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触らぬ結界に祟りなし

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 自分の考え違いに納得していると、ユノはさらに目を凝らすように虚空を見つめて、この魔力が俺やエルサの使う結界と同じような性質なのではないかという結論を出す。
 エルサはともかく、ユノは魔力が見えていたりするのかな?
 俺は、探査魔法を使わないと目に見えない魔力なんてわからないんだけど……自分の使った結界なら、近寄ればわかる程度だね。

「触ってみるとわかると思うの」
「止めた方がいいのだわ。もしかしたら、この魔法の使用者にバレるのだわ」
「使用者に?」
「これが結界だとしたらだわ。……リク、結界を使った時、それに触れる物がわかるような感覚があるはずなのだわ? 魔力が強くて完全な結界だと、強めに触れないとわからないけどだわ」
「そういえば、確かにそうだね」

 ユノが結界っぽい何かの魔法に触ってみるよう促すのを、エルサが止めた。
 触ると使用者にバレる……か。
 確かにエルサの言う通り、結界に対して強い力が加わると、なんとなくではあるけど結界のどの部分に力が加えられているのかがわかる。
 ヘルサルで維持し続けている結界は、既に俺から繋がる魔力の流れで維持されていないから、わからないけどね。
 ともかく、目の前にある魔力が本当に結界と同じような性質であるなら、触れる事はもちろんながら、使用者に触れたという情報が伝わってもおかしくないか。

「魔力は私やリク程濃くはないのだわ。だから、少し触れただけでもわかってしまうのだわ」
「分厚くないからって事か?」
「そんな感じなのだわ」
「結界の事はよくわからないけど、実際に使うエルサが言うなら、間違いないの」

 俺やエルサ程の結界ではないらしく、目の前にあるのは薄っすらとした結界、という事なんだろう。
 確かに、探査魔法で感じた魔力の反応もそれほど強くはないね。
 ただし、結界の性質のせいなのか、その奥に魔力を広げて探査をしたりという事はできない。
 結界って、空気を通さないことからわかるけど、光以外通さないからなぁ。

 さっきエルサが飛んでいた時のように、小さい穴が開いていれば別だろうけど、どこかにそんな穴があるような事はない。
 明るい時なら、結界があっても帝国の領内を見渡したりはできるだろうけど、それが限界かな。
 探査魔法で向こう側を調べる事はできないみたいだ……。

「……もしかしたら、リクとエルサを警戒してなのかもしれないの」
「俺達を?」
「そうなの。帝国はリクの事を知っているのは間違いないの。ドラゴンの事も。場所は離れているけど、噂は広がっているはずなの」
「それは確かに……」

 アテトリア王国内に、帝国配下の人間を入り込ませているんだから、俺の情報くらいは向こうに伝わっているだろう。
 特に隠す事もしていないというか、隠すと行動が制限されるし気を使うから隠していないんだけど……エルサがドラゴンであるという事も公表している。
 それを帝国側が知らないとは思えないからね。
 バルテルの事や、魔物の大群が襲われた王都での戦いに参加していたのもある。

「帝国が仕掛けた事を、リクが防いだの。きっとリクは帝国に恨まれているの。それと同じくらい警戒もされていると思うの」
「恨まれてるって……まぁ、バルテルを止めたってのは確かだけどね」

 元々向こうから仕掛けて来て、俺にとって大事な姉さんを狙ったんだから止めるのは当然だし、恨むと言うならこちらの気もするけど……。
 謀略とかそういう事を考え相手なら、逆恨みのように思われても仕方ないか。

「エルサが一緒にいる事がわかっているんだから、空を警戒する理由もわかるの。もちろん、国外に結界を張ると問題になるから、ギリギリの国境沿いに何だと思うの」 
「俺とエルサを警戒するためだけに、これだけ広い範囲を結界で囲っているのか?」

 それはまた、随分と警戒されたものだとおもう。
 そもそもに、俺とエルサは帝国に殴り込みに行くというような気は……とりあえずはないのだから、それだけ警戒しなくてもいいと思うんだけどなぁ。

「エルサとリクが本気になれば、それこそ国なんてあっという間なの! 警戒する気持ちもわかるの!」
「……あっという間って」
「人間は小さき者なのだわ。体も、精神も……だわ。もっとリクを見習って、のほほんぼんやりとしていればいいのにだわ」
「……おいエルサ、俺はそんなにのほほんもぼんやりもしていないと思うぞ……?」

 何があっという間かはわからないが、まぁ結界を使ったり、火の精霊を召喚したりはできるからなぁ。
 俺よりも、巨大化したエルサの方が、恐怖のような気もするけど……。
 王都……帝国だから帝都かな? そこの上空からエルサが火の魔法をブレスのように使って……と想像すると、中々に怖い。
 それはともかくエルサ……俺だって一生懸命色んなことを考えているんだからな?
 まぁ……わりとのんびりしている事があるのは、否定しないけど。

「ともかく、触らないようにしてここから離れるの。もし触ったら、リクとエルサが接近したとバレるの」
「魔物が……とかは考えないのか?」
「魔物だったら、何も考えず激突するの。結界を壊さないように触れるのは、そこに何かがあると知っていて、意思があるからなの。そんなのリクとエルサくらいしか考えられないの」
「あー、そんなもんか」

 確かに、魔物だったら何も考えずに結界に突撃するか。
 知能のある魔物もいるから、意思だってあるだろうけど、そもそも結界があるとは認識できそうにないしな。
 ユノの言う事はもっともで、ここでそーっと触れるなんて事をしたら、俺やエルサが来て触ったと悟ってくれと言っているようなものだね。

「それに、リクやエルサがどう考えているかは別として、バレてしまったら敵意ありと思われて、帝国か難癖付けられてもおかしくないの」
「何もしていないのに?」
「国というのはそういうものなの。適当な理由をでっちあげて、相手国を責めるの。最悪、侵攻の理由にするの」
「……ありそうだなぁ」

 国家間の政治というのはよくわからないけど、ちょっとした事を大袈裟にして、それを利用して相手を悪く言う……なんていうのは人間の歴史を考えれば、よくある事と言えるかもしれない。
 まぁ、どこの国も自分達が正義で、相手が悪者……という事を国民との共通認識にしたいんだろうね。
 自分達の国が悪いです、けど正しい隣国を攻めるので、国のために戦ってくれ……なんて、国民が納得するわけがない。

「魔物を装って、結界を破るのだわ?」
「今それをする必要はないだろ? 帝国にいきたいわけでもないしな」
「結局、また張り直されるだけなの。特に意味はないの」
「だわ。それじゃ、引き返すのだわー」

 勢いよくぶつかれば、魔物と勘違いさせる事は可能かもしれないけど……それをする必要はない。
 結局はユノが言うように結界を張り直されるだけだし、今帝国に行きたいわけでもないからな。
 ユノの推論がもとだから、本当に俺やエルサを警戒しているという確証はないけど、今はとりあえず結界と言う物がある事が分かっただけでよしとしよう。
 ……気楽に空の旅……ってだけだったのに、変なもの見つけちゃったなぁ。

 何はともあれ、結界に触れないようにゆっくりと離れ、再びエルサが上昇して体の向きを変える。
 結構な時間が経ってるはずだし、そろそろ王城に戻ろう。
 あまり遅くまで起きていても、明日のエアラハールさんによる訓練に支障が出そうだし。
 せっかく教えてくれるのに、寝不足でよくわかりませんでした……というのは失礼だからね。


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