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 しばらくの間、魔法で土を操作し続け、ガラスが表面に出てこなくなった辺りで魔力放出を辞めて魔法を止める。
 地面が揺れるのが収まり、バランスを取っていた二人も落ち着いたようだけど、何故か少しフラフラしてる。

「何か、まだ地面が揺れてるみたいな感覚ね」
「感覚が狂っているのだろう。もう少しバランスの訓練をしないといけないな」
「ごめん、魔法を使ってガラスを発見出来たら便利かなと思って」
「もう、リクさん。ちゃんと魔法を使う時は言ってくれないと驚いちゃうわ」
「魔法であんな事も出来るんだな」
「ドラゴンの魔法は変幻自在なのだわ。イメージ次第でなんでも出来るのだわ」
「ほんと便利だな、ドラゴンの魔法って」
「人間の使う魔法と違い過ぎて意味がわからないわ」
「私は魔法が使えないが、魔法が使える人を羨ましく思ったことはない。だがこれだけの事が出来るなら……初めて魔法が使える人を羨ましいと思ったぞ」
「ソフィーさん、リクさんのは普通の人間じゃ出来ない事だからね。魔法が使える人が全員リクさんと同じことが出来ると思っちゃ駄目よ」
「むぅ、そうか」

 便利なドラゴンの魔法、どれだけの事が出来るかの限界はまだわからないけど、これだけの事が出来るだけでも人から羨ましがられるのは仕方ない事なのかな。
 まあ、色々やりすぎないように気を付けよう、うん。

「モニカさん、土の状態を見てくれるかな? 農業に使えそう?」
「そうね、ちょっと色々見てみるわ」
「お願い」

 モニカさんはスコップを取り出し、今までたっていた場所を掘り起こしてみたり、別の場所に移動してまた掘ってみたり、土の匂いを嗅いだりと色々し始めた。

「ソフィーさん、俺達はこのガラスを回収しましょう」
「わかった」

 ガラスは割れてるので、素手で触ると危ない。
 布を取り出し、手に巻いてそれでガラスを触る。
 ある程度形になってるガラスと、砂粒くらいまで砕けてるガラスの粒は別々に置かれ、俺はまず山になって積まれてるガラスの粒たちへと近付いた。

「これ、地面に埋めたら農業の邪魔になるよな……かといってどこかに捨てるにも量が多いし……」
「埋めるだけじゃ駄目なのだわ?」
「ガラスはすぐに土の中で分解されないからな。農業をするんだったら異物であるガラスを含まない土の方が良いんだ」

 って、どっかの本で読んだ気がする。

「深く埋めても駄目なのだわ?」
「深く……か。モニカさん」
「……なあに?」

 地面を調べつつ移動してたモニカさんを呼び止めた。
 モニカさんは手を止め、地面を見てた顔を上げて返事をしてくれた。

「作物の根が張る深さってどれくらいかわかる?」
「えーと……作物によると思うんだけど、確か……1~2メートルくらいだと思うわ」

 1~2メートルか……それなら5メートルくらいの深さで埋めれば影響ないかな……念のため10メートルにしておこう。
 農業知識はあんまり持って無いから、どれくらいの深さで影響が出ないかわからないし、そもそもガラスが影響しない深さなんてものがあるのかも知らない。
 けどまあ、固めたガラスの粒を深い場所一か所なら多分大丈夫だろうと思う。
 何か影響が出てもそこの一か所、狭い範囲で不作ってくらいだろう、と俺は楽観的に考えてる。

「モニカさん、ありがとう。引き続きお願い」
「わかったわ」

 モニカさんは作業に戻ってもらい、俺はガラスの粒たちへと顔を向ける。
 ソフィーさんは……積み重なった形のあるガラスを布に包むのに集中してるな……よし。
 俺は再び魔力を使ってイメージを開始、深く深く穴を開け、その穴の底で熱を生み出す。
 イメージ……イメージ……。

