深い青を愛してる

あおなゆみ

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私はずっと、秘密にすると思う

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 17時50分。
18時に向かいつつもあと少しだけ、17時の中にいられるというが良かった。
時計を見て、50分台だったりすると、嬉しい気持ちになる。
彼を見つけたのもそんな喜びと期待の真ん中、心地良い時間の中だった。

 学校帰りに図書館でテスト勉強をしていた。
18時には家に着くよう帰ろうと思っていた私は、時計を見ると17時50分で、急いで帰る支度を始める。

 図書館を出て、少し歩いたところにある公園。
何気なく見た先。
ベンチに座り本を読んでいる男の人。
それが彼だった。
 その公園のベンチで本を読む人は普段から結構いて、特別な光景ではなかった。
でも私はそこで彼を見つけた事に意味づけをしない訳にはいかない。
 だからと言って、私の足が彼の元へ向かう事も、何か話しかける言葉が見つかる、というものでもない。
高鳴る鼓動。
深い青の夜とは違う、明るい水色みたいな夕方。
もう少しすれば一気に、オレンジが加わる。
そして暗くなっていく。
彼はどの色の時間までそこにいるのだろう。
明るさの中の彼は、私の心を、寒さを乗り越えやって来た春のように、優しい気持ちにさせた。
 引退した彼が、明るさの中にいて良かった。
彼が閉じ籠らず、外の空気を吸っていて良かった。
彼が本を読んでいて良かった。
色んな良かったが、私の中を埋め尽くす。

 
 そこで18時を告げる鐘が鳴る。
彼は本から目を離すと、公園の時計を確認した。
私は彼をずっと見つめていた事がバレると思い、歩みを進める。

 彼がこの町にいる。
私にとって大切なこの町に。
私は彼の音楽を愛している事を誰にも言った事がない。
ずっと秘密にすると思う。
今日の出来事も。
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