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けっこー悪くないじゃん
しおりを挟むけっこー悪くないじゃん。俺があいつを一目見た時に思った感想。
「初めまして。先日隣に越してきた朝倉と言います。すぐに挨拶に行こうと思ってたんですけど、準備に手間取ってしまってなかなか行けなくて・・・。これ、つまらないものですが良かったら貰ってください」
「あらあら!隣に越してきたんですね~!大きくて綺麗なお家が建ったと思ってたんですよ~!え!!これって最近できた和菓子屋さんのやつですか?!」
「はい、ここの和菓子私が好きでとっても美味しかったのでこれを選んじゃったんですが…」
「嬉しい~これずっと気になってたんですよ!でも中々買える機会無くて困ってたのよ~毎日毎日凄い人並んでるじゃない?だから—————-」
母さんが誰かと玄関で話しているのが聞こえた。さっきピンポンが鳴ってバタバタかけて行ったけどなんだかめちゃくちゃ話が盛り上がっているみたいだ。母さんは声がでかいからリビングにいる俺のところまで聞こえてくる。誰と話してるんだ?近所の声がでかい山田のおばちゃん?それとも鼻垂れ坊主こと雅人のお喋り母ちゃんか?大体いつも話し込んでるけど、雅人の母ちゃんならくると毎回お菓子くれるんだよな。
(お菓子欲しいしちょっと覗きに行ってみるか…)
玄関の方までこっそり移動する。もし山田のおばちゃんだったら見つかった瞬間地獄のお喋り会に強制参加させられるからな。念のために用心しておく。
だが俺が予想していた人物達はどこにも居なくて、代わりに居たのは長くて黒い髪の毛の美人な人だった。
ほへーすげぇな。あんな美人な人初めて見た。芸能人みたいだ。あんな人、母さんの知り合いにいたのか?
「今度一緒に都心で有名なケーキバイキング行かない?あそこのスイーツどれも絶品なのよ~」
「本当ですか?私も実はあそこ気になって・・・・・・。!こんにちは。片桐さんの息子さんかしら?」
「え?あら太一居たの?」
後ろで見てたら気づかれて声をかけられた。母さんも女の人の視線を辿って振り返り、俺を見た。
「うん。母さんの声デカくてリビングまで聞こえてたから」
「声でかいって何よ!別にデカくないわよ!もう人様の前でそんなこと言わないでよ母さん恥ずかしいじゃない!」
「いってー!殴らなくたっていいだろ?!俺別に間違ったこと言ってねぇもん!」
母さんが俺の頭をグーで殴ってきた。たんこぶ出来てたら母さんのせいだ。毎度毎度何かと俺の頭を殴ってくるが、暴力じゃなくて口で言って欲しいものだ全く。
「うふふ、片桐さんの所は息子さんと仲が良いのね」
「あはは、この子ったらもう余計なことばっかり言うのよ~困ったもんだわ~。ほら、太一お隣に越してきた朝倉さん。わざわざご挨拶しにきてくれたのよ。あんたもしなさい」
この美人さんはお隣さんだったのか。というか、今俺にゲンコツ場面を見て仲良いって思ったのか?だとしたらこのお隣さんは結構変人なのかもしれない。
そんなことを考えていたら母さんが早くしろと言う目線で圧をかけてくる。そんなに短気だとみんなに嫌われちゃうぞ。
「片桐太一です。小学一年生です。よろしくお願いします」
俺は出来る子なのでちゃんとお辞儀もした。さすが俺、礼儀正しいで賞受賞だな。
「この間太一くんのお家の隣に引っ越してきた朝倉小春です。よろしくね。太一くんは6歳なのね、私の息子も同い年なの。良かったら仲良くしてあげてね」
「え!朝倉さんとこの子も6歳なの?偶然~!良かったわね太一、お友達になれるじゃない」
「多分今家にいると思うから呼んできても良いかしら?」
「えー!良いの?是非挨拶したいわ~」
そういうとお隣さんは一旦自分の家の方へ戻って行った。俺的には別に挨拶しなくても良いし興味もあまりないためリビングに戻ってゲームでもやろうかと思ったが、母さんに肩を掴まれて阻止されてしまった。
