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エルサを獅子亭の皆へ紹介

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 モニカさんの疑問の声にマリーさんとマックスさんも俺の頭を見る。

「その白い毛並み……まさか……」
「大きさだけ見ると子供なのかしら?」
「……かわいい……けど何か怖い……」
「えっと、こいつはですね……」

 マックスさんは何か思いついたようだ。
 モニカさんは小さい犬のような容姿に保護欲くすぐられているようだが、何となく怖がっているようにも見える。
 さてどう説明しようかなと考えていると、マックスさんが大きく声を上げた。

「……それは、フェンリルの子供か!?」
「フェンリルって、あの猛獣の!?」
「え!?」

 何やら違う答えに行きついたようだ。
 フェンリルって確か、前の世界のラノベなんかでは、狼の魔物だとか神獣だとかで登場することも多かったな。
 どれにしても恐ろしく強い狼のような事が多かったはずだ。
 それを基準に考えるなら、マックスさん達の驚きもわからないでもないが、うーん……実はフェンリルどころじゃないんだようなぁ……。

「フェンリルなんて一体どこで、というか懐いてるのかそれ?」
「フェンリルに会ったら一流の冒険者でも死を覚悟して、必死で逃げろと言われてる魔獣よ」
「フェンリル……だから何か怖さがあったのね……でもかわいい……」

 モニカさんだけは怖さよりも可愛さが勝って来ているようだ。
 マックスさんやマリーさんが解説してくれているようなフェンリルなら、二人が恐れるように後ずさる気持ちもわからないでもない。

「失礼なのだわ!私はフェンリルなんかじゃないのだわ!あんな犬っコロと同じように見ないで欲しいのだわ!」
「喋っただと!?」
「フェンリルって喋ったかしら?」
「だわって言った?」

 何かモニカさんだけ気にするところが違う。
 とりあえず。

「えーっと、これはフェンリルじゃないんです。懐いてるので、襲って来たりしません」
「……ほんとか?」
「ええ、じゃなかったらこんな頭にしがみついておとなしくしてませんよ。頭からガブリじゃないですか?」
「……まあ、確かに」
「じゃあ、それは一体何なの?」
「えーっと……」

 さて、どう説明したものか……ドラゴンって言って信用してもらえるのかな……見た目こんな犬なのに……。
 というかドラゴンって言っていいのだろうか……?

「私はドラゴンなのだわ!神に最も近い生物、魔物何かと一緒にしないで欲しいのだわ!」
「ド……」
「え……」
「……」

 言っちゃった……。
 口止めとかしなかったけどさ、皆固まってる。
 やっぱドラゴンを見たら驚くよね?俺も驚いたし。
 よかった、この世界の常識でもドラゴンは驚く物なんだー、と安心してる場合じゃない。

「えーと、皆さん……大丈夫ですか?」
「……大丈夫じゃない……ドラゴンなんて……人に懐くのか?」
「まあ、俺も最初は犬だと思ってて、ドラゴンって知った時は驚きましたけど、襲って来たりしませんから、大丈夫ですよ」
「ドラゴンなんて見るのは初めてだけど、こんな姿だったのね。話しに聞くには、大きくてとても人がどうこうできる存在じゃないし、人に懐くようなものでもなかったはずだけど……」
「私は人を襲ったりしないのだわ。向かってきたら反撃はするけど、もう何百年もそんな事はしていないのだわ!」
「え、お前何百年も生きてたの?」
「そうなのだわ。正確には……えっと……忘れたのだわ!1000以上は数えるのが面倒になったのだわ!」

