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第3話「デジャヴ」

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「でもさあ、正直、あの時は驚いたな。だって、あんなにいつも綾美にあたりがキツイのに綾美がいないって解った途端、慌てて綾美のこと探しに行ったんだから、橋川さん」
 会社の食堂で、とんかつ定食のとんかつをお箸でつつきながら、新人歓迎会の後に起こった出来事のことを澤野さんが言った。
 ちなみにいつの間にか澤野さんは私のことを下の名前で呼ぶようになっていて、私も名字呼びと混じったりするけれど、有希と呼ぶ方が多くなっていた。
「うん、それは私も驚いたよ。あの時、会っても優しい言葉はかけてもらえなかったし、バカ、とろいんだよって言われちゃったけど、私の手を取って、ずっと歩いてくれて、歩くスピードも私に合わせてくれるみたいだったし」
「うーん、何か不思議よね。橋川さんって。いつもは本当に綾美に対して冷たいし、キツイのに。それにあの日の後からだって、綾美には相変わらずだし」
 そう。有希の言うとおり、新人歓迎会の後も橋川さんは仕事の時にたまに私にキツイ言葉を浴びせてきていた。
 だけど、私は新人歓迎会が終わった後のことがあってから、橋川さんは優しい人なのかもしれないと思ったので、前よりは橋川さんに対する苦手意識は薄れてきていた。
「まあ、いつか橋川さんが綾美に対して何であんなにキツイのか解かればいいね」
 有希はそう言った後、美味しそうにお箸でつついていた、とんかつを頬張った。
 私は有希のその言葉に頷きながらも、橋川さんが私にあたりがキツイ理由を知りたいような知りたくないような気持でいた。
 そんな気持ちになっている時に、
「嘘つき」
 と聞き覚えのある、声と口調と言葉が聞こえてきて、私の胸がドクンっと高鳴った。
 私は思わずその声が聞こえた方に振り向いた。
 そこには橋川さんと橋川さんと私達と同期で、営業部に配属され、研修ももうすでに営業部で受けている、荒崎啓樹(あらさきけいき)の2人が一緒にいた。
 そして、声からして、さっき「嘘つき」という言葉を放ったのは明らかに橋川さんだった。
「何だよ、その嘘つきって。本当だよ」
 荒崎さんは人懐っこい笑顔で橋川さんにそう言った。
 2人はその後も楽しそうに会話しながら、食堂を出て行った。

「どうしたの綾美、何か顔色が悪いよ。大丈夫?」
 少し驚いたような表情で、有希が言った。
「あ、うん、何でもない。大丈夫だよ」
 私は有希に笑顔でそう言った。
 だけど、本当は、
『嘘つき』
 と橋川さんが言ったその言葉と声と口調が過去に私が知っていた人と何故か被って、私の胸は締めつけられそうだった。
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