聖女召喚に巻き込まれて、異世界にきたオレは追放されて聖人になる

坂道冬秋

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ACT6〜つかの間の平和〜

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「ふぅー!そろそろ一服するか」
そうオレに言ったのは、ゲランという男だった。歳は四十歳くらいだろうか、浅黒い肌に、筋肉質な身体をしている。

「はーい!」
オレは、そう軽く答えた。オレとニナがこの村に来て一ヶ月程度が過ぎていた。このゲランという男が、ガイム団長が紹介してくれた協力者だった。この村で、畑を耕して生計をたてている。今、オレはその畑仕事の手伝いをしていた。

「お弁当持ってきたよ~!マサノリ!」
そう言いながらオレの方に走って来たのは、ニナだった。ゲランも、ニナが来ていたのを見つけたので休憩する事にしたのだろう。

「愛妻弁当か?うらやましい!」
ゲランがそう言って冷やかす。

「ゲランさんのもありますよ!」
そう言ってニナが弁当を手渡す。

「奥さんからです!ついでに一緒に持ってきました」
ゲランは少し照れながら受け取る。

「ありがとう!」
オレは、ニナから弁当を受け取りながら言った。

オレ達は、この村で隠れて暮らしている。一応、若い夫婦という体でゲランの農家で働いている。今のところ、追ってに見つかった兆候はない。

「美味しそうだ!」
オレは、弁当を開けて感嘆の声を出しながら言った。

「ポーラさんと一緒に作ったの」
ポーラというのは、ゲランの奥さんだ。最近のニナは、料理に目覚めたらしい。ポーラに習いながら色々試しているみたいだ。

「料理作るのって、こんなに楽しいのね!あと、美味しそうに食べてくれるのがうれしい!」
前にニナはそんな事を言っていた。

たしかニナは、貴族の生まれだったはずだ。魔術師を輩出してきた家系で、小さい頃から魔術の訓練をしてきたらしい。魔術師団に入ったのも必然だったと言える。

「魔術しかした事なかったから…」
そんな事も言っていた。オレとニナは追われているのがウソのように、平穏な生活をしている。

「畑仕事なんて初めてだけど、結構面白いものだな」
「そうなんだ。よかったね!」

オレが、何気なく言うとニナはニッコリと微笑みながら答えた。実際、元の世界でも農業の経験はない。子供の頃に芋掘り体験をしたくらいだと思う。

「おー!ゲラン、休憩中か?」
オレ達が弁当を食べながら談笑していると、一人の男が話しかけてきた。

「聞いたか?国境付近で警備隊と帝国の兵士の間で衝突があったらしいぜ!」
「警備隊と?」
少し驚いた風にゲランが答えた。

「最近警備隊に配属された指揮官が、血の気が多いヤツらしい」
男がさらに話を続ける。

「まさか、攻撃したりはしないだろうな」
「そこまでバカじゃないだろう」
ゲランの言葉に男は笑いながら言っていた。

「帝国と大きな戦闘になったらひとたまりもないだろう」
「ああ、もしそうなったら、国境にあるこの村にも被害がでるかもな」
男が少し怖い事を言った。

「仮に、戦闘に巻き込まれても、中央は援軍なんか送ってこないだろう」
「ああ、こんな辺境地に助けなんて来ないだろうな」
ゲランと男の話を聞きながら、オレはこの国境の村の実情を初めて知った。

「中央の役人達にとっては、こんな辺境地の事なんて知ったこっちゃないだろうしな」
ゲランが吐き捨てるように言う。

「そうだな!まあ、そんな事にはならないだろうけどな」
男はそんな風に楽観的な風だった。

「まあ、そう願うよ」
「じゃあ、ワシは行くよ!またなお二人さん!」

ゲランがそう言うと、男は仕事があるんだった、と言いながら歩き出していた。そして、オレとニナにも声をかける。

「あ、はい!どうも」
この一ヶ月で、何度か顔を合わせていたオレ達も軽く挨拶をしていた。

「何かあったんですか?」
オレは気になってゲランに聞いた。

「ちょっと国境の方がきな臭いみたいだ」
「きな臭い?」
「まあ、そんなに深刻な事にはならないだろうがな」

ゲランがそう言った。オレ達を安心させるために言ったのか、本当にそれ程でもないのかは、オレには判断できない。



夜、オレとニナは寝室にいた。オレ達は、今一緒に暮らしている。若い夫婦という設定で生活しているからだ。ゲランが用意してくれた小さな家で二人だ。

「なあニナ!」
「何?」
ニナは、オレの横で髪をとかしながら答えた。小さなランプの光がニナの横顔を照らしていた。

「昼間ゲランさんが言ってた事、どう思う?」
光に照らされたニナに、少しドキドキしながら、オレは昼から気になっていた事を聞く。

「ああ、国境で小競り合いをしてるってヤツね」
そう言って、こっちを向いたニナの視線にオレは目が離せないでいた。

「それ!小競り合いなの?」
思い出したように、慌てて答える。

「ええ、国境付近で時々、小さな戦闘が起きるのは珍しくはないよ」
この村に来て、夫婦を装うためもあるが、ニナの口調は敬語ではなくなっている。そして、オレの呼び方も「様」が取れていた。

「そうなの?じゃあ、それ程心配する必要はないって事か」
「近くで小競り合いがあったら、この村にも影響はあるかもしれないけど、そんなに心配する必要はないと思う」
ニナは、オレの心配を和らげるように優しい口調で言った。

「そっか、なんだ…」
「大丈夫!心配しないで…」

少し安心したオレを、さらに安心させるためなのか、ニナはオレを優しく抱きしめた。ニナの身体は柔らかかった。そして、温かかった。オレは、ニナの体温を感じながら優しさを感じていた。


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