「愛って何ですか」

愛理

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最終話「それが愛というもの」

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    悟は病室のドアノブに手を掛けたのを外して、後を振り返った。
 するとそこには不思議そうな顔で悟を見ている、しずくの姿があった。
 悟は目を見開いた。そして、しずくの元へ駆け寄る。
 そして、上半身を起こしている、しずくを強く強く抱き締めた。
「しずく。しずく」
 悟はまるで、その単語しか知らないように、しずくの名前だけを呼び続ける。
「悟くん、私、どうしたの?」
 自分が一体どうして、こんな場所にいるのか思い出せないでいる、そんな感じの声で、しずくは、そう言った。
 だけど、今の悟にはその声は届かずに暫く悟はしずくから離れようとはしなかった。
 ただ、ただ、しずくの名前を呼び続けて。

「意識が戻ったのなら、もう大丈夫でしょう」
 しずくの担当医の佐藤という40代半ばの医者が言った。
 悟はしずくを暫く抱き締め続けた後、しずくにこれまでの状況を簡潔に話し、それから、はっと我に返り担当医を呼んだ。
「長いこと、お疲れさまでしたね。気分はどうかな?」
 優しい声で佐藤が言う。
「ええ。凄く気分がいいです。何だかすっきりした感じ」
 しずくが笑顔で言った。
「とりあえず、明日、念の為に1日検査を受けて、何処も何ともなかったら、明後日、退院していいですよ。あ、でも、暫くはあまり無茶しないで下さいね」
 佐藤が先程と変わらない優しい声で言った。
 悟達にしずくの意識がもう戻らないかもしれないと言った時とはまるで別人のような声だと悟は心の中で思う。
「はい。先生。ありがとうございます」
 しずくが笑顔でそう言うと佐藤はにっこり笑って、病室を出て行った。
「ところで悟くん」
 佐藤が病室から出て行って、すぐに、しずくが言った。
「ん? 何?」
「私の左手の薬指に嵌っているこの指輪は何か知ってる?」
 こんなもの私には見覚えがないという顔をしずくはしている。
「ああ。それ? 俺からの結婚指輪だよ」
 悟のその言葉にしずくは目をこれでもかというくらい大きく見開いた。
「……本当はしずくの意識が戻らなくても、俺はしずくと結婚しようと思ってた」
「……悟くん」
「でも、しずくは目覚めてくれたから、ちゃんとプロポーズして返事聞くよ。もう周りはいつ結婚してもいいように固めてあるから。だから、しずく、俺と結婚してほしい。しずくのこと一生愛して、必ず幸せにするから」
 悟がそう言うと、しずくの目から涙がポタポタと零れた。
「しずく」
 悟はしずくの涙に驚く。
「嬉しい。ありがとう。悟くん」
 そして、二人は病室で優しい、だけど、力強い、これからもずっと一緒にいるという誓いのキスを交わした。

 それから3ヶ月後、悟としずくは本当に結婚した。
 だけど、マネージャーの渋谷の心配はよそに悟の人気は落ちなかった。
 むしろ、あがったと言ってもいいくらいだった。
 一途な悟の想いに心を撃たれた人達が多かったらしい。
 そして、今、二人は海にいる。
 二人が愛して病まない海に。
 だけど、ここは日本ではなくハワイ。
 そう。二人は新婚旅行に来ていた。
「綺麗ね」
 しずくが言う。
 ここの海は透き通っている。だけど、何処か暖かみを感じる。
「ああ。綺麗だね」
「ね、悟くん。私ね意識のなかった間、きっと愛の中を彷徨っていたんだと思う」
「え?」
 急にしずくが不思議なことを言い出したので、悟は少し驚いた顔をした。
「何だか色んな愛の中にいた気がするの。そして、ある光が見えてね。その光の中に以前に話したことのある彼がいたの」
 “彼”とはしずくに愛を教えてくれたという彼だ。
「私はその彼の手を掴まえようとした。だけど、振り払われたわ。君はまだここに来ちゃいけないとでもいうように。そして、僅かだけど、私の名前を呼んでいる悟くんの声が聞こえた。そして、目を開けたら、あなたの背中が見えたのよ」
「……しずく」
「私、また彼に助けられたのね。きっと」
「………………」
 だとしたら、本当にその彼のしずくへの想いはとても深い。この底知れぬ海の深さくらいに。
 悟はかなわないかもしれないと思った。
 もしかすると、死んでも、なお、しずくの傍で守り続けている彼の想いには。
 だけど、同時に感謝もした。
 何故なら、今の話によれば、しずくは彼のおかげで今こうして悟の隣にいて、笑ったり話したりしているのだから。
「……でもね、私、悟くんにも助けられたのよ」
 しずくの思いもかけない言葉に悟は驚く。
「……え?」
「だって、悟くんの声が聞こえたから、悟くんに凄く会いたいって思ったんだもん。それってこっちの世界に引き戻してくれるきっかけになったってことでしょ?」
「……しずく」
「だから、悟くんも私を救ってくれたの」
 悟はしずくの言葉に泣きそうになった。
 この命を救ってくれたのはしずくの方なのに。
 そんなことは私が勝手にしたことだからとでも言うように、しずくは振舞う。
 そして、悟を優しい愛で包んでくれる。
 そう。以前、しずくに愛を教え、なお、きっと彼女の傍で見守ってくれているであろう彼のように。
 海のように深い深い底なしの愛で。
「……しずく、お願いがあるんだけど」
「何?」
「……もし、良かったら、今度、俺達に起こった現実のラブストーリーを書いてくれないか?」
 そして、その話を映画化にでもして、沢山の人達に伝えよう。
 愛がどういうものなのかを。
 きっと愛の電池が切れて苦しんでいる人達はこの文明発達した世の中ではごろごろしているに違いないから。
 悟のお願いに、しずくは少し、きょとんとした顔をして、だけどすぐに、ただ優しく笑って頷いた。
                                                                          END
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