勇者の弟が魔王の配下に恋をした

しょうこ

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再会1

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 さて、ノアの周辺は王都からの報せがはいる度に魔物は恐ろしいものだ、排除すべき存在だという声が強くなっていた。当初の調査という名目が討伐に変わるのも時間の問題なのかもしれない。
「ねぇ、イーサンからの手紙は来てない?」
「残念ながら届いてないわ」
 母も少しだけ淋しそうに、けれどもノアを安心させようと笑顔を浮かべる。
「そう……」
すると外から帰宅した父がノアと母にただいまと声を掛け、「うちの森の近くにも魔物がでたらしいぞ」と母に伝えた。
「いやだわ……ノア、気を付けなさい」
「うん……」
 あれからというもの、魔物の目撃情報が日に日に増え、今ではノアの住む村の近くにも出没するようになってきた。幸いこの村には被害はでていないが、それもいつまでかはわからない状況になってきたと大人たちが話しているのをノアは知っている。
 今までこんなこと一度もなかったのに、調査に入ってからおかしくなっているのだとノアは思う。けれどもそんな事を言えるはずもなく、ただ大人たちが話しているのを遠巻きに聞いているだけだった。
 始めの頃は人の形をしてるだの狼のようだの姿一つで囃し立てていたが今ではもうそんな話はなかった。魔物たちの姿は鳥の様な姿に猿の様な長い手足をもったものまで様々な形をしていた。
 父が母に集会所で聞いたのであろう報せを伝えているのをノアは確認しながらそっと家を出て行った。
 どこにいても魔物の話しばかりでノアは正直うんざりしていた。魔物がでた、負傷者がでた、魔物は危険だの繰り返しで肝心のウーラノス国についてはさっぱりだった。ただ様々な姿をした魔物がいるということがわかっただけ。大勢の人たちが怪我をしてまで得た情報にしては随分と些細だ……なんて何も知らないくせに偉そうなことを考えてしまう。国の偉い人たちはウーラノス国のことを調査して何が目的なのだろう。調査から討伐へと変化しかけている情勢に、元々の理由は何なのだろうか。本当に調査だけ? と疑問が浮かび上がってくる。けれどもノアにどうこうすることは出来るはずもなく、日々届く国からの報せに溜め息を吐くだけだ。
「はぁ……」
 気が付けば村の外れにある高台へと登っていた。そこは村を僅かに見下ろし、それでいて森を一望できる最近のノアのお気に入りの場所だった。
ディランと会えなくなってから季節が半分程過ぎただろうか。ディランと会っていた頃は森は青々とした葉に甘酸っぱい実が実っていたが、今はところどころに枝がむき出しになり、赤や黄色の葉が森を彩っている。随分と雰囲気が変わるものだと森を見下ろした。
 季節が変われども自分はというも何も変化はなく、ただ待つばかりの日々だ。今のノアにとってイーサンの手紙も、ディランもとても遠い存在だ。
「ただ待つだけってこんなに辛いものなんて知らなかった……」
「何をそんなに待っているの?」
「え?」
 突然の声にノアは驚いた。自分一人しかいないと思っていたのに、いつの間に誰か来ていたのだろうか。だけどそれよりもとても聞き覚えのある声が「会いにきたよ」と微笑んで立っていることが信じられなくてノアは言葉を失う。これは夢だろうか、なんでこんなところにいるのだろう。
「ノアが待ってたのが俺だったら嬉しいなぁ」
 一歩、また一歩と近付いてノアの目の前までたどり着く。
「……ノア?」
 何も喋らないノアを不審に思ったのか、膝を曲げてノアの視線に合わせて顔を覗かれる。
 透き通る様なアイスブルーの瞳がノアを写す。
「……ディランさん……?」
「ディランさんですよ」
 恐る恐る尋ねるノアにディランはにっこりと笑って返す。
「ほ、ほんもの?」
「ニセモノがいるなら会ってみたいなぁ」
「な、なんでここに……?」
「ん~……ノアに会いたくて」
 ぎゅう、と抱き締められてその存在を実感する。
「ほ、ほんものだぁ……」
「あはは、ほんものですよ」
 久しぶりのノアだぁ……なんて声がノアの耳を擽る。ふわふわと髪の毛の感触を楽しむ様な動きも、優しい声もノアがずっと待っていたもので、なんで、どうしてという気持ちはどこかにいってしまった。ノアもディランの腰に腕をまわしてぎゅうと抱き締める。温かくて心地好くて、ずっとこうしていたい気持ちだ。
「おじいちゃんよくなったの?」
「ん?」
 お互いに抱き締め合ったまま、ノアが質問するのにディランが首を傾げた。
「おじいちゃんの面倒見るって」
 ノアの言葉にディランは「ああ、それね」と笑って「残念ながらまだなんだよねぇ」とわざとらしく大きな溜め息を吐いた。
「おじいちゃん具合悪いの?」
 段々苦しくなってきてノアはそっとディランから腕を離すと、ディランも名残惜しそうにしながらも素直にノアを解放してしてくれた。
「ああ、別に具合が悪くて面倒をみているわけじゃないんだ」
「そうなの?」
 不思議そうにするノアにディランは「おじいちゃんから色々頼まれごとをしててね、その諸々がねぇ……」
 ほんと面倒臭くてさぁ……とうんざりとした態度に疲れが見えてノアの知っているディランらしくなくて思わず口許が緩んだ。
「あ、笑ったでしょ」
「ごめんっ なんかディランさんでもそんな感じになることがあるんだと思ったら」
