深い青を愛してる

あおなゆみ

文字の大きさ
9 / 23

恋人への懺悔

しおりを挟む
 私は高校一年の夏、中学から付き合っていた恋人を亡くした。
どうして良いか分からなくなった私は、恋人が好きだと言っていた小説を読み始める。
いくら薦められても、読書が好きじゃなかった私は頑なに断り続けていた。 
それなのに、いなくなったら、恋人の好きだったものを必死に求めた。
そして、その物語に恋人を重ね、恋人の体温を思い出すような涙を流した。

 私が彼と彼の音楽に出会ったのはその頃だった。
恋人に会えない悲しみを癒やしてくれた存在。
彼はデビューして3年目、私は小説を書き始めていた。
物語は物語でありながらも、ノンフィクションの部分が多く、3日で書き終えた。
この後の選択がいけなかったのだと思う。
私だけの秘密にしたのならどれほど良かったか。
私は、小説投稿サイトにその物語を投稿した。
閲覧数は増え、ついには小説化しないかという誘いまできた。
 私は、恋人の母親に相談した。
人生で一番勇気を振り絞って発言した事だった。
彼女は涙を流しながら、

「沢山の人に、息子の一部でも知ってもらえるなら。私は嬉しい。息子が誰かの心に、間接的にでも残ってくれると思うと...ありがとう」

と私の手を握った。
 この頃の私は現実感というのが少し欠けていたんだと思う。
全てが眠りと現実の間みたいな、そんな感覚があった。
だから私は、勇気を簡単に乱用できたし、臆病な心も麻痺していた。
普段の自分なら選択しない事ばかりを選ぶ。

 一年も掛からず、私の本は書店に並んだ。
その頃には私は現実感に引き戻され、恋人を亡くしてとった行動に後悔している最中だった。
まるで、恋人を自分の利益の為に使ってしまったような、そんな罪悪感。
恋人との物語を、恋人への想いを自分の中だけで紡ぎ続けるべきだったと。
 本名で小説を書いた訳ではなかったから、私が小説を書いた事を知っているのは自分の両親と、恋人の母親だけだった。
両親はこのまま小説家になる事を望んだが、私は

「もう小説は書きたくない。真面目に勉強して...今はまだ何がしたいか分からないけど、やりたい事を見つけて働く」

と強い意志を持って伝えた。
その強い意志は、恋人への懺悔のようだった。
本心は、自分の起こした行動に対する恐怖で、どこか深いところへ隠された。
 
 勉強の為に図書館に行くようにはなったけれど、図書館へ行く時にはいつも、なんとも言えない胸騒ぎがした。
それは嫌なものではなく、何かを私に訴えかける、深い青の夜に聴く彼の歌みたいだった。
沢山の本に囲まれる空間で、物語を再び書きたいという本心が声を上げようとする。
そして、恋人をまだ恋人と呼んで良いのか、それにも迷っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

処理中です...