勇者の弟が魔王の配下に恋をした

しょうこ

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邂逅2

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「ディラン様がいないとルーク様が仰っておりまして」
「帰ってこいと?」
「いえ、そのようことは」
「なら俺がどこで何をしてようと構わないだろう」
「……そう仰いましても……」
「ヒューゴ」
「……失礼致しました」
 ヒューゴと呼ばれた男は恭しく腰を曲げて頭を下げた。
「ごめんね、変なのが来ちゃって」
 ディランの言葉にノアはぶんぶんと頭を振ってから「あ、えと……」とヒューゴと呼ばれた男の方を見た。真っ黒な髪の毛に真っ黒な瞳、服装まで黒で統一されていてどこか近寄り難い雰囲気を纏っている。ノアの視線に気付いたのか、ヒューゴが「なにか?」と、ノアを一瞥した。
「な、なんでもないですっ」
「そうですか」
 取り繕く島もなく直ぐにノアから視線が外れてディランへと向けられる。
「東の方で少し不穏な動きがありましたのでご報告をと思いまして」
「え~……面倒臭いなぁもう」
 ディランにしては珍しく乱雑に頭を掻きながら「東ってここら辺もだよね」と確認するのにヒューゴは頷いた。
「ノア?」
 二人の遣り取りを見ていたノアの視線に気付いたディランがどうかした? とノアへと視線を向けた。
「あ、えっと……ディランさんって偉い人だったんだなぁって……」
「ん?」
「ディラン様って……」
「ああ、別に偉くなんてないよ。おじいちゃんに近い存在ってだけ」
「……おじいちゃんってとっても偉い人なの?」
「偉いというか……まあそれなりに?」
 何で疑問系なんだろうかと思いながらもヒューゴの射る様な視線が痛くてノアはこれ以上は聞けなかった。敵意、という感じまではないがどちらかというと嫌悪感の様な負の感情を隠すこともなく睨み付けられる。
「こら、ヒューゴ。ノアが怖がるだろ」
 そんなんじゃ嫌われちゃうよと話すディランにヒューゴは「問題ありません」とにべもない態度だ。
「ごめんねノア……」
 こいつ誰に対してもこんな感じなんだよねぇと困ったようにするディランにノアは「ボクがお仕事の邪魔しちゃってるし……っ」とフォローを思わず入れた。自分がディランを呼ばなければヒューゴもわざわざ探しに来ない訳で。ノアは原因は自分にあるのだからとヒューゴの方へと頭を下げた。
「寧ろボクの方がごめんなさい……」
 忙しいディランの時間を割いてしまっていることに改めて申し訳なくなった。ディランの言葉に甘えていたが矢張り連日会うのは良くなかったのだ。
「ノアは一つも悪くないよ」
 だから頭を下げちゃ駄目だよとディランがノアの頭を撫で、ヒューゴは少しだけ瞳を細めた。
「いえ、貴方はさほど悪くはないかと。ディラン様が無断で外出しているのが問題ですので」
 お気になさらずにと無表情で、けれどもノアに「ですが、直ぐに自分に非があるのではと言葉にされるその素直さは好感に価します」と表情はそのままだが、何となく纏う雰囲気が柔らかくなった気がしてノアもヒューゴの言葉に照れ臭そうに笑った。
そんなノアの様子にディランは面白くないとばかりにノアを抱き寄せた。
「醜い嫉妬は嫌われますよ」
「お前に言われたくはないんだけど」
 二人のやりとりを頭上で感じるも頬に触れるディランの体温の方がノアの意識を奪っていく。
「用件はそれだけ?」
「はい」
「もう少ししたら戻るって伝えてといて」
「かしこまりました」
 その声と共にまた風が吹いてノアの髪の毛がふわりと舞う。
「あ、あの……」
「ほんとごめんね」
 ノアが顔を上げるのにディランは眉を下げた。それに対して首を横に振ってディランが謝ることなど一つもないのだと伝える。
「この辺りも情勢が不安定になってきているから危ないと感じたら建物の中に逃げるんだよ」
 屋内なら安全だからねとノアの頭を撫でた。
「ディランさんは?」
「俺は大丈夫」
 心配してくれるの? と笑う声にノアは頷くと「ノアはほんといい子だね」と嬉しそうに微笑んだ。
「俺の心配なんてしてくれるのノアくらいだよ」
「そ、そんなことないと思うよっ!?」
「そんなことないあるんだなぁ」
 「さっきだってディランさんがいないって心配で探しに来てたしっ!」
「いやぁあれはやること増やしてんじゃねぇよと面倒臭そうだった」
「そんなこと……」
「あるんだよなぁ、あそこは」
 はぁ、やれやれと溜め息を吐く姿にディランは意外と苦労しているのかもしれないと感じた。ノアの前では飄々としていて笑顔を絶やさないディランだが、裏では色々と大変なんだなぁとディランを見上げた。
「なぁに?」
「意外と苦労してんだなぁって」
「なにそれ」
 あはは、俺ってばどんな風に思われてんのと楽しそうだ。
「いつも楽しそうなディランさんしか知らなかったから、色々と大変なこともあるんだなぁって。ディランさんの気付けなかった一面が知れてちょっと嬉しいかも」
「……あー……」
 ディランは言葉を詰まらせてノアを見下ろす。何となく照れている様な、ほんのりと目許が朱色に染まっている様に見えるのは気のせいだろうか。
「ディランさん?」
「……ノアはほんと予想を超えてくるね……」
 そっとノアを腕から解放するとくしゃりと前髪を掻き上げられた。
「俺もノアの新しい一面を知ると嬉しいからお揃いだね」
 にっこりと微笑まれてノアの心臓がばくばくと跳ね上がる。
「そ、そうなんだっ」
 心臓の音を誤魔化す様に思わず大きな声がでてしまい、ノアはこんな態度をとったらディランに何て思われるのか、心臓がばくばくと鳴っているのがバレてしまうのではと、何か違うことでも言わなければと口を開いた途端、空気が揺れた気がした。正確にはディランとノアの間に何かが斬り込まれた様な、不自然な揺れにノアの頭が一瞬真っ白になる。先程のヒューゴの時の様な風が吹いたのとは違う、明らかな嫌悪、あるいは敵意の様な胸をざわつかせるそれにノアの身体が動かなくなる。
「!?」
「ノアッ!!」
 誰が自分の名前を呼んだのだろう。見上げるとディランは今まで見たことのない表情でノアの方へと腕を伸ばしていたがその突如、ノアの身体が後ろに引っ張られてディランの手が宙をきる。
「ノアッ!!」
 痛いほどに腕を引かれてノアの顔が痛みに歪む。突然のことに理解が及ばないもノアは必死で自分の腕を掴んでいる人物を見ようと後ろを向くと、腕を掴んでいる男の背後によく知る、帰りをずっと待ちわびていたイーサンの姿があった。
「イーサンッ!!」
 一体どうしたというのだ、ノアはイーサンの名前を呼ぶもイーサンはノアの声に気付いていないのか、正面を睨み続けている。
「弟になんの用だ」
 イーサンの強い怒気を含んだ声が森の入り口に響き渡る。
 ノアはディランから隠す様に見知らぬ男の背に庇われ、未だ混乱したままディランとイーサンを見比べた。
「……やだなぁ……ノアのお兄さんって君だったの」
 ディランはふわりと浮き上がるとイーサンを見下ろした。いつもの笑顔が消え失せて冷めた表情を浮かべている。
「……ディラン?」
「ノア、少し話を聞いて」
「貴様と話すことなんかないっ!!」
 ノアがこたえる前に後ろでイーサンが吠えると、目の前に勢いよく熱い炎が壁の様にして立ち塞がった。
「っ!?」
「ディランさんっ!?」
 突然の炎によってディランが視界から消え、イーサンの方を振り向けば怒りに満ちた表情で炎の壁を睨み付けている。
 ノアはこれはイーサンの仕業だと直感的に理解して「やめてっ!! 火傷しちゃうっ!!」とイーサンに向けて叫んだが、イーサンにノアの声は届いていないのか炎の壁はどんどんと強くなるばかりだった。
「っ、ディランさんっ!!」
 ノアは咄嗟に炎の壁へと手を伸ばすも「危ないっ!」とまたしても男に腕を捕まれてその胸に庇うように抱き抱えられた。
「やめてっ!!」
「大人しくしててっ」
「どうしてっ!!」
 ノアは必死で男から逃れようと身を捩るも体格差もあってかその腕から逃れることが出来なかった。
「やめてっ! イーサンやめてよっ!!」
 ノアは必死で叫ぶもイーサンは炎を緩めてくれない。それどころかいつの間にか居たイーサンと似た年頃の人が何か呟くと大きな風が舞って炎が巻き上がる。
「……え……」
 あまりにも非日常な光景にノアは言葉を失う。このままいけば森は焼け野原になってしまうのではという程に炎は勢いを増して広がり空へと立ち上っていく。こんな炎、ディランとて無事では済まないだろう。
「……なんで……」
 圧倒的な炎にノアは抵抗する気力が消える。なんで突然こんな酷いことをするのだろう。ディランが何をしたというのだ。
「ひどい……」
 ノアの瞳から一滴の涙が零れる。
 なんで、どうして、ノアはイーサンの方へと顔を向けて「なんで……イーサンなんでだよ……っ」と力なく呟いた。
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