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授業料は大金
しおりを挟む「私は、強くなれるのなら……」
「待つのだわ!」
ソフィーが決意のこもった目で、強く言おうとした時、今までモニカさんに抱かれて見ているだけだったエルサが、突然声を上げた。
「どうかしたのか、エルサ?」
「女性が気軽に体に触れさせる事を良しとするのは、いけないのだわ。それはきっと、魔物の攻撃も受け入れるという事に繋がるのだわ。危険なのだわ。……多分だけどだわ」
「……多分なのか」
声を上げたエルサは、モニカさんの腕の中で主張する。
最後に多分と付け加えなければ良かったのに……とは思うが、エルサ自身適当に言った部分があるんだろう。
俺も、気軽に触れさせる事と、魔物の攻撃を受け入れるという繋がりがよくわからないし。
というかエルサ……女性としてのそういった感覚ってあったのか……俺、気軽にモフモフを撫でまわしてたけど……契約者として許してくれてるのかな?
もしかすると、俺の記憶が流れて行った事によって、そう思ったのかもしれないけど……初めて会った時は、契約者以外の人間には興味がない様子だったのになぁ……。
「そこの老いぼれ、なのだわ」
「老いぼれとは、中々手厳しいですな。確かに年老いてるのは否めませんが……これでもまだ現役ですぞ?」
何が現役なのかは聞かない……聞いたらおかしな方向に話が進みそうだから。
きっと、まだ現役と変わらず剣を扱える、という意味なんだろう、冒険者は引退しているわけだしね。
「それはどうでもいいのだわ。とにかく、女性に変な事を要求するのは止めるのだわ! 無条件で訓練を付けるべきなのだわ! ……そうしたら、リクが暴れ時の避難先になれるのだわ。それに、可能性は低いけどどだわ。止める事もできるかもしれないのだわ……」
失礼な、俺は暴れたりしないぞ?
グリーンタートルの甲羅を素手で割った時は、できるかどうかというちょっとした好奇心なだけだし……割れた甲羅が飛び散って、結構な勢いで飛散してたりはしたけどね。
「そうは言われましてもですね、ドラゴン殿。ワシはなんの得もなく人に教えを説いているわけではないのですぞ?」
エルサが、条件なしで教えをと言うのに対し、エアラハールさんは少し困ったように眉根を寄せながら答える。
そりゃエアラハールさんだって、元冒険者なんだし、何も報酬なしで自分の技術を教えるなんて事はしたくないだろう。
俺に教えるにしたって、ヴェンツェルさんに頼まれて仕方なくだからだろうしなぁ。
というか、エアラハールさん……エルサには丁寧なんだな……まぁ、さっき起こられた時に少し大きくなった事で、恐怖心が植え付けられたのかもしれないけど。
「リクには教えてるのだわ?」
「それは……ヴェンツェルに頼まれた事と、ワシが面白いと感じたからですな。最速でのAランク昇格。冒険者でありながら、一国の軍をまとめる立場にある者から信頼されている。中々そういった逸材はおりますまい。それに、ワシが教えた者が、冒険者の最高峰であるSランクになるというのも、一興ですからな」
「エルサを恐れたからではなかったんですね……」
ヴェンツェルさんに頼まれたことが大きい気がするけど、エアラハールさん自身が、俺に教える事を重い白そうだと感じてくれていたみたいだ。
Sランクとか、さすがに大きすぎる目標だとは思うけど、それに近付けるよう強くなりたいとも思う。
「ソフィー達は違うのだわ?」
「身のこなしは悪くないように感じますがなぁ……才能があるかないかという以前に、どんな戦い方をするのかも知りませんので。何とも言えませんな……」
「だったら、代わりにちゃんとした報酬を払うのだわ! リクがお金でだわ!」
「おい……」
モニカさんはマックスさんの娘だし、ソフィーは同じパーティの冒険者。
だけどエアラハールさんにとっては、無償で訓練をつける程の面白みは感じないみたいだ。
というか、俺に対する訓練は、道楽のようなものなのかな?
