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クレメン子爵の情報

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「リク様、皆さん。少し話があるのですが……よろしいでしょうか?」
「マルクスさん? はい、わかりました」
「……それじゃあ、少し離れましょう。ロータの邪魔になってもいけませんしね」
「私は、このままロータを指導しておこう。話はリクとモニカがしてくれ」
「うん、わかった。ロータをお願いね」

 ソフィーと話をして、ロータの様子を見ていると、マルクスさんが近付いて来て真剣な表情で話しかけて来た。
 食事後に村の様子を見て回ると出ていたマルクスさんだけど、何か気になる事でもあったんだろうか?
 ロータの事はソフィーに任せ、邪魔にならないように少しだけ離れ、広場の隅に移動しマルクスさんと話す。

「リク様達が魔物と戦っている間と食事後、村の者から情報を集めていたのですが……」
「情報?」
「はい。シュタウヴィンヴァー子爵の事です」
「シュタウ……あぁ、クレメン子爵の事ですね。ここら一帯の領主をしてる……」
「はいその……クレメン子爵の事を、村の者達に聞いておりました」

 マルクスさんは、クレメン子爵の事が気になって調べてくれていたようだ。
 村の魔物の事よりも、マルクスさんにとってはこっちの方が重要事項なのかもしれないね。
 魔物は冒険者の依頼だから、国に使えるマルクスさんとしては、そうなって当然か。

 しかし、本当に言いにくい名前だ……マルクスさんも、最初はその名前を言っていたのに、すぐクレメン子爵と言い始めた。
 真剣な雰囲気だから、途中で名前を噛んで微妙な空気になるよりは、良いと思ったんだろう。

「何かわかったんですか?」
「はい。クレメン子爵は、時折この村にも様子を見に来るくらい、領主経営に熱心な方だったようですね。村の者達それぞれに声をかけ、貴族という事を鼻にかけたりしない者として、領内の人々に慕われているようです」
「へぇ~。良い貴族なんですね。バルテルとは大違いっぽいですね」
「そうですね。しかし、そのクレメン子爵なのですが……ここ数カ月程姿を見せていないそうです」
「数カ月?」
「はい。いつもなら他に何かがない限り、2カ月に1度は領内を巡って視察をするそうなのですが……。それが行われていないようです。そして、領民の慕う子爵ならば、村の近く……領主邸の間にある街道付近に魔物が出たとあれば、すぐに対処してくれるはずが……今回はそれも無く……」
「そうですか……何か理由があるのかなんなのか……数カ月という事は、俺がヘルサルで戦うよりも前の事ですよね?」
「そうなりますね。クレメン子爵が何を考えているのかはわかりませんが、どうやらリク様の授与式に参列するため王都からの招集に応じなかったのも、そのあたりが関係しそうです」
「マルクスさんは、クレメン子爵が何か叛意を持っていると考えているのですか?」

 マルクスさんが調べてくれたのは、ここ最近のクレメン子爵の動向みたいだ。
 クレメン子爵は、領内の視察を積極的にしていて、偉ぶったところもなく領民に慕われていたそうだ。
 なのに、最近は顔を見せる事無く、本来なら対処してくれるはずの魔物の対処もしてくれない……。
 王都からの要請を拒否して、俺の授与式に参列しなかった事もあり、何か理由があると思ったみたいだね。
 まぁ、俺の勲章授与式には参列しなくても、別に良いんだけど……それに、その後のバルテルの凶行や魔物の襲撃も考えると、来なくて良かったとさえ思える。
 マルクスさんの話す内容に、考えるようにしながらモニカさんが質問する。

「いえ……それは考えにくいかと思います。それならば、これ程わかりやすい行動をするよりも、いつも通りに振る舞い、裏で画策するものかと……クレメン子爵と話したことは無いので、どういう人物かわからないため、確実とは言えませんが……」
「そうですか……確かに、察知されないよう不審な行動は逆に慎むかもしれませんね」
「マルクスさんはもしかして、クレメン子爵が何かに巻き込まれてる可能性があるのでは……と考えているんですか?」
「……はい。王都への招集を拒否し、いつもは行っているはずの視察も行わない。さらに魔物への対処もしないとなると……他に何か理由があるのではないかと考えています。そもそも、領民に慕われているはずのクレメン子爵が、村への被害が多大になる可能性のある魔物を放っておくとは考えにくいのです」
「成る程……そうですね。そう考えると、何か理由があるのかもしれませんね」
「あと、一つ気になる事を聞きました」
「気になる事ですか?」

 何か、重要な情報を聞いたらしいマルクスさん。
 気になる事って何だろう?

「……この村と領主邸のある街を行き来する商隊があるのですが、その商隊から村の者が聞いた話です。又聞きになるので、正確かどうかはわかりませんが、どうやら領主邸のある街は今ならず者達が増えており、治安が悪くなって来ているらしいのです」

 商隊っていうのは、この村で作った作物を買う商人達の事だろう。
 それにしても……ならず者か……ロータの話でも、街の方でよくわからない人達が増えてる……みたいな事を言ってた気がする。

「領民に慕われるような領主が、自らが住む街の治安が悪化する事に、何の対処もしないのもおかしな話です。クレメン子爵の心変わりか……それとも、何か事情があるのか……」
「成る程……クレメン子爵には間違いなく、何かがあったと考えられるわけですね」
「はい。ですが……これ以上は、この村で情報を収集する事もできそうにありません。魔物を討伐し、街道が通れるようになっているので、待っていれば街からの商隊が来るかもしれませんので、そこから聞き出すという事もできますが……」
「それには少し時間がかかり過ぎますね……しかも、このままだと本当に来るかもわからない……」

 治安の悪くなった街……それを考えると、魔物がいなくなったからと言って、すぐに商隊がこの村に来るとは考えられない。
 そもそも、魔物に対処する事がなかったから、魔物が討伐された事を報せる事すら怠っているかもしれないしね。
 ここでこのまま待っていても、いつ来るかわからない商隊を待つだけで時間がもったいないし、村の人達にも迷惑がかかるだろう。
 ……ロータは、ソフィーから剣の訓練を受けられて喜ぶかもしれないけど。

「ですので、当初の予定通り、クレメン子爵邸に行ってみる必要があるかと」
「そうですね。ねえさ……陛下にも頼まれた事ですし、予定通りクレメン子爵の所へ様子見に行ってみましょう」
「最初からその予定だったし、それで良いのかもしれないわね」

 マルクスさんの言葉に、俺とモニカさんが頷く。
 もともとクレメン子爵邸へは行くつもりだったから、予定に変更はない。
 それでも、マルクスさんの情報はありがたい。
 何かあるかもと思って行くのと、何も知らずにただ訪ねるだけでは大違いだからね。

「じゃあ、明日にでも馬車で出発しましょうか。クレメン子爵邸へは、マルクスさんに任せても大丈夫ですか?」
「はっ! 街道が通じているので、道案内の必要はなく。また陛下からお預かりした使いの者と証明する物もあります。今日中に必要な物を馬車へと積み込み、明日は問題なく出立できます」 

 道案内は無くても大丈夫かと来ただけなんだけど、改まってマルクスさんは部隊の隊長にするように、敬礼して答えた。
 俺相手にそんな事をする必要はないんだけどなぁ……単なる冒険者で、軍のお偉いさんでもないからね。

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