269 / 1,955
線香花火の魔法
しおりを挟む「じゃあ、この花は国民なら誰でも知ってるわけですね?」
「全ての国民が……とは言い切れませんが、他の花よりは知っている人が多いでしょう」
「そうですか……」
国花なのだから、他の花よりは知名度があるのは確かだろう。
「ヘルサルでも、この花は多く見られたわね」
「センテでもそうだな」
「……エルフの集落はどうだったかしら?」
「お前は……エルフなのだから、それくらい覚えていろ。……確か、集落近くの草原に多く咲いていたはずだ」
モニカさん達もその花を見ながら、思い出すように言っている。
確かに言われてみれば、ヘルサルや他の場所でも見たかもしれない……花にあまり興味が無かったから、覚えていないだけで……。
花に興味のない男なんて、珍しくも無いよね! と考えて自己弁護しておく。
「それじゃ、イメージをするのはこの花が良いね。えっと……花の名前はなんですか?」
「……りっくん、それは聞かないで良いわよ……」
「え? でも、花の名前を知ってた方が覚えやすくて、イメージもしやすいと思うんだけど……?」
「……それでもよ」
「メアリーです」
「ちょっと、ヒルダ!」
「え?」
「この花の名前はメアリーです」
「メアリーって……姉さんの名前と一緒?」
「はぁ……だから知られたくなかったのに……。お父様が、国花にした時改めて名前を決めたの。それまでは名前も特に決められてなくて、色んな名前で呼ばれてたらしいけど……おかげで、この花の名前が統一されてしまったわ……」
花の外観を覚え、もっとしっかり記憶するために名前を聞くと、姉さんが渋い顔で反対した。
どうしてだろうと思っていたら、サラっとヒルダさんが答えてくれた。
恥ずかしそうにする姉さんだけど、確かに自分と同じ名前を付けられた花の名前を教えるのは、恥ずかしいのかもしれない……俺と同じ名前の花とかがあったら……確かに人に言いたくないね。
頭の中にどこぞの、映画のタイトルが浮かんで来たけど、関係があるわけもなくすぐに打ち消した。
ヒルダさんが言ってしまったのだからと、諦めた姉さんはどうしてその名前になったのかを説明してくれた。
国花になった理由は知らなくても、自分の名前と同じになった経緯は知ってたみたいだ。
「前国王様は、姉さんを可愛がってたってのはよくわかるよ、うん」
「前国王陛下は、現陛下の事を目に入れても痛くないと、常日頃から豪語されておりました」
「はぁ……可愛がってくれてたのは確かだし、私もお父様を慕っていたけど……大袈裟に皆へ触れ回るのはどうかと思うわ……」
俺のフォローになってるのかなってないのか、わからない言葉に、ヒルダさんが頷きながら前国王様の事を教えてくれる。
姉さんの方は、溜め息を吐いている様子だけど、嫌がってるってまでは行ってないから、きっといい父親だったんだろうなと思う。
この世界で、姉さんが良い親に恵まれて、元弟の俺としても嬉しい。
「そんな話より、線香花火よ、線香花火! 久しぶりに見たいわ!」
「姉さん……話を逸らしたね……?」
「そんな事無いわよ? ほら、花はもう覚えたでしょう? 早く線香花火を試すわよ!」
「はいはい……」
前国王様や、花の名前の話で恥ずかしくなったのか、姉さんが急に線香花火を急かして来る。
まぁ、確かに色んな人に聞かれるのは恥ずかしい事って、あるけどさ。
強引に俺と花を引き離す姉さんに、適当に返事をして、線香花火を試す準備に入る。
「リク様、お水はこちらに用意させていただきました」
「大量ですね……ありがとうございます」
「リクさんが失敗したら……これでも足りないかもしれないわね……?」
ヒルダさんが用意してくれた、もしもの時の水は、人が入れそうな程大きな桶数個分。
並々と水が入っているから、それだけでちょっとしたプールの水くらいありそうだ。
それでも、モニカさんは足りないかもと心配そうだったけど……俺が失敗しなければ良いんだよ、うん。
……頑張ろう。
「えと、ここなら良いかな?」
「そうね。花壇からも離れてるし……もし失敗しても、燃え移ったりする心配も少ないわ」
「……花壇から離れたのは良いんだけど、どうして皆も離れてるの?」
「だって……ねぇ? 皆があれ程心配してるんだもの……」
「もしリクさんが失敗したら、すぐに逃げられるように……」
「今回は火を使う魔法だからな、もし失敗した場合を考えてだな……」
「エルフの魔法より強力なリクの魔法だからね……爆発に備えて?」
「まぁ、あれだ。俺達の事は気にせずに……」
花壇から離れ、置かれている桶の近くで魔法を試そうと思ったんだけど、何故か俺から距離を取ってる皆の事が気になる。
数メートルは離れてるから、確かに失敗しても影響は少くて済むんだろうけど……何だか釈然としない。
……俺、そんなに魔法を失敗してきたかな……?
