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久々の治癒魔法

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「ルギネは、男に免疫がないのは相変わらずか」
「そうねぇ。男嫌いと言って誤魔化してるけど、実際はそうでもないのよねぇ。女性には、責め……じゃない、強気で行けるのにねぇ?」
「お姉さまに男は必要ありません!」
「焦げた肉は必要かしら?」

 怪我の様子を見る俺と、おとなしくしているルギネさん。
 ひそひそとソフィー達が話してるけど、今は怪我の治療の方が先だね。

「ちょっと、触りますよ?」
「え、あ、は、はい……」
「「ニヤニヤ」」
「どさくさに紛れて、お姉さまに触れるなんて!」
「まぁまぁグリンデ。焦げた肉食べて落ち着いて?」
「いりません!」

 ルギネさんに言って、傷口にそっと両手で包み込むように触れる。
 何故かしどろもどろになりながらも、素直に頷くルギネさん。
 一緒にマギアプソプションと戦って、少しは信用されたって事かな。
 そう考えながら、久しぶりの魔法を使うために集中。
 何やら、ニヤニヤと口に出してこちらを見ているソフィーとアンリさんの視線が気になるけど……とにかく集中だ。
 
「……えっと……あ……」
「ど、どうしたの……だ?」

 魔法を使おうとして思い出す。
 そう言えば、さっきフィリーナが魔力溜まりで魔法を使うのは厳禁って言ってたっけ……。
 使おうとしていたのは、エルフの集落で怪我の酷いエルフ達に使った、治癒の魔法だ。
 治癒魔法というのは、存在していても失われたような魔法らしいけど、イメージで魔法を使える俺には問題ない。
 けど、ただでさえ失敗する事のある俺の魔法だから、魔力溜まりで使うとどういう事になるかわからない。
 さすがに、以前実験した時のように、急激に髪が伸びたりしても、ルギネさんは困るだろうしね。

「エルサ……は駄目か……仕方ない。ごめんなさい、ルギネさん!」
「え? あ、えぇ!?」
「「おぉぉ!」」
「あぁ、お姉さま!」
「焦げた肉食べよ……」

 エルサは魔力酔いとやらで使い物にならないから、乗せてもらう事はできない。
 とにかく、一刻も早く治療するためにここから離れるため、ルギネさんを抱き上げて走り出した。
 後ろの方で、何やら歓声のような悲鳴のような声が上がった気がするけど、そちらは気にしないようにした。
 そのまま、座ってこちらを見ていたフィリーナ達の方へ。
 ……土の状態確認は、もう終わったのだろうか?

「……リクさん、なんて事を!!」
「……はぁ……リク、あっちまで行けば魔法が使えるわよ!」
「ありがとう、フィリーナ!」
「え? え? え?」
「逃避行なの?」
「むにー、むにーだわぁ」

 フィリーナ達の横を通り過ぎる時、悲鳴のような声を上げるモニカさん。
 その横で、フィリーナは溜め息を吐くように、指で畑の端を差して魔力溜まりの影響がない距離を教えてくれる。
 感謝をしつつ、そのまま走り去る俺……ルギネさんは、腕の中で驚いて固まったままだ。
 それはともかく、ユノ、それは違うから……後エルサは、やっぱり使い物にならなかったか。

「ふぅ……ここまで来れば大丈夫か。すみません、ルギネさん……急に」
「え、いえ……でも何で急に……あっ……急にどうしたんだ!?」

 フィリーナに示された場所まで走ってきて、ゆっくりルギネさんを降ろす。
 ここまで来れば、魔法は使えるようだ……確かに、さっきより動きやすい気がする。
 何となくだけど。

 地面に降ろしたルギネさんは、自分の足で立ちながらも、急に何が起こったのかまだ理解出来ず混乱中のようだ。
 俺に問いかける途中で、ハッとなって強い口調になったけど。