「ちょっとどこ行くのよ。朝倉さん家の息子くんが来てくれるんだからここで待っときなさい」
「えー俺別に挨拶しなくても良い。どーせ挨拶したってこれから喋んないだろーし」
「つべこべ言わないの!もーほんとにあんたって子は自分勝手なんだから」
そんなこんなで言い合いをしていたらお隣さんが戻ってきてしまった。母さんめ俺の大事なゲームの時間を奪ったことは高くつくぞ。
「待たせちゃってごめんなさいね。この子ったら挨拶しないって駄々こねちゃって…。ほら、弓月ちゃんとご挨拶しなさい」
お隣さんの後ろになんだかちっこいのが隠れているが、そいつは中々出てこない。挨拶くらい誰でも簡単に出来るだろうに、ただ自分の名前を言って何歳か言うだけだろ?早くしてくれないと俺のゲームする時間が短くなってしまう。
(おっそいな……)
ちっとも挨拶する気配がない。もうめんどくさいから俺が先に挨拶するだけで良いか。母さんも挨拶すれば良いって言ってたしそれならぐちぐち言ってこないはずだ。
「俺、片桐太一。6歳。よろしく」
よし、挨拶はもうしたしゲームをやりに行こう。今度同じクラスの奴らと一緒に対戦するからそれに向けてレベル上げをしとかないといけないし。
くるっと回れ右をしてリビングへ向かう俺を見て母さんはこら太一って言いながらでかい声をあげている。でも、挨拶はもうしたからそのまま歩いて行く。
「・・・朝倉弓月。・・・6歳、です」
ふと後ろから鈴のような声が聞こえてきた。一応無視は良くないかとは思ったため、一言くらい返事は返そうと声の方を振り返る。
見ると、お隣さんの足の後ろから半身だけをこちらへ覗かせていた。
「・・・・・・よろしく」
思っていた以上に一言になってしまった。もっと長めの返事とかしようかなとかちょっと考えてたのに。そいつの姿を見たら咄嗟に言葉が出なくなってしまった。
お隣さんと一緒の綺麗なまっすぐの黒髪にこぼれ落ちそうなほどに大きくてくっきりとした二重の黒目。困ったように垂れた眉毛は身長の低さと相待って小動物を思わせる。キュルキュルとした瞳でこちらを見ている様子になんだか心臓が早く動き出す。
「あらあらあら~天使みたいに可愛いじゃない!よろしくねぇ~!」
「・・・・・・」
「あらら隠れちゃった」
「ごめんなさい、この子人見知りで・・・。初対面の人の前だと出て来ようとしないの。でも今日は珍しく出てきたみたいだけど」
「人見知りならしょうがないわよね~うちの子は逆に自由すぎて人見知りしないわ~!」
母さん達の声が遠くなっていって、目の前の隠れている人物に目がいってしまう。その人物の一挙手一投足を何故だか目で追ってしまう。けど綺麗な黒髪の一部しか見えない。
じっと見ていると、ちらっとこちらの様子を伺おうとしたそいつと目が合う。バチっと目が合った瞬間心臓が苦しくなった。とにかくわけも分からず恥ずかしくてその場にいたくなくて、俺はリビングに逃げるように走り出した。
「やだっあの子ったら!ちょっと太一!戻ってきなさいよ」
「や、やだね!もう挨拶したし!俺、ゲームやんなきゃいけないし!」
「もーっごめんなさいね。ゲームなんていつでも出来るって言うのに」
「いえいえ良いのよ。弓月も隠れたままだし、大人と話すのもつまらなかったのかも」
「朝倉さんったら優しい————-」
ソファにダイブしてクッションに顔を押し付けながらダンゴムシのように丸まる。あの黒髪や丸っこいでかい目を思い出してまだ血液が速く波打つ。
なんだってこんなに俺の体は騒がしくなってるんだ。ボフボフとクッションに顔を打ちつけて体の騒がしさを振り払う。そしたら体勢が崩れてソファから転げ落ちて大の字に仰向けになる。
そのまましばらくぼーっと天井にあるLED電気を見つめる。
やっと色々と落ち着いてきた。
隣に越してきた奴。朝倉、弓月。
「・・・けっこー悪くないじゃん」
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