 意外だなぁと笑うノアにディランも楽しそうに笑って、「じゃあ、ノアの中の俺ってどんな感じ?」といつものちょっとだけ意地の悪そうな笑顔を浮かべた。
「んー……頼りになって優しくてよく抱き着いてきて、たまに意地悪になって、何となくいつも余裕そうな感じがする」
 「……最後の二つはいらないんじゃない?」
「イメージだから」
 ディランの返しにノアがくすくすと笑うのに「あとかっこいいがないよ」と冗談めかして言う。
「あっ」
「あ?」
 そうだったと大きな声を出すノアにディランも真似て続きを促すと、「それもだっ!!」と満面の笑みで、何故か自信満々にいい放つノアにディランは少しだけ驚いて、それから愛おしそうに瞳を細めてノアの頭を撫でた。
「ほんとノアには敵わないなぁ」
「なにが?」
「ノアはすごいってこと」
 よしよしと、相変わらず犬猫にするように撫でるなぁと思いながらも嬉しい気持ちもあって、ノアは素直にされるがままになる。
「また直ぐ会える?」
「会いたい?」
 からかう様な口調で聞かれてもノアは気にすることなく「うん」と素直に頷く。ただじっと待っているのには飽きたのだ。
「ボクから会いたいって思うのは迷惑? どうしたら前みたいに会うことができる?」
 森には入れない、今日この出会いだってもしかしたら偶然かもしれない。ならば今度は自分から行動あるのみだ。
「ただ待つだけなのは少し淋しいよ……」
 ずっと、ずっとノアは待っていたのだ。もしかしたらもう会えないのかもしれないという不安を抱えながらもディランの言葉を信じていたのだ。
 だけども何も言わないディランにノアはやはり迷惑だったのだろうかと、ディランの顔が見れなくて下を向く。相変わらずディランは服装から靴までノアとは比べ物にならない程の質の良いモノを身に付けているなぁと、拒絶されるのではという思いを誤魔化すように違うことを考える。
 だけども相変わらずディランは何か考えているのか何も言わない。普段あれだけよく喋るのに大事な時だけだんまりだなんてずるい。
「……わがまま言ってごめん……」
 沈黙に耐え兼ねてノアが笑顔を浮かべる。随分とぎこちない不細工な笑顔になってしまっただろうが困らせるよりはマシだ。困らせちゃったねと、下手くそな愛想笑いを浮かべながらディランを見上げると、ノアが想像していた様な困った様子ではなく、顎に指をあてて何やら考えている様だった。
「……ディランさん……?」
 ノアの視線にも気付かずに黙ったまま考え込んでいるの姿に不安が一気に膨れ上がる。そんなに自分から会いたいと言うのはいけなかったのだろうか。
「あ、あの……っ」
 何と言えばいいだろうか、嘘だと誤魔化した方がいいのだろうか。ノアはぎゅ、とディランの服の袖を掴んだ。
「う、うそだからっ……困らせてごめんなさい……」
 だからもう会わないとか言わないで。ちゃんと会いに来てくれるのをこれからも待ってるから。
 ノアはきつく瞼を閉じてディランの言葉を待つ。
「……ああ、ごめんノア」
 余計な心配をかけちゃったねと優しく頭を撫でられる。
「ノアから会いたいと言ってくれて嬉しいよ。ただ、どうすればいいかちょっと考えていただけ」
 考えてごとするとつい集中しちゃって周りが見えなくなるの悪い癖なんだよね、心配かけてごめんねとディランが微笑みながらノアの頭をこれでもかと撫で繰りまわす。
「ち、ちょっ……っ!!」
「あははぐちゃぐちゃ」
「ディランさんのせいだよっ!?」
「そうだね」
 俺のせいだねと何がそんなに嬉しいのだろうか溢れんばかりの笑顔でノアの頭を撫で続ける。
「ノア、これは内緒のお話だよ」
 撫でていた手を止めるとディランは人差し指を口許に当てて瞳を細めた。
「ノアの村も森に入るのは禁止されてるだろう?」
 その問いかけにノアは頷く。
「俺に会いたくなったら名前を呼んで」
「名前……ディランさんの?」
「そう」
 ゆっくりと頷いて「ノアに魔法をかけてあげる」と微笑む。
「ノアの声がいつでも俺に届くように」
 タレント持ちはそんなことも可能なのだろうか?ノアの疑問が顔にでていたのか、「その顔は信じてないな?」とディランが笑う。
「ほら、目を閉じて」
 疑いながらも素直に瞼を下ろすといいこだねとディランの優しくて甘い声がノアの耳を擽る。ふとした時にでる、そのディランのキャンディーが溶けた様な声が苦手だ。何故だろうかすごく恥ずかしくなるのだ。
 そっと頬をディランの指先が撫でて鼻の頭を擽られる。魔法ってどんなのなんだろう。ディランの指先に意識を向けていると、ふに、と柔らかいものがノアの唇に触れた。
「へ?」
「あ、目開けちゃった?」
 ふふ、と笑うディランにノアは何が何だかわからなくて呆然と見つめてしまう。
「そんなに目を見開いていると瞳がこぼれちゃうよ?」
「え? ……へ??」
「ん?」
 ディランがどうしたの? とノアのリアクションを不思議そうに問うにノアは声を荒げた。
「い、いい、今のってっ!?」
「ノアの声が俺に届くように魔法をかけてあげるって言っただろう?」
 もう忘れちゃったの? なんて何でもないように言われてしまい、慌てていたノアの方が間違っている様なそんな恥ずかしさが込み上げてくる。
「あ、そ、そうなんだつ!!」
動揺しているのを悟られまいと普段よりも大きな声がでてしまったのは仕方ない。
 そんな様子にディランは口許を隠しながら「ほんと素直でこっちが心配になるよ」と呟いたのを、ノアは気付くことはなかった。
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