猫の悪霊退治<第一部完結>

坂道冬秋

文字の大きさ
4 / 54

〜猫とバラバラ殺人~ACT3

しおりを挟む
「眠そうだな」
「ああ」


わたしの問いに健吾は短く答えた。昨日の3件目の事件現場から帰ったのは、夜2時をまわっていたのだ。健吾は、少し仮眠をとり、早朝から働いている。


「さすがに、あの時間に帰って、朝6時からのシフトはキツイ」
そう言いながら、健吾は仕事先であるコンビニの駐車場にいる。駐車場の端に隣接するフェンスにもたれかかっているのは、普通に立っているより楽だかららしい。


赤い朝用と書かれた缶コーヒーを一口飲みながら、軽く溜め息を吐いている。朝9時を過ぎ、通勤のために足速に歩くサラリーマンらしきスーツ姿の人間を、ぼーと眺めている姿からは、生気を感じられない。


「大貫さん」
そう呼びかけられて、健吾は、ゆっくり声の方向に目を向けた。


「ああ、おはよう」
健吾が答えた先に、足速に駆け寄ってくる若い女がいた。今回の事件を相談してきた、佐伯雪菜である。


「昨日、また殺されたんですよね」
雪菜は、駆け寄って来るなり、少し言葉足らずな質問をする。


「まあ、そうなんだけど、ストレートな表現だね」
「あ、すいません。ネットニュースを見て、ビックリしちゃって」
そう答えた雪菜の呼吸は、まだ整いきれていない。


「まあ、そうだよね」
健吾は、少し地方のなまりが残る口調で、最近自然に話せるようになった標準語で答えた。


「ネコ?」
どうやら、健吾の横に座る私に、やっと気づいたらしい。少し間抜けな声を上げながら、私を見つめてきていた。


「大貫さんのネコですか?」
そう言った女を見て、私は、仕事先の駐車場に飼猫を連れて来ないだろうと思う。


「ああ、うん、そんな感じ」
「カワイイ!おいで~」
そう言って、私の前にしゃがんだ女を見上げながら、こんな時に何をやってるんだ!と思う。


「天然ってやつか」
そう、つぶやいた私に、健吾は苦笑いを浮かべている。もっとも、私のつぶやきは、雪菜には鳴き声にしか聞こえてないだろうが。


「ニャ~」と、私は、少し甘えた声を出しながら、雪菜の近くにすり寄り、体をすり付けるようにする。こうすれば、人間の女が喜ぶのを知っているからだ。たまに、食べ物をくれる事もある。


「カワイイ!」
雪菜が、私を抱き上げながら、また黄色い声をあげた。


「名前、なんて言うんですか?」
「あ、ああ、源之助」
健吾は、苦笑いのまま答えていた。


「源之助か~」
そう言いながら、雪菜は私の顔を見つめて、抱きかかえた私の態勢を整える。私が、雪菜の腕の中でくつろぎ始めたのを見て、健吾の苦笑いは、更に険しくなっていた。


「ところで、事件の話なんだけど」
健吾は、脱線していた話を、無理やり元にもどそうとした。苦笑いに歪んた顔は、まだ回復しきれていない。


「あ、すいません」
「2軒目の被害者と知り合いだって言ってたよね」
健吾は、警察の真似をしているのか、被害者という言葉を使っていた。私は、それを聞きながら、テレビの見過ぎだとツッコミたくなった。


「はい、でも、知り合いと言っても、大学で顔を合わせる程度なんです」
「最後に会ったのが、佐伯さんなんだよね」
「ええ、渋谷で買い物してる時に偶然会って、ちょっと話したぐらいなんですけど」
そう答えた雪菜は、少し不安そうな顔をする。


「そうだったの」
健吾の言葉に、次は申し訳無さそうな表情を、雪菜はみせた。どうやら、健吾も、二人の関係を初めて知ったようだった。


「あ、でも、ウチの両親に大貫さんの事話したら、依頼料を払うので、調査を続けてほしいとの事です」
「よし、調査を続けるぞ!その依頼料でチュルルを買え」


私は、雪菜の話を聞くや、健吾に向かって叫んだ。このチュルルというのは、私達猫のオヤツだ。柔らかく食べやすいだけでなく、素材の味がいかされている。


私は、マグロ味が気に入っている。ほのかに香るホタテの風味が、またイイ。人間の作った物の中には、私には必要性を感じない物が多いが、チュルルだけは評価できる。


「いや、こないだ食っただろ」
すかさず、健吾が答える。


「腹いっぱい食べたいのだ」
「いや、あれはオヤツだから、いつも食ってるカリカリを食えよ」
「あんな安物より、チュルルの方が旨い」
「知らねーわ」


そう言い合っている私達を見ながら、雪菜は目をまわるくして驚いていた。それに気づいた健吾は、シドロモドロしながら、雪菜に話しかける。


「えっと、いや、源之助がチュルルが食べたいって、言ってるような気がして」
無理がある言い訳である。


「もしかして、源之助の言う事解るんですか」
極度の天然である。雪菜には、私の声は普通の猫の鳴き声にしか聞こえなかったはずだ。


「いや、まあ、なんとなく」
健吾は、あやふやに答えながら、誤魔化そうとしていた。私は、雪菜に抱きかかえられた腕の中で、軽く欠伸をした。


「えーと、親御さんも、心配してるんだね」
健吾は、無理やりに、話をそらすように、話を戻した。


「たぶん、佐伯さんに危害が及ぶことはないと思うけど、調査を続けてみるよ」
健吾が、無理やりに話を戻した事に気づいているのか、いないのかわからないが、


「お願いします」
と雪菜は答えた。やはり、極度の天然である。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/21:『てがた』の章を追加。2026/1/28の朝頃より公開開始予定。 2026/1/20:『ものおと』の章を追加。2026/1/27の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/19:『みずのおと』の章を追加。2026/1/26の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/18:『あまなつ』の章を追加。2026/1/25の朝8時頃より公開開始予定。 2026/1/17:『えれべーたー』の章を追加。2026/1/24の朝8時頃より公開開始予定。 2026/1/16:『せきゆすとーぶ』の章を追加。2026/1/23の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/15:『しばふ』の章を追加。2026/1/22の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~

水無月礼人
ミステリー
 子供達は独立し、長年連れ添った妻は病で死去した。  故郷の田舎町で余生を過ごそうと帰省した主人公(60代・男)は、住民の同調圧力で強引に自治会長(村長)に選ばれてしまう。  嫌々ながらも最大のイベント・夏祭りの準備を始める主人公であるが、彼は様々な怪奇に遭遇することになる。  不運な村長とお気楽青年のバディが事件を華麗に解決!……するかも。 ※表紙イラストはフリー素材を組み合わせて作りました。  【アルファポリス】でも公開しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...