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番外編③:観測ログ・最終篇
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夏の夜。
屋上のシートに腰を下ろすと、夜風が熱をやわらげて通り抜けた。
赤いライトが机の上を淡く照らし、二人の影をすこしだけ重ねる。
「コーヒー、冷める前に」
怜が紙コップを差し出す。
美月は星図から顔を上げて、笑いながら受け取った。
「ありがとうございます。……観測所で飲むと、いつもより美味しい気がします」
「記録対象に入れる?」
「え? これも?」
「“0も記録”だから」
そう言われて、美月はぷっと吹き出す。
「甘すぎますよ、それ」
「観測は正確であるべき」
真顔で返されて、余計に笑いが止まらなかった。
肩がふっと触れる。
もう誰も距離を引かない。
長く付き合ってきたはずなのに、触れた瞬間の胸の高鳴りはまだ衰えを知らない。
「先輩って……飽きないですね」
「星は繰り返し昇るけど、毎回ちがう。君もそう」
美月は顔を両手で覆った。
「……比喩のくせに、ずるい」
怜はただ微笑んで、肩を寄せた。
空を横切る細い光。
流れ星がひとつ、夜を切り裂いた。
怜は呼吸を整え、一歩踏み出すみたいに声を出した。
「一ノ瀬美月さん。……君は、僕の目印のままでいてほしい」
美月の瞳が震える。
怜は視線をそらさず続けた。
「“0も記録”みたいに、何もない日も、これから全部一緒に残したい」
赤いライトの下で、美月の頬が赤く染まっていく。
唇が震え、けれど迷いのない声が返ってきた。
「……はい。観測ログに、全部残します」
怜はそっと近づいて、美月の額に軽く口づける。
「……記録対象、増えました」
美月が照れて呟く。
「消せないように、濃いインクで」
怜の言葉に、美月は泣き笑いを浮かべた。
二人は観測カードを一枚ずつ取り出し、ひとこと欄にペンを走らせる。
美月:見えない線で結んだ未来を記録する
怜:同じ方角に帰る家を作る
カードが並び、赤い光に照らされて一枚の記録のように重なる。
屋上の風は、あの夏よりもやわらかい。
——待つことと、伝えること。
その両方を抱えて、これから先も二人で同じ地図を広げていく。
方角は裏切らない。起点は変わらない。
そして——これからの空も、全部、二人で。
屋上のシートに腰を下ろすと、夜風が熱をやわらげて通り抜けた。
赤いライトが机の上を淡く照らし、二人の影をすこしだけ重ねる。
「コーヒー、冷める前に」
怜が紙コップを差し出す。
美月は星図から顔を上げて、笑いながら受け取った。
「ありがとうございます。……観測所で飲むと、いつもより美味しい気がします」
「記録対象に入れる?」
「え? これも?」
「“0も記録”だから」
そう言われて、美月はぷっと吹き出す。
「甘すぎますよ、それ」
「観測は正確であるべき」
真顔で返されて、余計に笑いが止まらなかった。
肩がふっと触れる。
もう誰も距離を引かない。
長く付き合ってきたはずなのに、触れた瞬間の胸の高鳴りはまだ衰えを知らない。
「先輩って……飽きないですね」
「星は繰り返し昇るけど、毎回ちがう。君もそう」
美月は顔を両手で覆った。
「……比喩のくせに、ずるい」
怜はただ微笑んで、肩を寄せた。
空を横切る細い光。
流れ星がひとつ、夜を切り裂いた。
怜は呼吸を整え、一歩踏み出すみたいに声を出した。
「一ノ瀬美月さん。……君は、僕の目印のままでいてほしい」
美月の瞳が震える。
怜は視線をそらさず続けた。
「“0も記録”みたいに、何もない日も、これから全部一緒に残したい」
赤いライトの下で、美月の頬が赤く染まっていく。
唇が震え、けれど迷いのない声が返ってきた。
「……はい。観測ログに、全部残します」
怜はそっと近づいて、美月の額に軽く口づける。
「……記録対象、増えました」
美月が照れて呟く。
「消せないように、濃いインクで」
怜の言葉に、美月は泣き笑いを浮かべた。
二人は観測カードを一枚ずつ取り出し、ひとこと欄にペンを走らせる。
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屋上の風は、あの夏よりもやわらかい。
——待つことと、伝えること。
その両方を抱えて、これから先も二人で同じ地図を広げていく。
方角は裏切らない。起点は変わらない。
そして——これからの空も、全部、二人で。
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