17 / 21
Episode17
虹とプリズム
しおりを挟む
出勤前、私は靴箱から箱にしまったままのハイヒールを出した。
ベージュで少し光沢がある。
ピカピカだ。
これは母にもらったものだった。
「若いんだからもっと派手にしてみたら?」
と言った母の表情が思い浮かぶ。
その後小さな声で放った言葉も。
「それじゃあ、ずっとそのままだね~」
今日は野島さんの写真展の日だった。
あの日以来私は、野島さんに会っていなかった。
野島さんは映画館に復帰していたけれど、なんだか恥ずかしくて行けていなかった。
それともう一つ理由があって、野島さんが撮ってくれた写真の曲を作っていたのだ。
一緒に虹を見たあの日の為の歌。
虹を見た時、隣にいた野島さんの為の歌。
作るのが楽しく、早く完成させたかった。
吉岡さんが店に来た時に、写真展のチラシをくれた。
「依子ちゃんに渡してって言われたわよ。最近、映画館全然来ないんだから。野島さん心配してたわよ」
吉岡さんは少しこちらの様子を伺っているようだった。
「野島さんに、曲を作っていると伝えてくれませんか?」
「曲?ちょっと~、二人で抜け駆けしないでよ。私にも聞かせてよね。依子ちゃんの曲。カラオケに誘ってもくれないんだから~」
「必ず聞かせますから。野島さんに写真展、楽しみにしている事も伝えて下さいね」
「分かったわよ。伝えておくね。もう~野島さんの事で頭がいっぱいなのね~」
「すみません」
「許してあげる。やっぱり若いって楽しいでしょ?」
「そうですね」
母のハイヒールを履き、いつもはリュックだけれどハンドバッグを持ってみる。
たまにはいいかもと思う。
いつもより長く、鏡の前に立つ。
なんとなく一瞬。
母の表情に似ていた気がした。
仕事が終わり、野島さんの写真展お祝いの花束を作ってから映画館へ向かう。
会場は映画館の三階だ。
着くと、よく映画館で見かける人達が沢山いた。
それから、なんとなく芸術家っぽい人達も何人かいた。
端から見ていくと北海道の写真が多く展示されており、どれも美しい。
特別な景色を写しているわけではないのに、それらは特別なものに変わっていた。
素敵な映画を観た後のような、全てを愛しく感じられるような風景。
展示場所の一番奥に、小さなプリズムのようなものが連なって暖簾のように下げられている。
その暖簾をくぐると、そこには虹と私の写真が大きく飾られていた。
プリズムが後ろの照明を反射させ写真には無数の光。
「綺麗...」
思わず声が出てしまう。
「依子さん」
野島さんの声だ。
「こんにちは。どうでしょうか?この写真が今回のメインです」
野島さんは少し恥ずかしそうに目尻を掻いた。
私は言葉を必死に探した。
何といえばこの感動を伝えられるだろう。
すると野島さんは、”伝わっているよ”と言うように優しく何度も頷いた。
それからしばらくの間、写真を眺めた。
「野島さん。少しお話し出来ませんか?」
屋上まで二人は無言で歩く。
野島さんの後ろ姿を見つめながら、私はこの街に来てからの事を思い出していた。
ベージュで少し光沢がある。
ピカピカだ。
これは母にもらったものだった。
「若いんだからもっと派手にしてみたら?」
と言った母の表情が思い浮かぶ。
その後小さな声で放った言葉も。
「それじゃあ、ずっとそのままだね~」
今日は野島さんの写真展の日だった。
あの日以来私は、野島さんに会っていなかった。
野島さんは映画館に復帰していたけれど、なんだか恥ずかしくて行けていなかった。
それともう一つ理由があって、野島さんが撮ってくれた写真の曲を作っていたのだ。
一緒に虹を見たあの日の為の歌。
虹を見た時、隣にいた野島さんの為の歌。
作るのが楽しく、早く完成させたかった。
吉岡さんが店に来た時に、写真展のチラシをくれた。
「依子ちゃんに渡してって言われたわよ。最近、映画館全然来ないんだから。野島さん心配してたわよ」
吉岡さんは少しこちらの様子を伺っているようだった。
「野島さんに、曲を作っていると伝えてくれませんか?」
「曲?ちょっと~、二人で抜け駆けしないでよ。私にも聞かせてよね。依子ちゃんの曲。カラオケに誘ってもくれないんだから~」
「必ず聞かせますから。野島さんに写真展、楽しみにしている事も伝えて下さいね」
「分かったわよ。伝えておくね。もう~野島さんの事で頭がいっぱいなのね~」
「すみません」
「許してあげる。やっぱり若いって楽しいでしょ?」
「そうですね」
母のハイヒールを履き、いつもはリュックだけれどハンドバッグを持ってみる。
たまにはいいかもと思う。
いつもより長く、鏡の前に立つ。
なんとなく一瞬。
母の表情に似ていた気がした。
仕事が終わり、野島さんの写真展お祝いの花束を作ってから映画館へ向かう。
会場は映画館の三階だ。
着くと、よく映画館で見かける人達が沢山いた。
それから、なんとなく芸術家っぽい人達も何人かいた。
端から見ていくと北海道の写真が多く展示されており、どれも美しい。
特別な景色を写しているわけではないのに、それらは特別なものに変わっていた。
素敵な映画を観た後のような、全てを愛しく感じられるような風景。
展示場所の一番奥に、小さなプリズムのようなものが連なって暖簾のように下げられている。
その暖簾をくぐると、そこには虹と私の写真が大きく飾られていた。
プリズムが後ろの照明を反射させ写真には無数の光。
「綺麗...」
思わず声が出てしまう。
「依子さん」
野島さんの声だ。
「こんにちは。どうでしょうか?この写真が今回のメインです」
野島さんは少し恥ずかしそうに目尻を掻いた。
私は言葉を必死に探した。
何といえばこの感動を伝えられるだろう。
すると野島さんは、”伝わっているよ”と言うように優しく何度も頷いた。
それからしばらくの間、写真を眺めた。
「野島さん。少しお話し出来ませんか?」
屋上まで二人は無言で歩く。
野島さんの後ろ姿を見つめながら、私はこの街に来てからの事を思い出していた。
0
あなたにおすすめの小説
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる