君の中には僕しかいらない

月見

文字の大きさ
1 / 2

けっこー悪くないじゃん

しおりを挟む


 けっこー悪くないじゃん。俺があいつを一目見た時に思った感想。


 「初めまして。先日隣に越してきた朝倉と言います。すぐに挨拶に行こうと思ってたんですけど、準備に手間取ってしまってなかなか行けなくて・・・。これ、つまらないものですが良かったら貰ってください」
 「あらあら!隣に越してきたんですね~!大きくて綺麗なお家が建ったと思ってたんですよ~!え!!これって最近できた和菓子屋さんのやつですか?!」
 「はい、ここの和菓子私が好きでとっても美味しかったのでこれを選んじゃったんですが…」
 「嬉しい~これずっと気になってたんですよ!でも中々買える機会無くて困ってたのよ~毎日毎日凄い人並んでるじゃない?だから—————-」


 母さんが誰かと玄関で話しているのが聞こえた。さっきピンポンが鳴ってバタバタかけて行ったけどなんだかめちゃくちゃ話が盛り上がっているみたいだ。母さんは声がでかいからリビングにいる俺のところまで聞こえてくる。誰と話してるんだ?近所の声がでかい山田のおばちゃん?それとも鼻垂れ坊主こと雅人のお喋り母ちゃんか?大体いつも話し込んでるけど、雅人の母ちゃんならくると毎回お菓子くれるんだよな。

 (お菓子欲しいしちょっと覗きに行ってみるか…)



 玄関の方までこっそり移動する。もし山田のおばちゃんだったら見つかった瞬間地獄のお喋り会に強制参加させられるからな。念のために用心しておく。
 だが俺が予想していた人物達はどこにも居なくて、代わりに居たのは長くて黒い髪の毛の美人な人だった。
 ほへーすげぇな。あんな美人な人初めて見た。芸能人みたいだ。あんな人、母さんの知り合いにいたのか?


 「今度一緒に都心で有名なケーキバイキング行かない?あそこのスイーツどれも絶品なのよ~」
 「本当ですか?私も実はあそこ気になって・・・・・・。!こんにちは。片桐さんの息子さんかしら?」
 「え?あら太一居たの?」


 後ろで見てたら気づかれて声をかけられた。母さんも女の人の視線を辿って振り返り、俺を見た。


 「うん。母さんの声デカくてリビングまで聞こえてたから」
 「声でかいって何よ!別にデカくないわよ!もう人様の前でそんなこと言わないでよ母さん恥ずかしいじゃない!」
 「いってー!殴らなくたっていいだろ?!俺別に間違ったこと言ってねぇもん!」


 
 母さんが俺の頭をグーで殴ってきた。たんこぶ出来てたら母さんのせいだ。毎度毎度何かと俺の頭を殴ってくるが、暴力じゃなくて口で言って欲しいものだ全く。

 「うふふ、片桐さんの所は息子さんと仲が良いのね」
 「あはは、この子ったらもう余計なことばっかり言うのよ~困ったもんだわ~。ほら、太一お隣に越してきた朝倉さん。わざわざご挨拶しにきてくれたのよ。あんたもしなさい」

 この美人さんはお隣さんだったのか。というか、今俺にゲンコツ場面を見て仲良いって思ったのか?だとしたらこのお隣さんは結構変人なのかもしれない。
 そんなことを考えていたら母さんが早くしろと言う目線で圧をかけてくる。そんなに短気だとみんなに嫌われちゃうぞ。


 「片桐太一です。小学一年生です。よろしくお願いします」


 俺は出来る子なのでちゃんとお辞儀もした。さすが俺、礼儀正しいで賞受賞だな。


 「この間太一くんのお家の隣に引っ越してきた朝倉小春です。よろしくね。太一くんは6歳なのね、私の息子も同い年なの。良かったら仲良くしてあげてね」
 「え!朝倉さんとこの子も6歳なの?偶然~!良かったわね太一、お友達になれるじゃない」
 「多分今家にいると思うから呼んできても良いかしら?」
 「えー!良いの?是非挨拶したいわ~」


 そういうとお隣さんは一旦自分の家の方へ戻って行った。俺的には別に挨拶しなくても良いし興味もあまりないためリビングに戻ってゲームでもやろうかと思ったが、母さんに肩を掴まれて阻止されてしまった。


 「ちょっとどこ行くのよ。朝倉さん家の息子くんが来てくれるんだからここで待っときなさい」
 「えー俺別に挨拶しなくても良い。どーせ挨拶したってこれから喋んないだろーし」
 「つべこべ言わないの!もーほんとにあんたって子は自分勝手なんだから」


 そんなこんなで言い合いをしていたらお隣さんが戻ってきてしまった。母さんめ俺の大事なゲームの時間を奪ったことは高くつくぞ。
 
 「待たせちゃってごめんなさいね。この子ったら挨拶しないって駄々こねちゃって…。ほら、弓月ちゃんとご挨拶しなさい」


 お隣さんの後ろになんだかちっこいのが隠れているが、そいつは中々出てこない。挨拶くらい誰でも簡単に出来るだろうに、ただ自分の名前を言って何歳か言うだけだろ?早くしてくれないと俺のゲームする時間が短くなってしまう。

