猫を探しています!~その町の怪異がある所にその黒猫がいる!私はその黒猫を……~

坂道冬秋

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第七話〜男の独り言2~

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私はある人物に会おうとしている。ある事件の目撃者だ。



その事件とは、一年程前に話題となった放火殺人事件だった。





20XX年5月21日の未明、工事現場に設置されていた仮設事務所が火事になった。事務所の中からは、男女の遺体が発見された。遺体の身元は、阿久津祐介三十二歳と、佐藤千尋二十六歳だった。彼等は縄のような物で両手足を結ばれ、口には猿ぐつわのような物をされていたという。彼等は同じ会社の同僚で、生きている間に火を放たれたと見られている。この事件の犯人は、すぐに逮捕されている。被害者二人と同じ会社に勤めていた、鈴木直樹三十一歳が火事の数日後に逮捕された。彼は、抵抗する事もなく確保された。彼は刑事を確認した時に「遅かったですね」と言ったという。彼の証言では、被害者の阿久津祐介が、鈴木直樹の家を放火した事が殺害の理由らしい。たしかに、事件の一ヶ月程前に、鈴木直樹の家が火事になっている。その時、家にいた鈴木直樹の母親が焼死していた。この火事も放火である事が濃厚らしい。鈴木直樹の証言では、阿久津祐介とは会社の同期だったようだ。ただ、成績のよかった鈴木直樹に、阿久津祐介がたびたび嫌がらせをしていたそうである。それについては、同社の社員から証言をとった。以下は、その時の証言である。





「たしかに嫌がらせをしていましたよ。というより、あの人色んな人に嫌がらせしてましたね」



「どういう事ですか?」



「自分の出世のためなら、なんでもしてましたし、気に入らない事があったらイライラしてるし、やりにくかったですよ」



「鈴木さんとは、揉め事とかはありましたか?」



「しょっちゅうですよ。二人同期でしょ!ライバル心むき出しでしたね」



「どのような事で揉めてたのですか?」



「阿久津が鈴木さんの資料をシュレッダーにかけたり、お得意様からの電話をまわさなかったり、色々ですね」



「それに対して、上司や会社は何もしなかったのですか?」



「阿久津のヤツ、上の人間にはいい顔してたんで、上司とかからは評判よかったんですよ!オレ達はみんな嫌ってましたけどね」



「佐藤千尋さんは知っておられますか?」



「名前くらいは。他部署なので詳しくは知りませんね」



「鈴木さんと、お付き合いされてたというのは、知ってらっしゃいましたか?」



「鈴木さんとですか?いや、聞いた事ないですね」



「では、阿久津さんとはどうですか?」



「阿久津がちょっかい出してるって言うのは聞いた事ありますが、それくらいですかね」



「鈴木さんは、阿久津さんが彼の家に放火したと証言してますが、どう思いますか?」



「阿久津なら、やりかねないんじゃないですかね」





以上が、同僚の証言である。二人の間に揉め事があったのは事実のようである。



他にも複数の人間に証言をとったが、同じような回答だった。



佐藤千尋については、鈴木直樹、阿久津祐介の両名ともに、交際していたという証言は得られなかった。





これから会うのは、この事件で仮設事務所の火事を通報した男性だった。



私は、事件現場の工事現場に来ていた。あの事件の影響なのか、工事は進まず一年前の状態に近い形で放置されている。



もちろん、火事にあった仮設事務所は撤去されているが、所々に黒いすすのような汚れが残っていた。



「始めまして、山寺美里と申します」



私は、そう言いながら名刺を手渡した。



「宮下隆です」



取材相手の男性は、そう言いながら名刺を受け取っていた。私達は現場となった工事現場の前で待ち合わせをしていた。



「あの夜、僕はこの先にあるコンビニに買い物に行ったんです」



「それは、何時頃の事ですか?」



「たぶん、深夜の一時前くらいに家を出たと思います」



宮下隆は、そう答えた。



「その時、何か見ましたか?」



「警察にも言ったんですけど、コンビニに行く時に男を見たんです」



「男、ですか?」



私は話の先を促す。



「はい!たぶん犯人だと思います。事務所の前に座って、何かブツブツ言ってたんです」



「それで、あなたはどうされたのですか?」



「ヤバい奴だと思って無視して素通りしました」



宮下隆が上の方に視線を泳がしながら言った。当時の事を思い出しながら話しているのだろう。



「その後、コンビニで雑誌を立ち読みしたりして、20分くらいして、この道を通ったんです」



私は宮下隆が話すのを頷きながら聞いていた。



「そうしたら、ここにあった事務所が燃えていて、すぐに119番に通報したんです」



「その時、犯人はいなかったのですか?」



「はい!誰もいませんでした。僕が来た時には、もう火が事務所全体にまわっていて、何かできる状態ではありませんでした」



「そうですか」



私は、宮下隆の目を真っ直ぐに見ながら話を聞いていた。それに気付いたのか、宮下隆が視線をはずす。



「あの時、聞いたんです」



「何をですか?」



話が終わるかと思っていたら、宮下隆はそう言った。



「助けて!って叫ぶ、男と女の声を」



宮下隆は、その時の事を思い出しているのだろう、少し震えていた。



「たぶん、僕が通報した時には、中にいた二人は生きていたんだと思います」



私は、黙って話を聞く事しかできないでいた。おそらく、彼にとっては、その叫び声はトラウマになっているのだろう。



「わかりました。ありがとうございます」



私は、これ以上、彼から証言を聞く事が耐えれなくなっていた。彼にとって、あの事件は心の傷になっている。それが彼の表情からわかったからだ。



「そう言えば、あの時、燃えている事務所を、そこの廃材置き場の上から黒猫が眺めてたんです」



最後に彼はそう言った。



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