勇者の弟が魔王の配下に恋をした

しょうこ

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出会い3

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旅立ちの日は早いもので、イーサンは笑顔で王都へと向かうのにノアも笑顔を浮かべて見送ったのを思い出す。二人で過ごした部屋はノア一人には広く感じ、持ち主のいない寝床がどこかもの悲しく感じた。明日はまたブルーベリーを摘みに森に入るので早く寝なければと寝床で身体を横にするもなかなか寝むれない。イーサンに手紙でも、と思ったが家を離れてからまだ一週間も経っていないのだ。流石に早すぎるだろうと首を横に振る。
「ねむれない……」
 ごろり、寝返りを打つ。明日は迷わないために目印を付ければいいのだと気づき、枝に結ぶための紐を幾つか用意した。そういえばディランは本当に来てくれるのだろうか。ディランとの約束通りノアはあの森でのことを家族にも誰にも言っていない。それはまた会いたいというよりも、初対面の自分に対して親切にしてくれたディランへの感謝の気持ちの方が多かった。誰にも言ってはいけないなんで訳ありなのだろうか。柔らかな物腰に見慣れぬ服装。どこかの国の偉い人がお忍びで来てたのだろうか。それにしては森に詳しかったなとも思う。もし会えたなら改めてお礼をしようとノアは心に決めて瞼を閉じた。
 いつの間に眠っていたのか気が付けば窓からの光が部屋を明るく染めていた。
「……ん……あっ!」
 眩しいなぁと瞼を腕で覆ってから勢い良く身体を越す。
「寝過ごした!?」
 どうしようとノアはバタバタと急いで着替えて母のもとへと駆け込んだ。
「おはようっ」
「おはよう。そんなに慌てなくても大丈夫よ」
 母はにこにこと笑って慌てるノアに声をかける。
「母さんっ、かご、かごちょうだいっ!」
「はいはい」
 それじゃあお願いねと微笑む母に「まかせてっ」と返事をしてノアは森へと駆け出した。あの日よりも高く昇った太陽を感じながら目的の場所まで駆け抜ける。一度一人で来ていたためか、足は迷うことなくブルーベリーの木を目指した。
「はぁ、はぁ……っ」
 枝先が頬を掠ったのも気にせずにノアは走った。暫くすると見覚えのある青々とした木々と紫色の実がノアの視界に入る。
「あっ……たぁ……っ!!」
 はあはあと肩を揺らして膝に手を置く。額に汗が流れるのを感じながら辺りを見渡すも人影は見当たらない。矢張り遅かったのだろうか。いや、そもそも来ていない可能性もある。ノアとしては約束した手前、待たせていたらと考えるよりも後者の方が幾分気持ちが楽だった。もしかしたらからかわれていたのかもしれない。だけども不思議にもそんな人には思えなかった。けれどもここにディランがいない事実はかわることなく、ノアはよしっ、と気持ちを切り替えてブルーベリーを摘み始めた。半分ほど摘み終えた頃、がさりと落ち葉を踏みしめる音がノアの耳を掠めた。その音にノアは手を止めて音のする方へと意識を向ける。寝坊したとはいえまだ朝は早いと、まさかと思いながらも音のする方から身を隠そうと辺りを見渡すも隠れられそうな場所は見当たらない。どうしようと焦っていると、がさりと目の前の木が揺れて見知った人物が現れた。
「あ、やっぱりいた」
「デ、ディランさん……!?」
 まさかの登場にノアは安堵したと同時に驚き、思わず大きな声をだしてしまい、慌てて口を片手で塞いだ。
「ディランさんですよ」
 あはは、と笑いながらノアの側まで歩み寄ると驚いた表情のまま見上げてくるノアの頭をぽん、と叩いた。
「あ、あの……っ」
「ん?」
「あの、この間は村の近くまで送ってくれてありがとうございましたっ! それから遅くなってごめんなさいっ!!」
 ノアは勢い良くディランに頭を下げながら寝過ごしてしまい時間を守れなかったことを謝った。
「ああ、そんなこと気にしなくていいよ」
 寧ろよく来たねと笑うディランにノアは下げていた顔を上げてディランを見上げた。
「え? なんでですか?」
「ん? だって俺がいうのもおかしいけど、怪しいとか思わなかったの?」
 仔犬にでもするようにノアの髪の毛を撫でるディランにノアは何でそんなことを言うのだろうと不思議そうに「思わなかったですよ」と返した。
「ここに着いてディランさんがいないとわかった時は正直からかわれたのかなぁって思いたかったですが……」
「思いたかった?」
「なんだろ……初対面なんですがディランさんはそういうことはしなそうだなぁと」
 んー……なんと言ったらいいのだろうとノアは小さく唸る。
「もしかしたらディランさんは来てくれていたのにボクが時間を守れなかったから帰っちゃったのかなぁって……」
 それはあまりにも失礼だと、それならばからかわれていたという方が良かったなぁと思って、と素直に伝えるノアにディランはぱちりと瞬きを一つ。
「……そうかぁ」
「はいっ。それに今こうして会えましたし」
 ふふ、と嬉しそうに笑うノアをディランは瞳を細めて頭をなで続けた。
「遅くなってごめんね」
 ディランの言葉にノアは首を横に振る。
「ブルーベリーは摘み終わった?」
「えっと……もう少し摘みたいなぁと……」
「そう。なら待ってるよ」
 ノアをまた村まで送らないとね、とからかう様な口調で言われてノアは「今日は大丈夫ですっ」と自信満々に言うノアにおや? とディランは首をかしげた。
「今日はえらい自信があるようだ」
「ちゃんと失敗を生かして今日は……あ、」
「どうしたの?」
 ノアは目印用にリボンを用意していたが、寝坊して走っていたためにそれらは使われることなくかごのそこで眠っている。
「あ、あのですね……」
「ん?」
「……笑わない、ですか?」
「それは内容によるなぁ」
 すでに笑いかけているディランにノアは絶対に笑われると思いながらも素直に目印用にリボンを用意したが慌てていたため使わずにここまで来てしまったことを伝える。
「あはは、そうかぁ、それは残念だね」
「笑わないでくださいっ!」
「いやぁ……うん、そんな時もあるよ」
「全然なぐさめになってないです」
 笑われて悔しいと思いながらも楽しそうなディランにノアははあ、と溜め息を吐いてブルーベリーを摘むのを再開した。
「ディランさんは?」
「ん?」
「ディランさんも遅かったですよね?」
 ノアは自分が遅くなったのを棚にあげて仕返しとばかりにディランに言えば、ディランは意地の悪い笑みを浮かべた。
「ああ、俺はまた誰かが迷子になってないか心配になって周辺を少し探していたんだよ」
 にこにこと笑うディランにノアは「遅くなってごめんなさいっ!」と勢い良くディランに頭を下げて、その勢いで持っていた籠も斜めになり摘み取ったブルーベリーが溢れ落ちた……と思ったが、それらは地面に落ちることはなく、するりと薄い水の膜の様なもので掬われて籠の中に戻っていった。
「あぶなかったね」
 何でもないような顔でディランは気を付けてねと笑っている。
「……ディランさんもタレントの持ち主?」
「そうだよ」
「じゃあ、王都で暮らしているの?」
「んー……どこの王都にもよるかと思うけど、まあそんな感じ」
「……そうなんだ」
 王都からここは遠くない? と言いかけて力の持ち主たちと何も持たない自分ではそもそもが違うから愚問だなと思いやめた。
「も、ってことはノアの知り合いにもいるの?」
 この世界においてタレント持ちは貴重だ。
「えっと、兄がそうで最近王都に行ったんだ」
「ふぅん」
 ディランは興味なさそうな返事をし、ノアは? と訪ねられて首を横に振る。
「ボクは持ってないよ」
「持ってない方が普通だよ」
「うん」
「お兄さんいなくなって淋しい?」
「うん」
 こくり、素直に頷くノアにディランは手招きをする。籠を抱えたままディランに近づくとそっと頬を指先で撫でられる。
「顔に傷なんて付けて帰ったら心配されるよ」
 ほんのりとした温かさを頬に感じ、そういえば枝にかすったことを思い出す。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
「ノアさえ良かったらまたここにおいで、って言っても暫くはブルーベリーを摘みに来るのかな」
「うん」
「それじゃあまた会えるね」
「ディランさん忙しい人でしょ?」
 王都に住んでいるタレント持ちは国民のためにと様々な役割を担っていて多忙だと聞く。そんな人が自分みたいなのに時間を割くのは迷惑以外のなにものでもないだろう。
 ディランはそんなことないよとノアの頭を撫でる。
「俺がノアにまた会いたいから」
「ボクに?」
「そう。ノアに」
 にっこりと微笑んで、ノアが約束を守ってくれればまた会いたいなと耳の形を確認するかの様に撫でられる。
「っ、」
「ああ、ごめん」
 擽ったかった? と笑うディランにノアは小さく頷くとディランの指先が耳から離れる。
「ノアは?」
 ノアは俺にまた会いたい? と尋ねられて素直に頷く。イーサンが王都に言ってしまって淋しい気持ちは勿論あるが、ノアはたった二回だけどもディランとの時間は楽しかった。にこにこと笑みを絶やさず、優しいかと思えばからかってきたりと不思議な魅力がある人だと思う。
「ボクもまた会いたいです」
 素直に伝えれば、ディランは嬉しそうに笑ってそれじゃあまた来週、同じ時間に同じ場所でとノアに告げた。
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