それはともかく、エルサが躊躇せずにお金で報酬を払うと言い切った。
だけど、そのお金の出どころは俺らしい。
まぁ、エルサ自身がお金を持っていないから、俺になるのは仕方ないと思うけど、せめて少しくらいは相談して欲しい。
ついつい声が出てしまったじゃないか。
「ワシは高いですぞ?」
「構わないのだわ。リク、後は頼んだのだわ。契約者として、私の代わりにお金を払うのだわ」
「はぁ……はいはい。お金を払うのは構わないけど、契約者というのををここで出すのは、ちょっと微妙な気分だぞ?」
なんというか、パトロン契約でも結んだ気分だ。
契約しようと思ってしたわけではないけど、エルサとの繋がりのように感じている俺にとっては、お金を払わされる理由としては微妙な気分になる。
エルサは深く考えずに、発言しているんだろうけど……後で、モフモフを存分に触らせてもらって、お仕置き代わりにしようと誓った……俺への癒し目的だけど。
ともかく、お金を払うというのは問題ない。
元々、報酬として払おうと考えていた事だし、なんだかんだでお金は貯まってる。
冒険者報酬や国からの褒賞も、エルサのおかげでという部分もあるしね。
エルサが使うと決めた事に、お金を使うのに反対はしないよ。
そもそも、パーティメンバーであるソフィーのためでもあるんだから、出し渋るような考えはない。
エアラハールさんは元冒険者なんだから、剣を俺達が教わる事を依頼と捉えれば、報酬を受け取る事に違和感もないから。
「いや、リク。さすがにそこは私が払うぞ?」
「でも……俺の分もあるし、パーティリーダーだし……やっぱり俺が払うよ。皆が強くなるなら、パーティとしても歓迎だしね」
「そうは言うがな? リクのおかげという事も大きいが、センテにいた時とは違って、それなりに余裕がある。宿も世話してもらっているしな……」
「んー……じゃあ、半分ずつでいいかな。そうすればフェアでしょ?」
「折半という事か。それならまぁ……」
俺が払うもんだと思っていたら、ソフィーも払うと言う。
まぁ、確かにソフィー自信に関わる事だから、俺が全部払うというのは少し違うのかもしれないけど……パーティの底上げのように考えると、リーダーが出してもいいような気がしてたから、問題なかったんだけどね。
ともあれ、二人で半分ずつ……折半して払うという事に決まった。
これなら、どちらかが多く払うとかはないし、後々揉める事もないだろう……ソフィーがそういう事で、揉め事にするとは思わないけども。
「という事で、俺も含めて授業料……教えを受けるためのお金を払いますよ、エアラハールさん」
「普通なら、金は払いたくないもんじゃが……まぁいいじゃろ。ドラゴン殿の申し出でもあるしのう。……そうじゃの、二人で金貨百枚ってとこかの?」
「金貨百枚!?」
ソフィーとの話がまとまって、エアラハールさんにお金を払う事を伝える。
仕方ない……というような反応をしつつ、料金を言うエアラハールさん。
金貨100枚かぁ……冒険者ギルドに預けてるお金で、十分払えるね。
確か、四桁くらい言ってたと思うから――あまり細かく覚えてないけど。
と、考えている俺の後ろから、モニカさんの驚く声。
金額に驚いてるみたいだけど……あぁ、そうか。
金貨一枚は、日本円で大体十万円前後。
そう考えると、金貨百枚って一千万……って、一千万!?
元冒険者、Aランクだった人から教えを受けるだけでその金額って……高級車が買えそうだ……この世界に車はないけど。
そりゃ確かに、Aランクの依頼の報酬で金貨数十枚というのがあるのを、冒険者ギルドで確認したけどさ……キマイラ討伐とかね。
やっぱり、そのAランクで活躍してた人に教えを請うというのは、お金がかかるんだなぁと、モニカさんに遅れて内心驚く。
あ、でもソフィーと折半だから一人金貨50枚か……そう考えると、あまり高くない……のかな?
この世界での金銭感覚に、最近疎くなってしまってる気がして、ちょっと危ないかも……?。
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