深い青を愛してる

あおなゆみ

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私が彼に声を掛けた理由

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 図書館に行くと、彼が本を読んでいた。
今私だけが、ここにいる彼の正体を知っている。

 少しずつ彼に近づくにつれて、私は亡くなった恋人の事を思った。
よく図書館で待ち合わせをし、デートした。
恋人が真剣に文字を追う顔が好きだった。

 私が驚いて足を止めた理由は、彼が読んでいる本が私が書いた小説だったから。
そして、その小説を読む真剣な彼の表情が、私の胸を熱く、切なくさせる。

「こんにちは」

少し驚いた表情で私の方を見た。

「こんにちは」

彼の囁く声は、彼の曲の歌い始めの表現を思い起こさせた。
さり気ない息遣いに、優しく発せられる声。
彼だけの柔らかなニュアンス。

「この間は、本当にありがとうございました。お陰でもう元気です」

気まずそうな顔をする彼。
私は、もう彼に会わないと思っていたのに、こうして声を掛けてしまっている。
私が何か言わないと、と考えていると

「ちょっと出ませんか?」

と荷物をまとめだした彼。
私の書いた小説を本棚に戻した。

「はい」

 私が彼に話しかけた理由は、きっと、こういう事を期待していたから。
私は彼や彼の音楽に支えてられていたから、そんな彼に興味を持たないというのはどうしても無理なのだ。


 この間の自動販売機の所まで行くと、彼は言った。

「何が飲みたいですか?」

私は遠慮したが、

「お返し。お礼が言いたかったんだ」

と前と少しだけ違う、明るい笑顔で微笑んだ。

「じゃあ、緑茶で...」

彼は緑茶を買い、私に手渡した。

「この間は本当にありがとう」

「いいえ。顔色も良くなったみたいで、良かったです」

自然に二人並んでベンチに座った。
私は気になる事を聞くことにする。

「読書好きなんですか?」

「うん。休みの日は小説ばっかり読んでる。小さい頃から本は好きだった。あ、そうだ」

彼はカバンの中からブックカバーのかかった本を出した。

「これ、知ってる?」

カバーを取り、彼が私に見せたのは、私が書いた小説だった。
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