短い恋のお話

愛理

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「君の為なら」

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    僕は君の為なら何処にいても君の元へ駆けつけるよ。
 だから、何かあったら遠慮なんかしないで僕を呼んで。

 どうしても彼女のくるみに会いたくなって、運よく仕事が定時で終わったので、くるみが1人暮らしをしているマンションに行くことにした。
 俺とくるみは2年前、お互いに24歳の時に共通の友達を通じて出会い、すぐに恋に落ちて恋人同士になった。
 今はお互いに1人暮らしをしていて、合鍵を持ちあっている。
 勿論、いずれは結婚しようとも言っている。
 でも、今はもう少しだけお互いに独身を楽しもうということで恋人同士のままでいる。
 でも、くるみは人に甘えるのが凄く苦手だから、1週間くらい電話もメールも来ない時は何かあったんじゃないかと心配になって、俺はいつもくるみに会いに行くようにしていた。
 本当は今回、くるみに凄く会いたくなったのもそれでだった。
 今までの経験上、そんな時は必ずと言っていいい程、くるみが辛い時とかだったから。

 俺はくるみのマンションに着いて、くるみの部屋のチャイムを鳴らした。
 だけど、チャイムを何回か鳴らしても出てこないので、俺は合鍵で中に入った。
 すると部屋は何処も真っ暗で、まだ仕事から帰ってないのかなと思いながら部屋の電気のスイッチを入れた。
 俺が今電気のスイッチを入れた所はリビングルームだったけど、そこにはやはりくるみの姿はなかった。
 やっぱり、帰ってないのかな?
 俺はそう思いながらも今度は寝室に向かった。
 そして、また、電気のスイッチを入れた。
 するとそこにはベッドに横たわるくるみの姿があった。
「くるみ?」
 俺がそう呼ぶとくるみがぴくっと動いた。
 くるみはドアの方に背を向けて横になっていた。
 くるみはゆっくりと俺の方を向いた。
「勝也?」
「いたんだ。何度もチャイム鳴らしたんだけど。でも、こんな時間から寝てるなんて、具合悪いのか?」
 今はまだ夜の7時だった。
 くるみは俺の問いかけに左右に首を振った。
「じゃあ、何かあった?」
 俺がそう言うとくるみはコクンと頷いた。
「いつ、何があったんだよ?」
「1週間くらい前、仕事で大失敗しちゃった。で、今、その尻ぬぐいの途中で……何か凄く疲れちゃって寝てた」
「だから、俺が電話してもメールしても返事してこなかったのか」
「うん、だって、勝也の声とか聞いたら泣いちゃいそうだったから」
 最後は少し消え入りそうな声でくるみは言った。
 俺はそんなくるみの頭を優しく撫でた。
「ばーか。いつも言ってるだろ。俺には強がらなくてもいいんだって」
「……うん」
「俺達、近いうちに結婚するんだから、気なんて遣わなくていいの」
「……うん」
「何かあったのなら、俺がいるんだから、すぐに俺に言えよな。そりゃスーパーマンじゃないから、何とかできないこともあるけど、くるみのこと甘やかしてやることくらいはいつだって、できるからさ」
 俺がそう言うとくるみは何だか嬉しそうに笑って、起き上り、俺の首に両腕を回して抱きついてきた。
「うん、ありがとう。これからは辛いこととかあったら、すぐに勝也に言うことにするね。そして、勝也に沢山甘やかせてもらって元気出すね」
「もう、いつも言ってたのにやっと解ってくれたんだな」
「うん、ごめんね。性格なのか素直になれなくて。でも、今日は凄く勝也に甘えたいと思った。勝也がいてくれて本当に良かったって思った」
「何、それ、今までは俺には頼ってなかったってこと?」
 俺がそう言うとくるみはまた笑って、
「違うよ。勿論、今までもずーっといてくれて良かったって思ってたよ。ただ、私が自分を曝け出すのが怖かっただけなの。でも、これからは弱音もぶつけるから、受けとめてね」
「ああ、勿論。それから、くるみ、本当に近いうちに一緒になろう。そしたら、くるみに何があっても、いつでもすぐに俺が甘やかしてあげられるからさ」
 俺がそう言うとくるみはさっきよりも、もっと嬉しそうに笑って、
「うん、そしたら、私、きっと、辛い時なんて一瞬で吹き飛んじゃうね」
 そう言い俺にキスした。

 そう。
 僕は君の為なら何処へでも行くし君を元気づける為なら、できることは何だってするんだよ。
                                                                END
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