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最高の誕生日プレゼント
しおりを挟む沢山の貴族達が集うとあるパーティーの会場にて。
(ああ、ようやくこの忌々しい生活ともおさらば出来るのね……!)
ラベーラ公爵家の令嬢、シャルロットは、抑えきれぬ喜びを淑女の仮面の下に隠しながら心の中でそっとほくそ笑んだ。
(あとはこの事を"彼"に告げるだけ……)
シャルロットの視線の先には、沢山の令嬢に囲まれている金髪碧眼の美青年がいた。
彼の名はキース・カルディア。ここ、カルディア王国の第二王子にしてシャルロットの婚約者である。
婚約者、と言ってもそんな肩書きはあってないようなものだ。元に、7歳で婚約が決まってから約10年の間、キースは一度としてシャルロットに甘い言葉をかけたこともなければ、笑顔を向けたことすらない。夜会でシャルロットをエスコートすることも、シャルロットに何か贈り物を贈ることも。
敢えてキースから贈られた物を挙げるとするならば、忌々しいと言わんばかりに睨みつけてくる視線と、うざったい嫌味の言葉くらいだろうか。
シャルロットがキースに何か粗相をして嫌われてしまったというわけではない。キースは何故か初めて会ったときからシャルロットのことを嫌っていたのだ。
初めのうちは、将来家族になるキースと良い関係を築きたいと思い、シャルロットはあれやこれやと奮闘を重ねた。しかし、その努力は実ることなく、キースとシャルロットの関係は友人以下いや、知人以下という有様だ。
世の中にはどんなに努力をしても成し遂げられないこともある……キースとの婚約で、シャルロットはそのことをヒシヒシと実感したのだった。
(さて、そろそろ行きましょうか)
今の今まで、会場の隅で壁の花と化していたシャルロットは、ピシリと背筋を伸ばして凛とした面持ちで足を踏み出した。
淡いドレスの令嬢が多い会場で、シャルロットの真紅のドレスは酷く目立つらしい。自然とシャルロットの前から人が居なくなり、スッと一本の道が出来上がった。シャルロットの瞳がその道の先にしかと婚約者の姿を捉える。
(ふふ……楽しみだわ)
今夜のパーティーはキースの成人を祝うためのものだ。そこにこんな爆弾を突きつけてやったら、キースは一体どんな反応をするのだろうか。
(きっと泣いて喜ぶでしょうね?)
恐らくキースにとっては何よりも嬉しい誕生日プレゼントとなるだろう。
「殿下」
シャルロットが声をかけると、それまで普通だったキースの美しい顔が一気に歪んだ。
「…………なんのようだ」
そして、まるでサファイアのような深い青色の瞳でジロリと睨み付けられる。綺麗な顔が台無しだ、と思うが決して口には出さない。
キースの周囲を取り囲んでいた令嬢たちからも、じっと目を細めて憐れみのような視線が向けられる。美しい顔が台無しだ、と思うがこれも決して口には出さない。
シャルロットは自分に向けられる様々な視線に慄くこともなく、優雅に深々と淑女の礼をしてみせた。
「ラベーラ公爵家シャルロットが、殿下にご挨拶を申し上げに参りました。殿下、この度は18歳のお誕生日、誠におめでとうございます」
「……そんなことをわざわざ言いにきたのか」
いつも通りキースの言葉にもシャルロットは表情一つ動かさない。
「いいえ、それだけではありません。実は、今この場で殿下にお渡ししたいプレゼントがあるのです」
「プレゼント?」
「ええ。きっと喜んで頂けると思いますわ」
突然のシャルロットの言葉に意味がわからないと言った様子で眉を潜めるキース。
そんなキースに、シャルロットは穏やかな笑みを浮かべたまま言い放った。
「殿下。つい先程、私と殿下の婚約が解消されました」
それほど大きな声でもなかったのに、シャルロットがそう言い放った刹那、ざわめいていた会場中がシンと静まり返った。
「…………は?」
静寂の中、唖然としたキースの間抜けな声だけが響いた。
「お前は……何を言っているんだ?」
「何を言っているも何も、言葉通りですわ」
シャルロットはフフフ、と上品に口元を扇子で隠しながら笑う。
「私と殿下の婚約の解消、それこそが私が殿下に送るお誕生日プレゼントという訳です。もちろん私の父にも国王陛下にも承諾は得ております。……ふふ、どうですか?最高のお誕生日プレゼントでしょう?」
「…………」
シャルロットはそう言いつつここ数年で一番の笑顔を浮かべた。
対するキースは、シャルロットの贈り物がよっぽど嬉しいのか、石像のように固まったままピクリとも動かない。
数分待ってもフリーズが解けないキースに、シャルロットは待っていられないとばかりに肩を竦める。
「……と、いうわけですので。私はこれで失礼致しますわ。殿下、今までどうもありがとうございました!」
礼を言ってやることなど一つもありはしないのだが。一応形式上言い捨てておく。
そうしてシャルロットはすっきりした面持ちで一度も後ろを振り返ることなく会場を後にした。
そのためにシャルロットは知らなかった。シャルロットが去った後の会場が地獄の地と化していたことを──。
***
次の日。家でまったりとティータイムを楽しんでいたシャルロットの目の前には、何故か婚約を解消したはずのキースが座っていた。
────なぜ???
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