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アメリさんの知り合い
しおりを挟む「あぁ。ちょっと長い話になりそうだな……」
「お茶のお代わりをお持ちしま……」
「まったく、二度目の伝令で派兵の必要はないってわかったのに、様子を見るために軍を送ろうと考えるなんて、ただの無駄よ? りっくんがいるんだから、大丈夫になったのなら本当に大丈夫でしょうに……私達は、戻って来るのを待って話を聞けばいいのよ」
「しかし陛下、それではいささかリク殿に頼り過ぎかと。確かに、リク殿がおられる街での事、魔物の襲撃を受けたとはいえ、二度目の伝令で殲滅されたと聞いた以上、その後の問題はないように思いますが……」
「問題がないならいいじゃない? 確かに街の様子だとかは心配だけど、軍ではなく少数の調査隊を送るくらいでいいのよ。――あ、りっくんお帰り。エルサちゃんに乗って戻ってたのは聞いてたけど、知らない顔もいるのね?」
「あ、うん。ただいま……じゃなくて、戻りました陛下。ハーロルトさんも」
「リク殿、よくぞご無事で。ルジナウムでの事、詳しく……アメリ!? 何故ここに!」
「ハーロルト! って……え、へい……か……?」
「はーい、陛下でーす」
「ね……陛下、さすがにそれはちょっと……」
「りっく……リクに注意されちゃったわ。けど、私はこの部屋に来る時、リラックスするつもりでいるの。……面倒な会議やらで、肩肘張って真面目にするのは疲れるわ」
説明はそれなりに時間がかかるだろうと、ヒルダさんが全員分のお茶のお代わりを用意しようとした瞬間、入り口を開けて話しながら入って来る姉さん、もとい陛下。
ハーロルトさんと何やら言い合っている……というより、今まで会議か何かをしていて、不満を言っているようだ。
そんな姉さんは、既に俺がここへ戻っていると知っていたため、驚く様子もなく軽く手を振って挨拶。
目立つエルサに乗って戻って来たら、報告も行くだろうしわかりやすいか。
続いてハーロルトさんが会釈をしてすぐ、俺の隣に座るアメリさんに気付いて驚きの表情と声。
アメリさんの方からも、ハーロルトさんの名前が出た……という事は、軍にいると言っていた知り合いって、ハーロルトさんの事だったのか。
とりあえず、姉さんはアメリさんの驚く声に手をプラプラと振って応えるのは止めた方がいいと思う。
リラックスして気を抜いているからなんだろうけど、女王様としての威厳やら何やらが一切ないから。
他の人達は、皆苦笑するだけだし……俺が注意するしかないか、聞き入れる様子はなさそうだけど。
「で、その女の人とハーロルトは知り合いなの?」
「は、その……知り合いというか、幼馴染と言った方が正しいかと……」
「へぇ~、ハーロルトにそんな人がねぇ? 生真面目だから、外に女性の知り合いなんていないと思っていたわ」
「それは失礼なんじゃ……ないですか、陛下?」
「知らない人の前だからだろうけど、ここでリクにその喋り方をされると、ちょっと違和感があるわね……いいわ、いつものように話して。この部屋での事は他言無用、それで行きましょう。いいわね、ハーロルトの幼馴染さんも?」
「え……あ、はぁ……あ! いえ、はい!」
アメリさん、ハーロルトさんと幼馴染だったのか……。
というか、さすがに姉さんの言い方はハーロルトさんに失礼な気がする。
ハーロルトさんだって、軍のお偉いさんと言えるんだから、女性の知り合いが一人や二人……いるのかな?
いつもヴェンツェルさんを引きずっているイメージが強いけど……俺も大概ハーロルトさんに失礼なイメージを持っているようだ。
「それで、えっと……アメリさんだっけ? ハーロルトとはどんな関係なの? ただの幼馴染というわけじゃないんでしょ?」
「陛下……それは邪推のし過ぎだと思う。テレビドラマじゃないんだから……」
「えー、ここまでハーロルトを追ってきたと考えたら、ただの幼馴染とは考えられないでしょ?」
「アメリさんは、俺が連れて来たんだよ。ここへ戻る途中、オーガに襲われていたのを助けて、ついでだったから」
「オーガに!? アメリ、大丈夫なのか!?」
「え、えぇ。リク君のおかげで、なんともなかったわ。怪我もしていないし……それどころか、貴重な体験をさせてもらったわ。……今も、貴重な体験の真っ最中だけど」
「ふ~ん」
「ニヤニヤしない。ほら、ヒルダさんが厳しい目で見ているよ?」
「おっと……」
エフライムの隣、アメリさんと向かい合うように座った姉さんが、楽しそうにアメリさんに聞く。
さすがに、そういう方向に考えて邪推するのはどうかと思って止める。
勘違いしているようなので、アメリさんがここにいる理由を簡単に説明すると、ハーロルトさんが驚いて珍しく取り乱していた。
この反応を見ていると、ハーロルトさん側は確かに単なる幼馴染のように思っていないとも見える。
とりあえず、姉さんの方はヒルダさんを示して、茶化す雰囲気を霧散させておく事にした。
意外と、姉さん相手に一番有効なのはヒルダさんだよなぁ……こちらの世界で生まれて、小さい時から一緒だったからなんだろう。
弟だと、姉を止めるには不十分なようだ……はぁ。
「リク殿、アメリを助けてくれた事、感謝いたします!」
「偶然見かけただけですけど、助けられて良かったですよ」
「……えっと、二人は知り合い……なのは見てわかるわね。それはいいんだけど……陛下や貴族の方達と一緒というのは……ハーロルト、どういう事なのでしょう?」
アメリさんの無事を確認し、俺に深く頭を下げて感謝するハーロルトさん。
本当に偶然だったから、知り合いの知り合いを助けられて良かったと思う……あれで、放っておいたら考えていた以上に寝覚めの悪い事になっていただろうなぁ。
ハーロルトさんを見て、首を傾げるアメリさん。
そういえば、軍に知り合いがいるとは言っていたけど、役職とかは言っていなかったし……もしかしなくても、情報部隊の隊長だとかっていうのは、言っていないのかな?
「ハーロルトの役職からすると、私や貴族といてもおかしくないんだけどねぇ、もしかして、言ってないの?」
「は……その、役職が役職なので。もし、アメリの事が知られれば、危険が及ぶ可能性も考慮し、教えておりませんでした」
「見方によっては、対外的にも、対内的にも、貴族より重要だと思います、陛下。我が子爵家はそうではありませんが、不正を働いている貴族はハーロルト殿の部隊を恐れているとも聞きますから」
「まぁ、機密性の高い情報を扱ったりもするものね。国内だけでなく、国外からも狙われる可能性があるかぁ」
そっか、アメリさんはハーロルトさんの役職を聞いてなかったんだ。
そういえば、軍に知り合いがいると言っていただけで、軍で何をしている人なのかとかは言ってなかったね。
名前を聞いていれば、わかったかもしれないけど……ともあれ、実行部隊というよりは裏で動く部隊で、情報を扱うから何かを企んでいる人に利用されないために、大っぴらにはできないか。
それこそ、バルテルや帝国が目を付けたら、アメリさんを人質にして情報操作を……なんて事も考えるかもしれないから。
どこでも、情報ってのは大事だね、虚実の判断も当然大事だけどね――。
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