「アースホール」

 土の穴という安直な名前の魔法を発動した。
 ガラスの粒があった場所に穴が開き、山になっていたガラスの粒を吸い込んでいく。
 地面の底についたガラスの粒は、熱されて一つの塊になっていってるはずだ。
 穴を覗き込んだけど、深すぎるせいか光が差し込まず底の方は何も見えない。
 魔力探査で地面の下の様子を窺ってみたら、ガラスの粒は一塊になってるのがわかった。
 あとはさっきガラスを集めた時の魔法を狭い範囲で使って穴を塞げば大丈夫、と。

「リクもそこそこ魔法の扱いが出来るようになったのだわ」
「まあね。イメージをしっかりするのが大事なのにも少しは慣れて来た」

 おかげで一度使った魔法は魔法名を言うか、言わなくても脳内で呟くようにすればイメージが湧いて発動できるようになって来た。

「魔力の大きさに気を付ければ安心なのだわ。考えも無しに大量の魔力を込めて魔法を使わないようにするのだわ」
「わかってるよ。ゴブリン達を相手にした時のような全力で魔力を込めるなんてもうしないって」
「あれは私も危険を感じたのだわ。注意するのだわ」
「はいはい」

 さすがにあの時のような事はしないって。
 魔力を全力で込めて魔法を使ったらどうなるか実際に見たし、今ここでその後処理みたいな事をしてるわけだしさ。
 あんな魔法を使う事なんてもうないだろ。
 俺はのんびり生きて行きたいんだ。
 冒険者だから多少の戦闘はしても、戦争だとか大規模な事なんてしたくないし巻き込まれたくない。
 というか、同じような規模の戦闘なんてそうそうないだろ。
 ここがいくらファンタジーな世界って言ってもさ。
 ……ないよね?

「リク、こっちは終わったぞ。全部布に包んで鞄に詰めた。何とか持ち帰れる量で良かった」
「あ、ああ。ソフィーさん、ありがとうございます。こっちもガラスの粒の処理が終わりました」
「処理? ……あの私の身長より高く積まれてたはずのガラスの粒が見えないが、どうしたんだ?」
「……魔法で穴を開けて地面の奥深くに埋めました」
「…………本当にリクの魔法は規格外なんだな……あのガラスの粒たちを埋める程の穴を開けてさらに埋めるのをこの時間でやるとは」
「ははは」

 ここは笑っておこう。
 規格外とか普通じゃないってのも段々と慣れて来たよね、うん。
 こっちはそれでいいとして、モニカさんの方はどうなったかな?

「リクさーん、ざっとだけど調べ終わったよー」

 モニカさんが離れた所から俺の方へ手を振りながら来た。
 ちょうどいい所へ来たね。

「ありがとうございます。それで、どうでしたか?」
「専門じゃないので、なんとなくだけど。ここの土はすごい良い土ね。作物が育つのに十分すぎる程栄養がありそうよ。それに土自体も柔らかいから開墾するのにも適してると思うわ」
「そうですか。ならヘルサルの街でも農業が出来そうですね」
「そうね。まあ本当に農業が出来るかどうかは、詳しく調べる専門の人を使って街が調べるでしょうね。ガラスもリクさんが全部取り出したようで掘っても出てこなかったわ」
「そうですか。ならこれでここの調査は終わりましたね」

 そう言いながら空を見た。
 食事をしてから結構な時間が経ってる。
 日が傾き始めてる。
 まだもうしばらくは暗くはならないだろうけど、さっさと移動する事にしよう。

「次はセンテの街近くにある森に潜伏してるらしい野盗の退治かな」
「そうね」
「うむ。野盗の残党とは言え油断せずに行くぞ」

 こちらは確実に戦闘になると思う。
 ソフィーさんはわからないけど、俺とモニカさんは森での戦闘は不慣れだ。
 日が暮れてしまうともっと慣れない戦闘をすることになるから早く向かおう。
 森での夜間戦闘なんて出来れば避けたいからね。

「エルサ、移動するから大きくなってくれ」
「……ふゎ! ……寝てたのだわ」

 お前、さっき俺と普通に話してたはずなのに、あの短時間で寝てたのか……。


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