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モニカさんとソフィー相手の攻防
しおりを挟む「それじゃあ……そうじゃのう……。二人はわかっておるじゃろうし、リクも予想しておるじゃろうが……」
「……はい……はい……わかりました」
「そうですね、基本に忠実に……」
俺とモニカさん達が向かい合うように、位置に付いたところで、エアラハールさんが何かを考えながら二人に近付き、内緒話。
二人が頷いて何かを話しているのは聞こえるけど、内容はよくわからない。
基本に忠実……俺も予想している? どんな事なんだろう?
二人で協力して俺に向かって来るというのは初めてだし、モニカさんはマックスさんやマリーさんから特訓を受けている。
ソフィーもそれは同様だし、俺よりも経験豊富だから油断はできない。
内緒話を終えて、二人から離れるエアラハールさんを見ながら、木剣を構えて体に力を入れた。
「それじゃ、始めるかのう。……リク、体に力を入れ過ぎじゃ。常に緊張状態にするのではなく、緩める事も覚えるのじゃ。そのための訓練なのじゃぞ?」
「……はい」
俺やモニカさん達を見渡せる位置に立って、エアラハールさんが開始の合図を……といったところで、俺の体に力が入り過ぎていると注意される。
……難しいなぁ。
今までもそうだけど、基本的に油断をしないという考えだったんだけど……緩めるという事と油断する事の違いがまだよくわからない。
多分、その事をわからせるための訓練なんだろうけど、ちゃんとできるだろうか?
とりあえず、体に巡らせていた力を緩めながら、腕を下ろして構えを解く。
不安な気持ちを表に出さないようにしながら、エアラハールさんが開始の合図をするのを待った。
「ふむ……少々力を抜き過ぎな気もするが……今までが力を入れ過ぎていた事を考えると、いいのかもの。まぁ、木剣とかじゃし、大丈夫じゃろ。……それでは、始め!」
俺の不安をさらに増幅させるような、エアラハールさんの呟きを聞きつつ、モニカさん達と訓練が始まった!
「ふっ!」
「……てやぁ!」
「っ!」
まず合図と同時にソフィーが俺に全力で駆け込んで来て、上段からの一撃。
さらにその後ろから、俺の左横に来られるように大回りで走り込み、そこから膝辺りの高さを狙うように模造槍が突きこまれる。
上段から首を狙って俺の左から右へ横薙ぎにされる木剣と、足を狙って下段を突く模造槍。
横と縦、上と下という、両方を避けるのは難しいコンビネーションによる攻撃……もしかすると、こういう事をエアラハールさんはアドバイスしてたのかな?
なんて考えながら、先に迫って来ていたソフィーの横薙ぎを、体をしゃがませて避ける。
ソフィーの方が動き出しが早かった事と、回り込んだりしない直線で迫って来ていたので、俺への到達がワンテンポ以上速いためだ。
中腰よりも少し低めの姿勢になりながら、目線を上にして頭上を通過するソフィーの木剣を見送る。
これで安心してはいけない……すぐ足元には既に、モニカさんの模造槍が迫ってきているから。
当たっても、足が斬られたりする事はないだろうけど、硬そうな木でできているから、痛そうだ。
そのままの体勢で、足を動かして体の向きを変えつつ、モニカさんの方に向かいながら持っていた木剣腹をモニカさんに向け、地面に突き刺すようにする。
さすがに、本当に地面に突き刺したりはしなかったけど。
「くっ!」
ガキッという音と共に、突きこまれた模造槍の穂先が木剣の腹に止められる。
悔しそうな声と息を漏らすモニカさんを見ながら、とりあえずは防御できたと安心した……その瞬間だった。
「まだ油断するには早いぞリク!」
「!?」
俺に避けられた木剣を、いつの間にかソフィーが持ち上げ、そのまま振り下ろした。
おそらく、横に振り抜いた後、モニカさんの方へ気を取られている隙に振り上げていたんだろう。
一度の連続攻撃を防いだだけで安心してしまった俺は、驚くだけで動く事もできず、背中に思いっきりソフィーが振り下ろした木剣を受けてしまった。
「……全力で振り下ろしたはずなんだがな……」
「痛くはないの、リクさん?」
「んー、衝撃は感じたけど、痛みはなんとも……」
ソフィーの木剣が当たった時点で、エアラハールさんがひとまず模擬戦を止めてくれた。
結構硬めの音が鳴って、ソフィーが全力で木剣を振り下ろしたんだとわかってはいるんだけど、痛みはほぼない。
……木剣が当たった背中を、さすってくれているモニカさんに言っているように、衝撃はあったし、重さも感じたんだけどね。
実際に木剣を振ったソフィーが、愕然として自分の手や木剣を見ているけど……多分これもエルサとの契約や魔力に関係するんだろうなぁ。
確か、戦闘状態だと魔力が全身の表面に行き渡るうえ、多過ぎる魔力のおかげでドラゴンより硬いとかなんとか……。
「今のはさすがに、打ち身くらいにはなると思ったのじゃが……想像以上じゃの。これがドラゴンと契約するという事かのう……」
「リクは、契約をしたからだけじゃないのだわ。魔力量がおかしいのだわ」
「……どちらにせよ、異常という事じゃの」
エアラハールさんが俺達の様子を見ながら呟き、ユノに抱かれているエルサから指摘を受けて、異常という事で納得したようだ。
人外判定されそうだから、異常というだけで片付けないで欲しいけど……でも確かに他の人とは違う事だから、間違ってはいないんだと思うけどね。
「まぁ、それはともかくじゃ。今のでわかったが、リクはやはり戦い慣れてはおらんのう。特に、攻撃される事に……かの?」
「……それは……そうですね」
この世界に来てまだ数カ月……それまで一切戦うという事を経験した事がなかった。
いや、スポーツの経験は少しくらいならあるけど、それくらいだ。
こちらに来て色々とあったけど、毎日戦いに明け暮れているわけではないしね。
大量のゴブリンとかワイバーン、集落や王城に押し寄せる魔物の大群とかとは戦った事はあるから、珍しい経験はしているんだろうけど、回数自体は少ない。
……あんな事が、頻繁に起こるのはどうかと思うけども。
ともかく、生まれた時から魔物がいる世界で生活し、両親が元冒険者なモニカさんは、話を聞いていたりして心構えが違ったんだろうし、ソフィーの方は冒険者として長いから、そもそも経験豊富だしね。
ユノとエルサは……ある意味長生きだし……規格外だろう。
そう考えると、一番戦いに慣れていないのって、やっぱり俺だけなんだなぁ。
「モニカ嬢ちゃんの攻撃を受けた時、油断したじゃろう? 緩めとは言ったが、安全になったと安心するのは違うぞ? 魔物との戦闘では、向こうは命を狙っている……少しでも隙を見せたらやられるのはこちらじゃ。……まぁ、今のを見る限り、多少の事では怪我にもならんようじゃが」
「はい……」
先程の模擬戦での反省点を、エアラハールさんに指摘される。
確かに、ソフィーの攻撃を避け、モニカさんの突きを木剣で受け止めた段階で安心してしまっていた。
これが模擬戦だから……というのは言い訳に過ぎないだろうと思う。
実戦を想定して戦うのが、模擬戦なのだから、あの段階で安心してはいけなかったはずだと反省ないと――。
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