「すみません、あの場所だと魔法が使えなかったので……とにかく、すぐに治療しますね?」
「魔法が? いや、それよりも治療だと? それならあの場でもできただろう?」

 ルギネさんに声をかけ、怪我の治療をする事を説明する。
 魔法と聞いて怪訝そうな顔をするルギネさんだけど、確かに普通の治療ならあの場でもできただろう。
 ……ここまで連れて来て少し冷静になって考えると、怪我は酷くないんだから、抱き上げて連れてくる程急ぐ必要はなかったんじゃないかと思うけど……今更だった。
 後で他の人達から色々言われそうだけど……仕方ない。

「まぁ、ちょっと理由があって、移動しないといけなかったんです。すみません、もう一度触りますね?」 
「移動しないといけない理由? それは……あ、ちょ……はい……」

 ルギネさんは、俺が治癒魔法を使える事も、魔力溜まりのせいで魔法が使えない事も知らない。
 ともかく、説明する時間を惜しんで、ルギネさんの怪我をした右腕び再び触れる。
 両手で包み込むようにした俺に、何か言おうとしたルギネさんだけど、すぐにおとなしくしてくれた。
 また、顔が赤い気がするけど……傷口が痛むのか、それとも抱き上げて運んだのが恥ずかしかったのか……後で、もう一回謝ろう。

「……えっと、ヒーリング」

 頭の中でイメージを固め、久しぶりで忘れそうだった魔法名を思い出して、静かに唱える。
 エルフの集落以来、使ってなかったからね。
 まぁ、治癒魔法を使うという事は、今回のように誰かが怪我をしたという事だから、使わないに越した事はないか。
 なんて事を考えながら、魔法の発動と同時、仄かに緑色の光を放った自分の両手をジッと見つめる。

 少しして、光がゆっくりと消えて行くのを見ながら待ち、触れていた両手を離す。
 そこには、傷があった事なんてなかったかのように、白くて綺麗な腕があった。

「……大丈夫そうですね。動かして、違和感とかはないですか?」
「え、な、なにが……? 痛くない……え、傷口が、なくなってる!?」
「はい。治癒魔法を使いました。これで、跡が残る事もないでしょう」
「治癒……魔法……?」

 驚いた様子のルギネさんは、左手で怪我をしていた右腕を触ったり、腕を動かしたりして痛みがないのを確認している。
 一応説明するけど、やっぱりルギネさんは治癒魔法というのを知らないみたいだ。
 エルフですら知らない事だったから、無理もないね。
 何がなんだかわからない……と言った様子のルギネさんといると、皆がぞろぞろと連れ立って近づいて来た。

 その中で、ソフィーとアンリさんはニヤニヤしてるのに、モニカさんとグリンデさんはどす黒いオーラを放ちながらこちらを睨んでる。
 ちなみに、フィリーナは呆れたような目で、ミームさんはそもそも興味なさそうに焦げた肉を齧ってた……それ、美味しいの?

「リクさん、後で話があります……」
「えっと……ごめんなさい?」
「ははは、モニカ……うかうかしてられないな?」
「無自覚って、怖いわね」
「むにー……無神経無自覚がリクなのだわ」
「見てる分には楽しかったの」

 モニカさんに怒られるような事、したかなぁ?
 と思いながら、こちらを睨むモニカさんに謝る。
 それを楽しそうにからかってるソフィー。
 やっぱり呆れた様子のフィリーナに、少しは良くなった様子のエルサが呟く。

 無自覚……はまだしも、無神経は……さすがに言い過ぎじゃないかな?
 ユノは、俺が誰かを抱いて走ってたを見るのが楽しかったようだ。

「……すごいわぁ、跡もなく綺麗に治ってるのねぇ」
「お姉さまの綺麗な肌に、跡が残らなかったのは喜ぶべきなのですが……男……」
「焦げた肉より、凄い」
「あ、あぁ……そうだな。大した怪我ではなかったが……跡形もなく治療ができるなんてな」

 ルギネさん達の方は、怪我が跡形もなくなった様子を見て驚いているようだ。
 若干一名、グリンデさんが恨めしそうにこちらを見てたのは……まぁ、気にしても仕方ないだろう。


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