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祝勝パレードの朝

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「とにかく、エルサに言われたように失敗しないようにしないと……」
「当然なのだわ。私は見てないのだわ。けど、今日の事でリクに失敗癖が付いたら、傍にいる私が大変なのだわ」
「失敗癖って……頑張るよ」

 失敗癖と言われてもな……そんなに失敗して来たっけ、俺?
 初めて魔法を使った時や、この前のワイバーンの時、あとはさっきの線香花火の時くらいかな?
 それ以上に成功してる魔法の方が、多いと思うんだけどなぁ……。
 ヘルサル防衛の時は、ちょっとやり過ぎたと思ってるけど。

「余計な事を考えずに、魔法をしっかり考えるのだわ。私の手を煩わせないで欲しいのだわ」
「はいはい、わかったよ」

 エルサに言われて、余計な事を考えるのを止め、魔法のイメージを再開する。
 俺が失敗して、エルサが結界を……となると、それはそれでデモンストレーションになるんじゃないか……なんてちらりと考えたけど、さすがに集まった人達を危険に晒すわけにいかないからね。

「打ち上げるまで破裂しないように……以前使った風の魔法の応用、で良いかな。あれはそれなりに丈夫だったし、踏まれるまで破裂しなかったし……」

 アルネに投げられて、地面に落ちても破裂しなかった風の魔法。
 だけど、あのままだったら空に打ち上げても、ただそのまま落ちて来るだけだ。
 んー……。
 時限装置のようなイメージが良いか。

「えっと、投げるんじゃなくて、手から空に放たれるようにして……どれくらいで危険が無くなる場所まで行けるかな?」
「私に聞かれても、わからないのだわ。どれだけの速度で打ち上げるかにもよるのだわ」
「そりゃそうだね……えっと……」

 花火の大きさから考えて、ちょっと高めに飛ばそう。
 その方が遠くまで見えるだろうし。
 だとすると……確か大玉の花火の高さが200メートル後半だと聞いた覚えがある。
 それと近い感じで、300メートルで良いか……その方が安全だろうし。
 ちょっと見えづらいかもしれないけど、その分大きくすれば良い……と安易に考えてる。

 あとは撃ちあがる速度だけど……イメージして……ふむ……この速度なら5秒……いや、10秒で破裂するようにすれば良いか。
 手から打ち上がり、10秒で300メートル付近に到達、そこで破裂して広がった火花の絵が花の形になる……と。

「よし、イメージはできた。あとは明日を待つだけだ」
「ようやく終わったのだわ? だったら、早くお風呂に入るのだわー」
「ドライヤーもそうだけど、結構お風呂も気に入ってるよね、エルサ?」
「私の毛のモフモフを保つためには必要なのだわ!」
「ははは、俺もそのモフモフが損なわれて欲しくないからね、しっかり洗うよ」

 想像以上にお風呂を気に入ってるらしいエルサを連れて、一緒にお風呂に入った。
 その後はドライヤー魔法で、毛を乾かしてからベッドに入る。
 先に寝ているユノの隣にエルサを置いて、逆側に俺が入ってエルサのモフモフと一緒に眠りに就く。
 その中でも、頭の中では花火のイメージを固めて覚える事を忘れない。

 ……さすがに今度は、失敗しないようにしなきゃいけないからね。
 さぁ、明日はいよいよパレードだ。


――――――――――――――――――――


「リク様、おはようございます」 
「……おはようございます、ヒルダさん」
「んー……おはようなの……」
「まだ眠いのだわ……」

 翌日、昨日の夜が少し遅かったためか、自分で起きる前にヒルダさんによって起こされた。

「朝食の支度ができております。本日はパレードのため、朝食後は鎧を着てもらい、城の前に集合する手筈となっております」
「はーい」

 母親に起こされる子供のような返事をしながら、ベッドから起き上がる。
 一緒に寝ていたユノやエルサも起き出し、のろのろと朝の支度を始める。
 エルサは俺と同じで、寝るのが遅かったからか少し眠そうだ……線香花火を試した時には寝てたのにな……。
 ユノの方は逆に寝過ぎたのか、少し体がだるそうだ。
 ……今度、体がなまらないように、依頼が無い時はヴェンツェルさんかハーロルトさんにでも頼んで、訓練をして体を動かした方が良いかな?