初めて魔法を使った時は、確かに一面凍り付かせたりしたけどさ……。
「はぁ……まぁ良いや。じゃ、魔法を使うよ?」
「ええ……ゴクリ……」
皆に声をかけ、姉さん達の唾を飲み込むような音が、中庭に響いた気がするけど、気にしないようにした。
……俺の味方は、唯一近くで待機してくれてるヒルダさんだけだよ、まったく。
ヒルダさんは、俺の魔法を間近で見た事が無いから、失敗時の想像ができて無いだけかもしれないけど……。
とにかく、魔法を使うために集中……イメージを固める。
「指先から……小さい火花が弾けるイメージ……」
目を閉じてしゃがみ込み、指を地面に向けて頭の中でイメージを始める。
魔力は極小。
魔力を使うとすらあまり考えないようにして、最低限に留める。
最後に魔法名を……。
「パチパチ……」
魔法名は、口の中で弾ける綿のような駄菓子を思い出し、頭に浮かんだのはそれだった。
弾けるってイメージがちょうど良かったからね。
魔法が発動する感覚と共に、指の先から小さな火が浮き上がる。
火の魔法を使った時と同じだね……爪の先くらいの大きさだけど。
「それが線香花火? 小さい火の魔法にしか見えないけど……」
「これからだよ。よく見てて」
小さい火から、細い線が地面に向かって数センチだけ伸び、その先に小さな火の塊が移動し、そこから周囲に火花を散らすようにして弾け始めた。
パチパチパチパチ……。
暗闇に火花が散るのと一緒に、弾ける音が響き渡る。
俺もそうだけど、皆言葉を発する事を忘れてその火花を見つめた。
弾ける音が線香花火とは少しだけ違う気がしたけど、見た目はほとんど同じだ。
これだけ再現出来たら成功だろうね。
1分にも満たない時間、皆でその弾ける火花を見続ける。
しだいに火花が小さくなり、弾ける回数も減り、やがて小さく燃える火だけが残った。
「……終わり?」
「終わったのか?」
「失敗……しなかったわね?」
「警戒する程ではなかったか……」
「まだよ……これからが線香花火の醍醐味よ」
「姉さんの言う通り、もう少しだけ見てて」
火花が出無くなった事で、皆が終わりだと思って声を出す。
ほとんど俺が失敗しなかった事への、安堵だった気がするけどね。
それはともかく、姉さんと俺が皆に言って、もう少しだけっ守るよう伝える。
線香花火は、最後の火が落ちる様子が儚くて余韻が良いんだよね。
「ほら……」
線香花火と言えば、最後のこれが無いと終わったとは言えない。
そう考える俺の言葉と一緒に、暗闇に尾を引いて、指先にあった小さな火が地面に落ちて消えて行った……。
11
あなたにおすすめの小説
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!
胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。
主に5大国家から成り立つ大陸である。
この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。
この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。
かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。
※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!)
※1話当たり、1200~2000文字前後です。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
科学×魔法で世界最強! 〜高校生科学者は異世界魔法を科学で進化させるようです〜
難波一
ファンタジー
「魔法ってのは……要はエネルギーの制御だろ?」
高校生にして超人的な科学知識を持つ天才・九条迅は、ある日、異世界アルセイア王国に「勇者」として召喚された。
だが、魔王軍との戦争に駆り出されると思いきや——
「お前、本当に勇者か? 剣も魔法も、まともに使えないのか……?」
「科学的に考えれば、魔法ってのはもっと進化できるはずだ!」
剣も魔法も素人の迅だったが、「魔法を科学的に解析し、進化させる」という異端の方法で異世界の常識を根底から覆し始める!
魔法の密度を最適化した「魔力収束砲」
魔法と人体の関係を解明し、魔力を増大させる「魔力循環トレーニング」
神経伝達を強化し、攻撃を見切る「神経加速《ニューロ・ブースト》」
次々と編み出される新技術に、世界は驚愕!
やがて、魔王軍の知将《黒の賢者》アーク・ゲオルグも迅の存在に興味を持ち始め——
「科学 vs 魔法」「知能 vs 知能」
最強の頭脳戦が今、幕を開ける——!
これは、「魔法を科学で進化させる勇者」が、異世界を変革していく物語!
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
目を覚ますと雑魚キャラになっていたけど、何故か最強なんです・・・
Seabolt
ファンタジー
目を覚ますと雑魚キャラに何の因果か知らないけど、俺は最強の超能力者だった・・・
転生した世界の主流は魔力であって、中にはその魔力で貴族にまでなっている奴もいるという。
そんな世界をこれから冒険するんだけど、俺は何と雑魚キャラ。設定は村人となっている。
<script src="//accaii.com/genta/script.js" async></script><noscript><img src="//accaii.com/genta/script?guid=on"></noscript>
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる