことが出来るのか知らなかった。

「高梨さんは、コンピューター関係にはとても詳しいのよ。」
アヤメが俺の代わりに敦に答える。
初耳だった。俺は高梨さんのスキルの多さに脱帽する。

「高木班長が、今回の件を知らないのなら。わざわざ知らせる必要はないわ。人間を正規に逮捕して日本の警察に引き渡しても、その後の対応をどうしたのか報告書すら来ないことがあるんだから。今回、私たちは、あくまでもプライベートで動くことにしましょう。」

「しましょうって、アヤメ。もしアイツらがものすごく大それたことを考えてたら、どうするんだよ。」

「その時は、その時よ。」

「俺はアヤメ姉さんに賛成だ!」
敦がいの一番に手をあげる。

「俺も、今回は刑部さんに賛成だ。高木班長を騙すようで気が引けるけど、ヴァン共反会のやってることは違法だし、日本の警察が頼りにならない以上、俺たちが何とかするしかない。」

3対1、、、。民主国家に生まれた者の悲しい性なのか。俺も渋々賛成にまわった。

「わかったよ。それでどうするんだ。」

「まずは、高梨さんの情報を待つのよ。」
アヤメはコーヒーポットから自分の分のコーヒーをカップに注いで、俺の隣に座る。
4人は向かい合って高梨さんが戻るのを待った。
高梨さんを待つこと10分。高梨さんががタブレットを持って戻って来る。

「アヤメ様。この中に情報はすべて移してあります。」

「ありがとう。高梨さん。」

「じいちゃん。すげぇな。料理も旨かったし、コンピューターにも詳しいなんて。」
敦が高梨さんに称賛の言葉を贈る。

「ほほほ。人より少しだけ長生きしております分、いろいろと覚える時間がありましたから。」
高梨さんはそう答えたが、同じ眷属として、俺が長生きしても彼のようなスーパー眷属になれる気は全くしなかった。

「アヤメ様。あのスマホは、どうなさいますか?」

「情報がタブレットに移してあるなら、スマホはもういらないから、高梨さんにあげる。」

「アヤメ、大野弁護士に返さないのか?」

「バカね一宇。なんて言って返すのよ。必要な情報はすべて抜き取りましたから、お返ししますとでも言うの?」

「それはそうだけど、、。」

高梨さんがスマホを持って出て行った後、俺たちはタブレットで、大野弁護士の連絡先リストからカタカナの変な登録名を見つける。ヴァン共反会の関係者や。大野の弁護士仲間、家族、友人はそれぞれグループ分けされて登録してあったが、この男だけが単独で登録されていた。

登録名「モリ アキト」
このモリと言う男と大野弁護士は、頻繁に電話で連絡を取り合っているようだ。

しかも、大野が杜に送ったメールが履歴にたくさん残っている。

俺たちは、大野弁護士がモリに宛てたメールだけをピックアップして読んでみることにした。
消去されていないメールは、昨年4月からおよそ1年分。30通弱。

「連絡事項:大野/ 今月分の活動費として、200,000×100件、全ての口座に振り込みを確認いたしました。」
初期のメールのほとんどは、大野からモリと言う男への入金を確認したという連絡だった。

「うひょー。すげぇな。一、十、百、千、万、、、。20万円を100件で、ええっと、、。」
敦が指を使って計算を始める。

「二千万だよ、敦。それに、今月分って言ってるってことは、毎月、大野弁護士は、このモリって男から二千万円の資金提供を受けてるってことだよな。」

入金連絡ばかりの大野のメールの内容に変化が現れたのは、年が明けた頃。
この頃から、大野弁護士は、モリに意味不明な内容のメールを送信している。

最初のメールの内容は、
「連絡事項:大野/ 先日、モリさんからご相談のありました、お祭りの件ですが。会の幹部と相談した結果、全員一致で祭りの開催と言う結論に至りました。つきましては、祭りの費用等、ご相談したく近くお目にかかれないかと、メールいたしました。ご連絡お待ちしております、」

お祭り?ヴァン共反会で何かイベントでも開催するのか?
おかしなことに、メールは、大野弁護士からの一方通行で相手の男らの返信の記録が一切ない。
そのうえ、メールのやり取りがひどく断片的で、彼らの話の内容が全く見えてこなかった。

「連絡事項:大野/ お祭り用の花火の材料受け取りました。現在、打ち上げに向けて職人が新作花火の製造中です。準備が整いましたら連絡します。」

「連絡事項:大野/ イベントの会場は森さんのご希望通りVPに、日時は先日の打ち合わせ通りで開催が決定しました。お祭りの開催には、多くのヴァン共反会メンバーが参加を希望しています。」

「なんだぁ。ヴァン共反会のやつら、春祭りでもやろうってのか?」
メールを一通り読み終えた敦がつぶやいた。

「でも、このメールなんか変よね。モリって男からの返信がないのはなぜ?」

「それに、まだ肌寒いこの季節に花火ってのもおかしな話だよな。」

何かが引っかかる。ヴァン共反会に対する多額の資金援助。「モリ アキト」と言う謎の男。春の花火。お祭り。それと開催場所のVP、、、、、、。

ヴァンパイアポリス!

俺の頭の中でばらばらだったパズルのピースがおぼろげな形で一つに繋がる。俺の想像が正しいならヴァン共反会のやつらは、かなり大それたことを考えているのかもしれない。

「なぁ、これは俺の想像なんだけど、今日、山田さんがヴァン共反会の廊下で聞いた爆弾って言葉。これが、このメールの花火って考えられないか?つまり。奴らは爆弾を使ってVP。つまりヴァンパイアポリスにテロを仕掛けるつもりなんじゃ、、、。」

この確証も何もない俺の想像は、まるで現実の事のようにそこに居た全員の心をとらえた。

「あり得るわね。」
アヤメがそう言うと、山田さんと、敦も頷く。

「でも、どうやって確かめれば。」

「こんな大それたことを考えるなんて、日本の警察だのヴァンパイアポリスだのと縄張りを気にしている場合じゃないわね。」

「それって?どうする気なんだ?」

「簡単よ。本人に聞いてみればいいのよ。」

本人に聞く????

アヤメは何か楽しい事でも始めるかのように俺たち3人に向かって。

「皆の者、参るぞ!」と拳を振り上げた。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇  

設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

処理中です...