 そんなに生きてたのか……。
 もうばあさ……ごめんなさい、なんでもないです……だからしがみついてる頭をキリキリと締め付けるのはやめて下さい……。

「1000年以上って……大きさからしてまだ子供だと思ったが」
「この姿はわざと小さくしてるだけなのだわ。この大きさだとリクの頭にくっつけて居心地がいいのだわ」
「大きさはある程度自由に変えられるみたいです。実際俺は大きい姿も見ましたし、それに乗せてもらってヘルサルまで帰ってきましたから」
「……ドラゴンに乗せてもらったのか……それだけで伝説になれるぞリク……」
「ええ?それはちょっと大袈裟なんじゃないですか?」
「大袈裟じゃないわよ。ドラゴンを見たという人自体いないし、確かおとぎ話とかだと、かれこれ500年前くらい前に人前に姿を出して以来だったかしら」
「……ああ、あの話ね。私が小さい頃母さんに読んで聞かせてもらったお話」
「そうなんですか……」
「人間と関わる事が無かっただけなのだわ。ドラゴンは少ないけど、確かにまだこの世界にいるのだわ」
「ちなみにその500年前っていうのは?」
「なんでもどこかの国がドラゴンの住む場所に大軍で攻め込んだけれど、ドラゴンはそれを簡単に蹴散らしたって話しね」
「そうね、よく母さんに聞かせてもらって、ドラゴンってすごいなあって子供ながらにワクワクしてたわ」

 大軍が蹴散らされてワクワクってモニカさん……。
 それ本来は子供を怖がらせて言う事を聞かせるためのお話だと思うんですけど……。

「……ドラゴンって知られたらマズイです……よね?」
「……そうだな。大騒ぎになるだろうな……」
「それどころか、リクさんが狙われたりとか色々危ない事もあると思うわ」
「……そうですか」

 ドラゴンって事を隠すしかないか……というかヘルサルまで普通に飛んできたよな?誰かに見られたり……あっ東門の兵士……大丈夫かな?何も言われなかったし。

「とりあえず、これからはドラゴンって事は隠していこうかと思います」
「隠すのだわ?」
「ああ、ドラゴンってことがバレたら色々面倒な事になりそうだからな」
「人間は色々あるのだわー」
「フェンリルの子供ってことにするか?いやしかしそれはそれで……」
「フェンリルって猛獣ですよね?それも大騒ぎになりそうですね」
「確かにそうね、」
「だったらさ、犬の子供って事にしたら?珍しい白い毛並みだけど、フェンリルじゃないって言えばなんとかなるんじゃない?」
「……まあ俺も魔獣についてそれなりに知ってるから、最初にフェンリルって出て来たが、実際この姿なら犬って事でなんとかなるかもな」
「ところでリクさん」
「どうしたんですか?モニカさん」

 誤魔化す方へ話がまとまったところで、モニカさんが我慢できないとばかりに目を輝かせながら聞いてくる。

「その子を撫でても、いいかしら?」
「ええ、いいですよ」

 答えると同時に、モニカさんが素早い足取りで横に移動、頭にくっついてるエルサを撫で始める。

「リク、勝手に許可するんじゃないのだわ!」

 エルサは抵抗するように文句を言ってくるが、意外におとなしく撫でられている。

「はあ、これだけおとなしいなら大丈夫なんだろうな」
「ええ、そうね。そういえばリク、ご飯は食べたのかしら?」
「あ、まだです」
「そうか、じゃあ皆で飯にするか」
「リクが帰って来た時のためにって、あの人看板メニューを作ってたのよ、今日はお店を開けてないのに」
「おい、言うなよ!」
「マックスさん、ありがとうございます」
「……おう」

 お礼を言うとマックスさんは照れ臭そうに返事をしながら、厨房へと向かっていった。

「私はキューを要求するのだわ!」
「ドラゴンはキューが好きなのかしら」
「エルサは、初めて会った時俺がキューをあげたら、それが気に入ったみたいでさ」
「ドラゴンは肉食だと思ってたわ……」
「何でも食べるのだわ。でもキューは別格なのだわ!」
「そう、じゃあキューも一緒に用意するわね。あ、私はマリーよ、よろしくねエルサちゃん」
「私はモニカよ」
「エルサなのだわ。よろしくなのだわ」
「俺はマックスだ、よろしくな」

 厨房の方からもマックスが聞こえていたのか声を出し自己紹介している。
 というかモニカさんはいい加減エルサを撫でるのを辞めないのかな。
 いや、モフモフが病みつきになるのはわかるけど、俺も思う存分モフモフしたい。

「じゃあ、ご飯を食べながらリクがどうして遅れて帰って来たか聞きましょうか」

 あ、まだ心配させた事を完全に許されたわけじゃないんだ、ちょっとだけモニカさんの雰囲気が怖い。
 もうしばらくエルサを撫でて落ち着いていてもらおう。


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