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女性が追われていた理由

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「成る程……魔物が移動している事が気になって、王都へ報告に……」
「えぇ。私が住んでいる村は、冒険者ギルドもないの。だから、できれば王都のギルドで依頼をと思ってね。それに、お城には知り合いもいるのと、村からという事で報告をしないといけないから」
「知り合い?」
「えぇ。アテトリア王国の軍に所属しているわ。あまり詳しい事を話してくれないのだけど、それなりの役職に就いているって聞いているわ。あと、私は村の村長の娘なの。だから、村として国へは報告しないとね」
「そうなんですか……知り合いかぁ……」

 エルサが必死にキューを食べている間、女性と話してこれまでの事を聞く。
 話している間、興味を持ったのか女性もエルサにキューを上げたそうにしていたので、追加を荷物から出して渡した。
 今は、俺の頭の上に手を伸ばし、エルサを撫でて嬉しそうにしている。
 モフモフ効果のおかげか、意識の大半がそちらに行って、女性は初めて会った俺にも簡単に話をしてくれた。

 これは、助けた俺だからというよりも、モフモフの癒し効果のおかげだろうと思う。
 俺も、エルサのモフモフに包まれたら、そちらにばかり意識が行って何でも話しそうだし……気持ちはわかる。
 それにしても、女性の知り合いかぁ……軍にいて、役職に就いているのなら、俺も会った事があるかもなぁ。

「でも、どうして一人でなんですか?」
「私が言い出したのよ。村には、多くの人間が旅に出る余裕はないわ。本来なら、王都まで行く際は村に来る商隊に頼んで、一緒に連れて行ってもらうのだけど、今回は待っている余裕もなかったから。馬も少ないし、一人で行く事にしたの。幸い、私は剣を習っていて、ゴブリン程度なら追い払えるからね。……まさかオーガに追いかけられるとは思わなかったけど」
「あははは……あのオーガは特殊でしょうけど。でも、どこでオーガと遭遇したんですか?」
「えーと、旅自体は順調だったの。街道に沿って移動すれば、魔物とはあまり遭遇しないのよね。でも、今日ちょっとだけ街道を離れて、川に水を汲みに行ったら……家を見つけたの」
「家?」
「えぇ。木々に囲まれて、隠されるようにして建っていたわ。人里離れた場所で、不思議に思ったのだけど、王都へ行かなきゃいけなかったから、そのまま川を離れようとしたの。そうしたら、その家からオーガが出て来て……思わず悲鳴を上げてしまったのよ」
「家からオーガが……」

 もしかしなくても、その家がオーガを作った場所?
 人間が住むような家を、オーガのような魔物が出入りするのは不自然だよね。
 うん、間違いなさそうだ。

「それで、その悲鳴を聞いてオーガに見つかってしまい……必死で逃げ出したってわけ。その後は、貴方も知っている通りよ。いきなり空から人間が降って来て、オーガが凍ったり、ドラゴンがいたり……触り心地いいいわねぇ、癖になりそう……まぁ、驚く事沢山よ?」
「あー、はは……まぁ、そうでしょうね」

 つまり、この女性はオーガが出入りする家を見つけたけど、向こうにも見つかり、目撃者を消すためなのかオーガの本能なのか……両方っぽいけど、とにかくそれで追いかけられていたようだ。
 そこが本拠地なのかはわからないが、モリーツさんやイオスと関わる組織による施設の一つである事は、間違いなさそうだね。
 さっさと行って、研究やら何やらを辞めさせたいけど……この女性に説明するのは時間がかかりそうだ。
 とりあえず、王都に連れて行きつつ、途中である程度の説明をして、姉さんへの報告も兼ねてそこで詳しく話し合うのがいいかな。

「それにしても、魔物達が移動っていうのは、どうしてなんでしょう?」
「私にもわからないわよ。村の周囲には、時折魔物が出るんだけどね? 村の者達が協力して追い払ったり倒したり……なんとか対処していたの。でも、急にその魔物達が村とは関係のない方向へ向かって行くのを見たのよ。それで、何かの変事ではと思って、王都へ報告しようと思ったわけ。初めて見る魔物も、村を素通りして行ったわ」
「初めて見る魔物というのは?」
「どう言う魔物かは知らないけど、すごく大きくて……オーガの倍以上はあったわね。遠目で見た時には村の終わりかと震えていたくらいよ。確か、一つ目だったと思うけど……わかるのはそれくらいね」
「一つ目で大きい……」

 もしかしなくても、キュクロップスの事だろうか?
 あの魔物はオーガの倍以上の大きさがあるし、弱点でもある一つ目が特徴だからね。
 キュクロップスが、村や人間に構わず移動……か……。

「……村って、どこにあるんですか?」
「えーと……ここから北東に行った後、途中で東に行けば、村に辿り着けるわ」
「北東に行って、東……近くに森があったり?」
「よくわかるわね? 魔物もいるから、森のすぐ近くではないけど……村から遠くを見れば、森が見えるくらいよ」
「じゃあ、その移動していた魔物達は、北に移動していましたか?」
「どうしてわかるの? その通りだけど……」
「やっぱり……」

 移動していた魔物というのは、ルジナウム南の森に集まっていた魔物の事だろう。
 この女性の村がある方から、全てが来たわけじゃないと思うけど、とにかく見かけたのはキュクロップスで間違いないようだね。
 森の近くに村があっても、魔物達はルジナウムを目指した……それと、魔物達が集結していた場所から一番近い人間が集まっている場所は、ルジナウムだとも聞いたから、女性が住んでいる村は森の南側……ヘルサル方面なんだろうと思う。
 地図を見た時は、大きな森が広がっているのを確認したけど、結構離れた場所から魔物は移動して来ていたんだろう。

 それだけ、魔物を集める何かの効果は、遠くまで影響しているという事だね。
 あと、ヘルサル方面にキュクロップスがいたという事になる……ルジナウムまで移動したから、今はどうかわからないけど、ヤンさんに報告しておきたいなぁ。
 マティルデさんに言えば、冒険者ギルドを通して報せてくれるかな?
 キュクロップスがまだ残っているかどうかはともかく、調べたり備えたりする事くらいはできるはずだから。

「ふぃ~、食べたのだわ~」
「……よく食べたなぁ。持って来たキューが全部なくなったぞ?」
「やめられないとまらないなのだわ」

 また俺の記憶から、変なセリフを使って……。
 その言葉は、キューに対してではなくお菓子に対してだ。
 まぁ、ついつい食べ続けちゃう……という意味では正しいのかもしれないけど。

「私の食料は、馬が持って逃げちゃったし……貴方ももう食べ物を持ってないみたいね。どうしようかしら? 王都まで、今日中に着けるような距離じゃないわよね……」
「それなら大丈夫。ちょっと遅くなっちゃったけど、今日中には到着できるよ。今からだと……夕食前には行けるかな?」
「え? そんなの、どうやって? 馬もいないのに……もし馬がいても、まだ一日以上はかかる距離よ?」

 食料がない事を不安がっている女性に対して、空を見上げてなんとなくの時間を確認しながら呟く。
 日が傾き始めた頃で……大体おやつの時間くらいかな?
 この女性を一緒に連れて行く以上、あまり速度は出せないだろうけど……日が暮れる前には到着するはずだからね――。


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