勇者の弟が魔王の配下に恋をした

しょうこ

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邂逅3

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燃え盛る炎を前にノアはぺたりと地面へと座りこんでしまう。低い悲鳴にも似た音をたてながら燃え盛る炎をただ茫然と見つめているとイーサンの手が肩に触れた。
「大丈夫? 怪我は?」
「……イーサン……なんで……?」
 火を止めてよ……ディランさんが死んじゃうよとノアが口を開くと同時、ざぁ、と激しい音を立てて雨が突然降りだした。
「!?」
 突然の雨。それもかなり強い雨は周辺の炎を瞬く間に消していき、辺りは水蒸気だろうか、白い煙の様なものに包まれてた。炎が消えたことに安堵しながらもあまりにもタイミングの良い、不自然な雨はディランの仕業なのだろうか。
「っ!!」
 ぶわり、本日何度目だろうか。雨が止み、強い風が辺りにかかる靄を霧散させるとディランがこちらを見ていた。
「ノアには傷一つつけるなよ」
「御意」
 去ったと思ったヒューゴがディランの前に立っている。いまいち感情の読めない表情でディランはイーサンを見下ろしていた。
「ノアッ! 下がって!!」
 イーサンの叫びと同時にひゅ、とナニかがノアとイーサンの間を裂いた気がした。
「え?」
 どんっと大きな音がして、先程までディランの前にいたヒューゴがノアの目の前に立っている。イーサンと、自分を庇う様にしていた彼はどこに行ったのだろうか。
「ノアッ!!」
 イーサンの声のする方へと振り向こうすると「ノア様」と、落ち着いた声がノアの耳を掠めた。
「こちらに」
 恭しく手を伸ばされても状況の理解ができないノアは差し出された手を見つめるだけで、どうしてよいのかかわらなかった。
「あ、あの……」
「ディラン様よりお話しがあるようです」
「弟に触るなっ!!」
 イーサンの声とヒューゴの声が混じり合いノアは益々動けなくなった。頭の中が真っ白でどこか非現実的な状況にヒューゴの手からディランへと視線を移した。
「……ディランさん……」
 掠れたノアの小さな声が届いたのか、ディランも視線をノアへと向けたが離れていて表情はよくわからない。なんで、どうしてと、聞きたいことが沢山あるのに喉が震えて声が出せなかった。
「参りましょう」
 ヒューゴの声に意識が正面へと戻る。なかなか手をとろうとしないノアに焦れたのか、ヒューゴはノアの手首を掴むと腰を抱き寄せて抱える様な動きをした。
「え?」
「確り掴まらないと落ちますよ」
「へっ!?」
 ふわり、ヒューゴに抱き抱えられてノアの足が地面から離れていく。
「え、ええっ、ま、まっ……!?」
 浮いてるっ!? と慌ててヒューゴの胸に捕まろうとした瞬間、もう何度目かもわからない衝撃にノアとヒューゴの身体が揺れて地面へと強い力で引き戻された。
「いたっ!!」
 ヒューゴ以外側にいなかったのに、何かに押される様にして地面へと押し戻された身体が転げ落ちる。
「弟くんごめんねっ!!」
 地面に倒れ込んだまま、声のする方へ視線を向けると先程イーサンと共に吹き飛ばされた彼が目の前に立っていた。片腕にぱっくりとした切り傷があり、痛むのだろうその場所を反対の手で押さえている。
「……邪魔ですね」
 はぁ、とヒューゴが溜め息を吐いて右手を振り下ろすと同時、またしても目に見えないナニかがノアと彼の前に勢い良く飛んでくる気がしてノアはきつく瞼を閉じて衝撃に耐えた。強い風がノアの横を掠めるも、先程の様に彼が吹き飛んでいくことはなかった。その代わり大きな風船が破裂した様な音が響き渡りノアの顔が歪んだ。
「弟くんっ! 大丈夫!?」
「ノア、今のうちにっ」
 焦った様子のイーサンが腕を掴むのにノアは「待ってよっ!!」と大声で制した。
「なんでっ!? なんで突然……っ!! ディランさんが何かしたの!? 話をしたいって言ってるだけじゃないかっ!!」 
 ノアが感情に任せて叫ぶのに対してイーサンは一瞬驚いた顔をして、それから「ダメだよ」と落ち着いた声でノアに言った。
「ノア、あいつは魔物だよ」
「……え……?」
 予想外の言葉にノアは言葉を失う。
「ただの魔物じゃない。魔王の側近だ」
「う、うそ……だ……」
 ノアはディランの方に顔を向けるも、ディランは静かに佇んでこちらの様子を窺っていた。
「……うそ……」
「嘘じゃないよ」
 ノアの言葉に反応するようにディランがノアの方へと近付いて来る。
「このっ……!!」
「おっと、炎を使うのは止めてくれないかい?」
 これ以上森が燃えてしまうのは君の本意ではないだろう? とディランは身構えるイーサンの肩に触れた。いつの間にこんな近くに来ていたのだろうか。イーサンは反射的にディランの手を振り払ってノアとディランの間に立ち塞がった。
「……ノアに何をした」
 今にも噛み付かんばかりに睨み付けるイーサンにディランは「なにもしてないよ」と返してからノアの名前を呼んだ。
「ごめんね」
 それだけ言うとディランはヒューゴに「帰るよ」と、ディランとヒューゴは止める間もなくこの場から立ち去って行き、残されたノアたちは茫然と立ち尽くすことしかできなかった。

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