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街に繰り出せない事態

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「はぁ……色々と疲れたな……」

 夕食の後半は、エルサやユノと奪い合うようにしながら食べた。
 全員が休むために退室して、今は俺とエルサだけになった。
 姉さんだけは、「仕事が増えたわ……」とか言いながら、溜め息を吐いて出て行ったけど。

「とりあえず、パレードは終わったから……また明日から冒険者として頑張るかなぁ……いてて……いや、明日は休もう」
「休むのだわ?」
「疲れが溜まってるわけじゃないんだけどね。ちょっと顔が痛くて……」
「顔なのだわ?」
「表情筋って言うのかな? ずっと笑顔だったからね……」
「何で人間は、そんなに笑顔を振りまかないといけないのだわ? 辛いならそこまでしなくても良いのだわ?」
「そうなんだけどね……ああいう時、笑顔の方が印象が良いからな。それにまぁ、無表情よりは見に来た人達も良いだろうからね」
「……よくわからないのだわ」

 エルサは、パレードの時に俺達が笑顔を振りまいていた事が疑問らしい。
 見に来た人達も、怒ってる顔や無表情な顔を見るよりか、笑顔を見たいと思うんだ。
 まぁ、クールな表情を見たいという人もいるかもしれないけど、それは一部の人達だけだろうしな。

 人間が何故そんな事をしているのか、エルサに教えるのは難しいな……と考えながら、一日が終わって行った。


――――――――――――――――――――


 パレード翌日は、モニカさん以外の皆が顔が痛いと訴えていたので、考えていた通り、一日まったりとして過ごした。
 休んで、しっかり疲れを取った後、新しい依頼を求めて、冒険者ギルドへ向かう。

 朝食を頂いた後、何となく部屋に集まった皆と一緒に、城を出てギルドへと向かった……向かったんだけど……。

「はぁ……さっきは凄かったな……これじゃ普通に町を歩けそうにないよ」
「そうねぇ。やっぱりリクさんが囲まれてたわね」
「私達の方にも来たがな」
「モニカとソフィーはまだマシよ。私とアルネなんて、エルフに対する好奇の目を向けて色々近づいて来るのよ?」
「まぁ、そういう目で見られるのは、集落を出た時に覚悟していたがな。だが……さすがに数が多過ぎる」
「人が凄かったの! 押し寄せて来たの!」
「ゴブリンが群がって来るのを思い出したのだわ」

 城を出て、大通りを見ながらギルドに向かおうとした俺達なんだけど、すぐに城へと引き返して来た。
 理由は簡単。
 俺達を見つけた人達に囲まれて、前に進もうにも進めず、何とか人の隙間を抜けて城に戻って来たんだ。
 しかしエルサ、ヘルサルの時の事だろうけど……さすがにゴブリンと一緒にするのは失礼じゃないか?

「……姉さんが言ってたのはこの事か……」
「陛下が?」
「うん。昨日パレードが終わってすぐに話してたんだけど……これからは町を歩くのも一苦労だろうって……」
「一苦労どころか、歩く事もままならない気がするが……」
「陛下の言う通りね……」

 人に囲まれる事は悪い事じゃないんだろうけど、さすがにこれはなぁ……。
 皆、さっきの騒動を思い出しながら、一様に溜め息を吐いてる。

「皆様、昼食の支度が整いました」
「あぁ、ヒルダさん。ありがとうございます」
「もうお昼だったの? 結構、さっきの騒ぎで時間を取られてたのね」
「そうみたいだな」
「人を掻き分けるのが大変だったわ……」

 城を出たのは、朝食を食べてすぐだったのに、外に出て引き返すだけで、もう昼になっていた。
 それだけ、人から囲まれ、それの対処をしたり、抜け出したりするのに時間がかかったって事か。
 これが群がる魔物とかだったら、皆で協力して蹴散らして……なんて事もできるんだけど、さすがに罪もない人達相手にそんな事はできないしなぁ。
 エルサだけは、魔法を使おうとして口を開けたから、慌てて止めたけど。

「はぁ……どうしよう、これじゃまともに町を歩けそうにない……」
「ええ。はぁ……」

 ヒルダさんに用意してもらった昼食を頂きつつ、これからどうするかを考える。
 冒険者ギルドに行けないくらいなら、まだ良いけど……町を歩いたり、買い物をする事もできそうにない。
 せっかく大通りの補修も終わったから、そっちを見て回りたいと思ってたのに……パレードの時に通ったけど、落ち着いて見れなかったからね。
 それにあの時は人が多かったし、店もほとんど閉まってたしなぁ。

「……皆でバラバラに行動するのはどうだ? 固まって行動するから、人が集まって来るんじゃないか?」
「それが良いかもね」
「そうだね……これを食べたら、そうしてみよう」

 ソフィーさんが提案し、外へ行くメンバーを分けて行動する事にした。
 俺とエルサ、モニカさんとユノ、ソフィーとフィリーナとアルネはそれぞれ単独だ。
 これなら、目立つ事も少なく、人が集まって来ないかもしれない。

「それじゃあ、私は西の冒険者ギルドに行ってみるわ」
「私は、北の冒険者ギルドに行こう」
「冒険者じゃないけど、話を聞くだけなら大丈夫そうだから、私は南ね」
「俺は、東だな、わかった」
「じゃあ、俺は中央だね。マティルデさんとも話さないといけないし」

 それぞれ、広い王都にある5つのギルドに別れて、何か依頼が無いかを確認する事にした。

「……リクさんだけで中央に……? ちょっと心配ね……」
「何が? ……あぁ! さすがにもう、勝手にAランクの依頼を受けてきたりしないよ」
「そうじゃないんだけどね……うーん、どうしたものか……」
「?」

 何故なのか、俺が中央冒険者ギルドに行く事に難色を示すモニカさん。
 マティルデさんに、パレードの時に苦情が来ていた事を言わないといけないし、依頼の確認をしやすいんだよなぁ……。

「大丈夫なのだわ。私がいるのだわ」
「……エルサちゃん、頼んだわよ!」

 モニカさんが何を考えているのか、エルサはわかっているらしい。
 俺には教える事無く、力強くエルサに頼むモニカさん。
 エルサとモニカさんだけで通じ合ってるようで、少し寂しい。

 ともあれ、昼食を食べ終わり、ヒルダさんに淹れてもらったお茶を飲んで落ち着いた後は、気合を入れて皆で別れて城の外へと繰り出した。
 またすぐ帰って来るだろう……なんて考えているようなヒルダさんの笑顔が、印象的だった。
 ……むぅ、絶対ギルドまで辿り着くんだ!


「はぁ……」
「駄目だったわ……」
「朝よりは人は少なかったんだがな……」
「それは、皆が別れてたからでしょう?」
「人も別れて俺達も別れて……対処できる人数も減ったから、結局どうにもできなかったな」

 駄目だった。
 結局、皆朝と同じように城まで逃げ帰り、良い笑顔のヒルダさんに迎えられてしまった。
 別れて行動したから、見つかるまでは少しだけ猶予があったけど、結局ギルドまでの半分も行かないうちに見つかって、囲まれてしまった。

「リクさんだけだと思ったのに……私達まで……」
「あぁ……リクがいなければ大丈夫だと思ったんだが……」
「私達は、エルフだから……目立つのかしら?」
「むぅ……わからんな」

 ソファーに座り、皆で項垂れてしまった。

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