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場所確保に必死なマティルデさん

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「えっと、次の通りは……」
「次は、さっきの大通り程じゃないけど、十分大きな通りよ。りっくんには馴染みのある場所を通るわ」
「馴染みのある場所?」
「冒険者ギルドよ」
「あぁ、そうか。成る程ね……」

 頭の中に、ハーロルトさんが用意してくれた、書類に書いてあった事を思い浮かべながら、次の通りはどこかと考える。
 小さく呟いた俺の言葉に反応して、姉さんが小声で教えてくれた。
 姉さんは、しっかり通る道中が頭の中に入ってるようだ……さすがは女王様ってとこかな?
 これくらいの事を覚えるのは、お手の物って事だろうね。
 ……俺の覚えが悪いともとれるけど。

「マティルデさん、いるかなぁ?」
「マティルデ? 誰なの?」
「冒険者ギルドの、ギルドマスターだよ。確か……この王都や国の冒険者ギルドを統括してるって話だね」
「成る程ね、道理で聞き覚えがあると思ったわ。女性の名前だし、りっくんの気になる人かと思ったけど……違った?」
「そんなわけないじゃないか……。マティルデさんは年齢不詳だけど、今の姉さんより年上っぽく見えるから、俺なんか相手にされないよ、はは」
「わからないわよ? 結構、年下の男の子を好きになる女性もいるものよ」
「……そんなもんかな?」

 冒険者ギルドがある通りまでの間、姉さんと小さな声で会話する。
 今は小さな通りを進行中だから、人の数は少なく歓声も多くない。
 俺と姉さんの会話は多分、周囲に聞こえててもおかしくないと思うんだけど、聞こえないふりをしてるような雰囲気がある。
 皆に聞こえたら……と考えていた俺の心配って……。

 それはともかく、姉さんとのマティルデさんに関する話。
 マティルデさんは、妙に色気を出してるような時があるのは確かだけど、俺のような青二才を相手にするとは思えない。
 冒険者ギルドの統括マスターだから、他に屈強な人達を見て来てるだろうし……見た目の年齢的に、もうすでに良い人はいるんじゃないかとも思う。
 そりゃ確かに姉さんの言う通り、年下が好きな人もいるだろうけど……男でもそうだし……。
 何にしても、俺には縁のない話だろうなぁ。

「そろそろ、冒険者ギルドの前ね」
「そうだね」

 再び大きな通りに入ってしばらく進む。
 最初の大通りよりは小さいけど、ここも十分大きい。
 左右に兵士さん達が、進む道を作るための整理をして、その外側には人が溢れていた。
 ……この景色は、町に出てから全然変わらないなぁ。

 ゆっくりと進みながら、遠くを見ると、特徴的な建物が近付いて来るのがわかる。
 それは、どこぞの宮殿のような、丸くて黄色く、赤い線が何本か入った、とても目立つ装飾がのっかった建物だ。
 中央冒険者ギルドの建物って、改めて見ても、やっぱり目立つなぁ……。

「りっくん、何度か見た事はあるけど……やっぱりあれって、地球から来た人が建てたと思うのよね……」
「姉さんもそう思う? 俺も初めて見た時はそう思ったよ」
「そうよね……宮殿じゃないけど、宮殿みたいな装飾だもの……こっちの世界には無いセンスだわ」
「でも、そんな簡単に異世界からこっちに来る事って、できるのかな?」
「簡単じゃないだろうけど……実際に私とりっくんは、方法は違えどこうしてここに来てるわけだしね?」
「そりゃまぁ、そうだね……」

 そんな事を話しながら、建物の特徴的な装飾を見つめる俺と姉さん。
 姉さんの言うように、何らかの理由で昔、この世界に別の地球から来た人が作った……という可能性も捨てきれないのは確かだね。
 でも、この世界にいる人が、独特なセンスであれを作ったとも考えられる……この世界にないセンスとは言え、変わり者はどこでもいるものだしね。
 
 そんな事を話しているうちに、冒険者ギルドの近くまで来た。
 おや、冒険者ギルドの前に、見た覚えのある人がいるような……?

「何か……他とは違う集団がいるように見えるんだけど……?」
「そうだね。真ん中に空間を開けて、周囲を固めてる?」

 馬に乗っていて、視点が高いからその場所がよく見える。
 複数の何かしらの装備をした集団が円を作り、真ん中に空間を開けるようにして佇んでいる。
 真ん中には、女性が二人いるのがわかった。
 えっと、マティルデさん……かな?

「リク君~!」
「ははは、マティルデさんだね」
「あれがそうなのね。もう一人の女性は?」
「えーっと、確かギルドで受付をしてた人だね。何度か話した事があるよ」
「ふーん」
「こっち、こっちよ、リク君~!」

 マティルデさんは、集団の中でこちらに大きく手を振って、体を弾ませてアピールしている。
 隣にいる受付の女性は、そんなギルドマスターの姿に少し恥ずかしそうにしながらも、小さく手を振っているのが見えた。
 マティルデさん達の集団の前まで来た辺りで、こちらからも手を振り返しておく。

「……屈強な集団に見えたんだけど……もしかすると、皆冒険者なのかな?」
「そうかもしれないわね。冒険者を使って、周りを囲ませ、観衆に埋もれないようにしているんでしょう。職権乱用とも取れるけど……依頼として行ってるかもしれないから、何とも言えないわね」
「あははは。それだけマティルデさんが、このパレードを見たかったって事かもしれないね」

 近くを通る事で、マティルデさん達を囲む人達の事がよく見える。
 国の兵士達のように統一された装備じゃないけど、それぞれ鎧だとかを着ていて、普通の町民には見えない。
 武器を下げていないのは、パレードや警備に対して攻撃する意思がない事の表れなんだろうね。
 ……ナイフくらいは持ってるような人もいたけど。

「リク君~、またギルドで待ってるわよ~!」
「らしいわよ? 今度ギルドに行くのが楽しみね?」

 マティルデさんが叫んだ言葉に、姉さんが楽しそうにしてる。
 まぁ、待ってると言われてるんだから、またギルドには行こうと思うけど……そこまで楽しみでも無いかなぁ……?
 何故かマティルデさんと会うと、モニカさんとユノが警戒してる様子なんだよなぁ……ユノはモニカさんに何かを言われてるからだろうけど……。


「姉さん……そろそろ疲れて来たんだけど……?」
「我慢よ、りっくん。ほら笑顔、笑顔」
「……うぅ」
「パレードを見に来てる人達は、りっくんを見に来てるのよ? それなのに、疲れた顔をしていたらいけないわよ。りっくんにとってはずっと続いてる事だけど、見に来た人達にとって今のりっくんは初めて見るんだから、笑顔を見せてあげなきゃ」
「……頑張る」

 マティルデさんのいるギルド前を通り過ぎ、いくつかの通りを過ぎた頃、さすがに笑顔を維持しているのも疲れて来た。
 体とかは疲れていないんだけど、ちょっと笑顔が引きつってるかもしれない……。
 姉さんに言われて、気を持ち直して笑顔を維持するけど……そろそろ昼を大分過ぎた頃か……長時間笑ってるってのも、結構辛いんだね。
 姉さんは慣れてるのか、平気な顔をしてるけど……いや、ちょっと口の端の方が怪しい?

「姉さんも、結構……?」
「……それはそうよ。パレードなんて、即位して以来だし。人前に出る事はよくあるけど、これだけの時間観衆の前に出ている事はほとんど無いわ」


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