勇者の弟が魔王の配下に恋をした

しょうこ

文字の大きさ
24 / 32

深夜のティータイム3

しおりを挟む
「ノアちゃんは普段なにしてんの?」
「ボクですか……?」 
 ノアはケーキを口に運びながら考える。正直に言えば人に言えるようなことは何もない。
「父の手伝いとか……」
「えらいっ!! ノアちゃんえらすぎっ!!」
 だけどもキアーラは食い気味にノアのこたえに大袈裟なほどに頷いてミルクおかわりいるっ!? とカップを指さしてくる。
「あ、いえ、その……」
「ノアの父は何をしている?」
「あ、えっと……農作業を……」
 キアーラがおかわりのミルクを足しながら、ルークは頷きながら「人の営みにおいて重要なことを担っているのだな」とお茶を飲んでいる。
「あの、二人は……その……」
「なぁに? お姉ちゃんにいってごらん?」
「何か気になることでもあるのか?」
 ノアの言葉にそれぞれノアに視線を向けて言葉を待つ。その視線が優しくて、人に害をなすと言われている魔物とは程遠く感じてノアは意を決する。
「ひ、人、食べたり……するんですか……?」
 ディランにキスをされたことを思い出す。あれは何の意味があったのだろう。油断させたところで食べるつもりだったのだろうか。
 ノアはぐっと瞳を閉じて二人のこたえを待つが、暫しの沈黙が続いた。
「……えっとぉ……、ノアちゃん……それ、誰に言われたの?」
 沈黙を破ったのはキアーラだった。ノアはキアーラの言葉に小さく首を振って「言われてないです…」と否定した。
「あの、その……ボク……」
 ノアは誤解されないように何か言わなければと口を開くもルークが「嘘だな」と一蹴した。
「……え?」
「ノアがどうしてそう思ったのが分からないが、俺たちは基本人は食べない」
「うん、美味しくないし」
 キアーラが同意する。
「人よりも野菜よりもケーキとか甘いものの方が私は好きだよっ」
 ぎゅ、とノアを抱き締めて「もちろんノアちゃんもっ!」とキアーラが笑う。
 そういえば魔物と言われる人たちはよく笑うなぁとノアはキアーラの胸の中で思った。そして何でだろうか、この二人の言葉に嘘は感じられなくてノアは「ありがとうございます」と少しだけ照れ臭そうにする。
「……ノアちゃんは、どうしてそう思ったの?」 
「……言わないとダメですか?」
「ダメじゃないけど、キアーラお姉さんは知りたいなぁ?」
 ノアちゃんをいじめるやつは懲らしめてやろうと腕捲くりをするキアーラに、それに同調するようにルークが頷く。
「えっと……その、実はお二人とは違う人なんですけど……」
 魔物のことを人と言っていいのだろうか悩んだが、目の前の二人とディラン、それにヒューゴも魔物というよりも人という言葉の方がしっくりする。
「……その、以前お二人のような存在だとは知らなくて……それで、その、仲良くしてもらってる人に、き、キスを……っ」
 自分で言っときながら恥ずかしさにきつく目を瞑って下を向く。確認せずとも分かる程に顔が赤くなっているのを感じた。
「あ、あれって味見とかだったのかなぁ……と思って……」
 言っていて悲しくなるのは何度目だろうか。勝手に期待してドキドキして……、と思ってからノアはふとなんで自分はディランに騙されていたと思っているだろうかと考えて、イーサンの仲間の言葉を思い出した。

