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緊張のエフライム

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「獣人じゃなくて、エルフです。エルフが見たいのです。聞くところによると、長寿なうえ、美形ばかりだとか!」
「レナーテがエルフを見たい理由はそれか……確かにエルフは、細身の美形と話が伝わっているが、実際どうなのだ? 噂でしかないと考えているのだが」
「んー、どうだろう。集落にいたエルフ達は、ほとんど細身だったかな。……一部を除いて。それに、美形と言うのも確かだったと思う。俺が見た限りだけどね」

 何を持って美形とするかは、人の美醜の価値観にもよるところが大きいだろう。
 俺が見た感覚だと、創作物でよくあったように美形揃いだったと思う。
 細身という事で思い出したのが、エヴァルトさんだけど……あの人は、細身と言うよりマッチョで、ヴェンツェルさんやマックスさんに近いからなぁ。
 まぁ、顔はまさに美男子という感じだったけど。
 線が細く見える美形なのに、体はマッチョという微妙なバランスを思い出し、苦笑した。

「そうなのか。噂だけではなかったのだな。それなら、俺も是非見たいものだ。王都に行っても会えないのはわかっているが、男としてはな……」

 エフライムは俺の話を聞き、レナと同じように、エルフを見たいと感じるようになったようだ。
 男なら、綺麗な女性を見たいという気持ちがあるのは、俺にもわかるから、エフライムの気持ちも理解できる。
 その辺りは、男女関係無いか……。
 ともかく、エルフを見たいと思いながらも、王都でも早々見られるものではない事に、エフライムとレナが落胆して見せる。

「エフライム様、レナーテ様。王都に行けば、エルフと会えますよ?」
「本当ですか!?」
「ソフィー、それはどうしてだ? 先程までの話だと、王都に行ってもエルフはいないと言っていたではないか?」

 落胆している二人に、ソフィーがスープを飲みながらエフライムとレナに声をかける。
 レナは目を見開いて視線を向け、エフライムは訝し気な顔を、それぞれソフィーへ向けた。

「エルフの集落に行った時、知り合ったエルフの二人……兄妹のエルフが、王都に滞在しています。リクの勲章授与式に、集落の代表として参列するために来たようですが……まだ王都にいるはずですよ」
「そうね、フィリーナやアルネがいるわね。王都に帰ったら、リクさんの部屋で待ち構えているんじゃないかしら?」
「あぁ……やっぱりそう思う?」
「えぇ。ロータが冒険者ギルドに来て、あまり猶予がないからと、話す暇もなく置いて来たけれど……二人はリクさんと一緒に行動したかったんじゃないかしら?」
「そうだよなぁ……」

 オシグ村が魔物の脅威に晒されてると聞いて、その翌日には王都を発ったからね。
 パレードからの事があって、エルフだから特に目立つ二人は、宿でおとなしくしてたはずだ。
 猶予がないと、何も話さず王都を離れた事を、二人には怒られてしまうかもしれない。
 ……いや、アルネはあまりそう言う事を言いそうにないか……問題はフィリーナだな。

「二人もエルフがいるのか……これは王都に行くのが、さらに楽しみになって来たな」
「そうですね、お兄様」

 自分のした事だから仕方ないのだが、帰ったら怒られる可能性を考えて、げんなりしている俺とは違い、楽しそうな表情をしているエフライムとレナ。
 うん、まぁ、怒られるのは俺だけだろうから、二人は単純に楽しみなんだろう。
 はぁ……帰るまでに、何か言い訳を考えておかないと……下手な言い訳をしたら、フィリーナがさらに怒りそうだけどね。


「ではリク様、見張りの方は我々にお任せ下さい。今夜はごゆるりとお休みを」
「はい、わかりました。すみませんが、お願いします」

 夕食後、しばらく木材を運んだり、建設準備を進める兵士さん達を眺めた後、自分達のテントを設営して就寝する事にした。
 テント設営は兵士さん達が手伝ってくれたから、いつもより時間がかからなかった、ありがたい。
 夜間の見張りに関しては、兵士さん達が交代で見張りについてくれるという事で、任せる事になった。
 マルクスさんの部隊の人達だから、信頼できるし、兵士さん達なら手慣れてるだろうしね。

 軽く体を拭いて準備を整えた後、就寝するために女性用のテントに向かうモニカさん達と、おやすみの挨拶をして、男性用のテントに入る。
 こちらのテントは、エフライムと俺とエルサだ。
 マルクスさんは、小隊長達への指示や、王都を離れている間の報告なんかを受けるため、別の場所……お疲れ様です。

「明日には王都か。陛下に会うのは初めてだ」
「そうなんだ。王都に行った事は?」
「俺がレナーテくらいの頃に、一度だけだな。お爺様に付いて行った。その頃は右も左もわからない王都で、驚いてばかりだったのを覚えているな。……その他の事は、あまり覚えていないな」

 寝袋に入り、寝る体制になった時、ポツリとエフライムがこぼした呟きに反応する。
 レナと違い、エフライムは一度王都へ行った事があるようだけど、ほとんど記憶には残っていないようだ。 
 子供の頃ってそんなものなのかもね。
 楽しかったとか、驚いたとか、そういう感情的な部分は覚えていても、王都の建物や道がどうだとかってのは、覚えていない事が多い。
 ……覚えていても、なんとなくくらいだろう。

 それにエフライムは、クレメン子爵の孫で、貴族の一員として王都へ行ったのだから、まだ子供だった事もあって、自由に城下町を散策したりはできなかっただろうしね。
 せっかく年の近い友人になったんだ、王都に着いたら暇を見て、エフライムと城下町散策に行くのも悪くないかな。
 パレード以来の、往来を行き交う人達が集まって来る現象が収まってたら……だけど。

「エフライムは、その時ね……陛下には会わなかったのか?」

 危うく姉さんと言いかけて、陛下と言い直す。
 やっぱり、油断してると姉さんと言ってしまいそうだ……練習、した方がいいのかもなぁ。

「今の女王陛下のお父上……先代の陛下にはお目通りしたが、現女王陛下とはお会いしていないな。美しい女性と聞いている」
「美しい……うん、確かに綺麗な人ではあるね」
「そうか。それもまた、エルフと同じで一つの楽しみだな。まぁ、俺がそう考えるのは烏滸がましいかもしれんが……」

 この世界に来る以前から、姉さんは綺麗な女性だった。
 それは、見た目の事もあるし、性格というか考え方もね。
 正義感が強い……と言えるのかな?
 俺も大いに、姉さんの影響を受けているとは思う。
 小さい頃は、べったりだったからなぁ。

 それはともかく、この世界で再開した姉さんは、さらに綺麗になったように感じる。
 見た目は金髪で、誰もが振り返る西洋美人。
 女王になった事で、人間の良い部分も悪い部分も見て来たんだろう、時折凄みを感じる時がある。
 ……ここまでなら、エフライムの期待通りなんだろうけどね。

 俺の部屋で寛いで、リラックスしてる時の姉さんは、ヒルダさんが注意する事もあるくらい、だらしない姿を見せる。
 気心知れた人達だけの空間で、姉さんにとっては楽になれる時間なんだろうから、俺としても悪くは思っていないんだけどね。
 それをエフライムが見たら、今想像してるであろう女王像からかけ離れていて、幻滅しないだろうか?
 姉さんがエフライムに、あれを見せるかはわからないけど。
 見せたら、驚くだろうなぁ……。

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