 (おっそいな……)

 ちっとも挨拶する気配がない。もうめんどくさいから俺が先に挨拶するだけで良いか。母さんも挨拶すれば良いって言ってたしそれならぐちぐち言ってこないはずだ。


 「俺、片桐太一。6歳。よろしく」

 よし、挨拶はもうしたしゲームをやりに行こう。今度同じクラスの奴らと一緒に対戦するからそれに向けてレベル上げをしとかないといけないし。
 くるっと回れ右をしてリビングへ向かう俺を見て母さんはこら太一って言いながらでかい声をあげている。でも、挨拶はもうしたからそのまま歩いて行く。


 「・・・朝倉弓月。・・・6歳、です」


 ふと後ろから鈴のような声が聞こえてきた。一応無視は良くないかとは思ったため、一言くらい返事は返そうと声の方を振り返る。
 見ると、お隣さんの足の後ろから半身だけをこちらへ覗かせていた。
 

 「・・・・・・よろしく」


 思っていた以上に一言になってしまった。もっと長めの返事とかしようかなとかちょっと考えてたのに。そいつの姿を見たら咄嗟に言葉が出なくなってしまった。

 お隣さんと一緒の綺麗なまっすぐの黒髪にこぼれ落ちそうなほどに大きくてくっきりとした二重の黒目。困ったように垂れた眉毛は身長の低さと相待って小動物を思わせる。キュルキュルとした瞳でこちらを見ている様子になんだか心臓が早く動き出す。


 「あらあらあら~天使みたいに可愛いじゃない!よろしくねぇ~!」
 「・・・・・・」
 「あらら隠れちゃった」
 「ごめんなさい、この子人見知りで・・・。初対面の人の前だと出て来ようとしないの。でも今日は珍しく出てきたみたいだけど」
 「人見知りならしょうがないわよね~うちの子は逆に自由すぎて人見知りしないわ~!」


 母さん達の声が遠くなっていって、目の前の隠れている人物に目がいってしまう。その人物の一挙手一投足を何故だか目で追ってしまう。けど綺麗な黒髪の一部しか見えない。
 じっと見ていると、ちらっとこちらの様子を伺おうとしたそいつと目が合う。バチっと目が合った瞬間心臓が苦しくなった。とにかくわけも分からず恥ずかしくてその場にいたくなくて、俺はリビングに逃げるように走り出した。


 「やだっあの子ったら!ちょっと太一!戻ってきなさいよ」
 「や、やだね!もう挨拶したし!俺、ゲームやんなきゃいけないし!」
 「もーっごめんなさいね。ゲームなんていつでも出来るって言うのに」
 「いえいえ良いのよ。弓月も隠れたままだし、大人と話すのもつまらなかったのかも」
 「朝倉さんったら優しい————-」



 ソファにダイブしてクッションに顔を押し付けながらダンゴムシのように丸まる。あの黒髪や丸っこいでかい目を思い出してまだ血液が速く波打つ。
 なんだってこんなに俺の体は騒がしくなってるんだ。ボフボフとクッションに顔を打ちつけて体の騒がしさを振り払う。そしたら体勢が崩れてソファから転げ落ちて大の字に仰向けになる。
 そのまましばらくぼーっと天井にあるLED電気を見つめる。
 やっと色々と落ち着いてきた。


 隣に越してきた奴。朝倉、弓月。




 「・・・けっこー悪くないじゃん」
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

隣の番は、俺だけを見ている

雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。 ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。 執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。 【キャラクター設定】 ■主人公(受け) 名前:湊(みなと) 属性:Ω(オメガ) 年齢:17歳 性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。 特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。 ■相手(攻め) 名前:律(りつ) 属性:α(アルファ) 年齢:18歳 性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。 特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

ヤンキーΩに愛の巣を用意した結果

SF
BL
アルファの高校生・雪政にはかわいいかわいい幼馴染がいる。オメガにして学校一のヤンキー・春太郎だ。雪政は猛アタックするもそっけなく対応される。  そこで雪政がひらめいたのは 「めちゃくちゃ居心地のいい巣を作れば俺のとこに居てくれるんじゃない?!」  アルファである雪政が巣作りの為に奮闘するが果たして……⁈  ちゃらんぽらん風紀委員長アルファ×パワー系ヤンキーオメガのハッピーなラブコメ! ※猫宮乾様主催 ●●バースアンソロジー寄稿作品です。

番に囲われ逃げられない

ネコフク
BL
高校の入学と同時に入寮した部屋へ一歩踏み出したら目の前に笑顔の綺麗な同室人がいてあれよあれよという間にベッドへ押し倒され即挿入!俺Ωなのに同室人で学校の理事長の息子である颯人と一緒にα寮で生活する事に。「ヒートが来たら噛むから」と宣言され有言実行され番に。そんなヤベェ奴に捕まったΩとヤベェαのちょっとしたお話。 結局現状を受け入れている受けとどこまでも囲い込もうとする攻めです。オメガバース。

処理中です...