「キューが美味しいのだわー。目が覚めるのだわー」
「モキュモキュ……」
「ありがとうございます、ヒルダさん。いつもお世話を掛けます……」
「いえ、仕事ですから。それに、英雄と言われるリク様のお世話ができて、光栄ですよ」
「ははは、そんなに大したもんじゃないですけどね……」

 エルサとユノが幸せそうに朝食を頂くのを眺めながら、俺も食べつつヒルダさんにお礼を言う。
 いつも色々なお世話をしてくれて、助かってるからね。
 自分でできないわけじゃないけど、誰かにやってもらうのは本当に楽だ。
 ……このままここで生活してると、堕落してしまうかな?
 いやいや、冒険者としての活動をしっかりしていれば、大丈夫なはずだ! きっと……多分……。

「ではリク様、こちらを。サイズの方は昨日職人に頼んで、直させて頂きました」
「ありがとうございます」

 朝食後は、パレードのための準備。
 顔を洗ったりしている間に、ヒルダさんが用意してくれていた鎧を着る。
 昨日採寸して、もうサイズを直したなんて……城にいる職人さんは腕利きなんだなぁ。
 ともあれ、ユノにエルサがくっ付いて準備をしている間に、ささっと鎧を身に着けた。
 一度着た事がある物だから、初めての頃よりは着るのも早くなってる。

 少しだけ大きく感じた以前よりも、体にぴったりで動きやすいような気がするなぁ。
 サイズ調整してくれた職人さん達に感謝だね。

「では、皆様の所へ参りましょう」
「はい」
「行くのだわ」
「行くのー」

 ヒルダさんが先導して、部屋を出て城の外へと向かう。
 その途中の城内では、俺達が歩く先にズラリと兵士が並んでいて、俺が通る時に頭を下げて道を作ってたから驚いた。
 こういうのも、パレードの一環なのかもしれないね。


「リク様をお連れしました」
「うむ、ご苦労」
「おはようございます、ヴェンツエルさん」
「おはよう、リク殿。……良い日だな」
「はい、そのようですね……」

 城の外に出ると、整列した兵士さん達が俺を迎えてくれた。
 その先頭にいるヴェンツェルさんの所まで行き、ヒルダさんが礼をして下がって行った。
 多分、ヒルダさんはここまでなんだろう……確か、昨日もらった書類に書いてあった……ここからは、軍のトップであるヴェンツェルさんが先導するはずだ。
 ヴェンツェルさんは、俺の挨拶に返しながら空を仰ぎ見る。
 それに倣って俺も空を見た。
 今日は雲一つない快晴……絶好のパレード日和だ。
 ……俺のためのパレード、と言うのがちょっと恥ずかしいけど。

「さて、リク殿。準備は良いか?」
「はい。いつでも大丈夫です」
「大丈夫なのー!」
「いつでも良いのだわ」
「では……リク殿の馬をここへ!」
「はっ!」

 ヴェンツェルさんの言葉に、頷いて答える。
 ユノも元気に返事をして、その頭にくっ付いてるエルサも返事をした。
 今日は、俺が馬に乗る事もあって、エルサはユノの頭にくっ付いてる。
 俺以外の皆は、外から見える馬車に乗って移動するらしいから、馬を刺激しないようそっちで……という事らしい。
 一人、俺だけ馬に乗って移動するんだけど、ちょっと緊張するね。
 今まで、ずっと誰かと一緒だったから……まぁ、今回は俺のためだけのパレードなのだから、仕方ないか……。


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