 魔物は人を騙すのだと。

 本当にそうだろうか。ノアは目の前の二人を見た。ルークは相変わらずの無表情だがキアーラは笑顔を浮かべてはいるが何となく纏う空気が不穏だ。怒っているのような、呆れているのような複雑そうに頭を抱えていた。
 ノアの言葉にこんなにも何かしらを感じてくれているのに、いくらイーサンの仲間とはいえあの人の言葉を何故鵜呑みにしたのだろうか。どうして目の前の、自分の目を信じることができなかったのだろう。それはきっと魔物という言葉のせいなのだろうと、ノアは霧が晴れるような気持ちになった。
「あ、あの……っ!!」
「なんだ?」
ルークが相変わらずの無表情で、だけどもその声は柔らかい。
「ボクは自分の見たこと、感じたことを信じたいと思いますっ!」
「……そうか」
 突然のノアの宣言にも関わらず、ルークは気にせずに少しだけ笑ったような気がした。
「ボクは以前ルークさんの問い掛けにわからないとこたえました。怖いとか、怖くないとかではなくて、ボクは信じれるか信じられないかで悩んでいました」
「……ふむ」
「だけど、今は違います。誰かの言葉よりもボクはボクを信じたいです」
 だって、魔物とか魔物じゃないとか関係ない。ディランさんはボクにとって大切な人だ。それなのに魔物だと知って勝手に騙されたとか失礼だ。あの時ディランさんはボクに何か言おうとしてたことを思い出す。それに目の前のルークさんは多少強引ではあるけれど、ずっとこちらを気にかけてくれていた。キアーラさんも初対面なのに。これでもし騙されていたとしても、それは騙されたボクが悪いだけだ。
 ノアはぎゅと掌を握りしめて「だから、ボクは二人のことが怖いとか思わないし、さっきの質問も失礼でしたっ!」
 ごめんなさいッ! と勢いをつけて謝るノアにルークは「気にすることはない」と微笑んだ気がした。
「いやいやいやそれよりもノアちゃんっ! お姉ちゃんもうちょっと聞きたいんだけどっ!?」
 キアーラはキスっ!? ノアちゃんキスってほっぺ!? それともお口!? と何故だろうか興奮気味に尋ねてくる。
「あ、えっと……」
 キアーラの勢いに負けてノアは素直に「く、唇はまだないです……っ」とこたえると、がんっ、とキアーラが勢いよくテーブルを叩いた。
「……殴りてぇ……わたしのノアちゃんを……ッ!!」
「あ、あの……?」
 自分はいつからキアーラのものになったのだろう?
「あいつ稚児趣味なんかあったの!?」
「ふむ、ノアは違う意味で食べられてしまうかも知れない……」
「ルークはだまっとけっ!!」
 ルークが何か言い終わる前にキアーラが大きな声で制する。それからノアの方を向いて両肩を力強く掴まれた。
「いやなことはいやって言うんだよ?」
 心配そうに顔を覗かれてノアはその瞳に嘘はつけなくて「い、いやじゃなかった……です……」と正直に話してしまう。
「ほぉ」
「ルークッ」
 お前は喋べるなと睨み付けるキアーラにルークは少しだけ眉を寄せてお茶を飲んだ。
「……ノアちゃん……ケーキおかわりは?」
 この話しは終わりだとキアーラが強く瞳で訴えてくるのでノアは気圧されて小さく頷いた。
「よし、おっきく切ってあげよう」
 キアーラがケーキを切り分けるのを見ながらノアはキアーラの過剰なまでの反応に言ってはいけなかったのかと反省した。人でないとはいえ女性にする話題ではなかったと、ノアは申し訳なくて小さく「ごめんなさい……」と謝った。
「……ノアちゃんはなにも悪くないよっ! 私もちょっと過剰だった! ごめんねっ!!」
 ノアの呟きに気付いたキアーラが困ったように笑いながらも「予想外に手が早くてさぁ……あの野郎……」という呟きはノアの耳には届かずに消えた。
「……みなさんはそういうことって普通にするんですか?」
 ボクは家族とはするけど家族以外にはあまり……と話すノアにルークは少し考えてから「それは一種の愛情表現だ、だから人によるのではないか?」と、こたえにならないこたえにノアは「そうですよね」と笑った。
「へんなことを聞いてごめんなさい」
「構わない」
「いや、構えよ」
 キアーラがケーキのおかわりを差し出しながら「この話しはおしまいっ!」と髪の毛を触った。 
「あの、今更なんですが……」
 ノアは話題を変えようと新しく手元にきたケーキを一口食べる。
「ここってウーラノス国、のどこかですよね……?」
「そうだ」
「待って、それすらも知らないまま連れて来られてるの!?」
 キアーラの言葉に素直に頷くとキアーラは「うちのおじいちゃんがほんとごめん……」と頭を抱えた。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました

水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。 世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。 「見つけた、俺の運命」 敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。 冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。 食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。 その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。 敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。 世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処理中です...