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クラウスさんと事情聴取開始

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「クラウスさん! トニさんも! 無事でしたか!」
「おぉ、リク様! 先程エルサ様が来られ、自らに魔法を集中させる事で、我々への被害を抑えて下さいました。おかげ様で、こちらの怪我人もほとんどおりません」
「……最初から、人はあまり狙わないように言っていたのよねー」
「ん、こちらの方は?」
「えっと、この人が……」

 クラウスさんの所まで駆け寄り、トニさんも確認して二人に声をかける。
 小走りに広場を通ったんだけど、その間クラウリアさんも結界にくっ付くように移動して来ていた……結構傍から見たら異様な光景だっただろうけど、見えない壁にくっ付いたまま走ってついて来るとは……意外と身体能力は高いのかもしれない。
 俺達に気付いたクラウスさんが、エルサの功績を喜ぶように言いながら、隣ではトニさんが会釈を返してくれる。
 すぐに、クラウリアさんに気付いたので、とりあえず簡単な説明。

「ふむ、その者が……今、人をあまり狙わないように、とは言っておりましたな?」
「ふん、あんたなんかに教える義理はないわ!」
「……クラウリアさん?」
「ぴぃ! わ、わかりました! 全部話します!」
「リク様には、反抗しないのですね……まぁ、今のを見たらそんな気が失せるのもわかりますが」
「あ、すみません」
「おー、今のは良かったのだわー。もっと魔力を滲みださせるのだわー」
「いや、エルサのためじゃないから……」

 クラウスさんが気付く直前、ボソッと呟いたクラウリアさんの言葉……人をあまり狙わないというのは、クラウスさんにも聞こえていたらしい。
 どういう事かと聞くクラウスさんに、なぜかこの状況でも偉そうにするクラウリアさん……とりあえず、魔力を可視化させて放出したら、すぐに怯えて話してくれるようだ。
 俺の頭にくっ付いているエルサは、放出された魔力を受けて喜んでいたけど、エルサを喜ばせるためじゃないからね? そういえば以前、俺からにじみ出ている魔力を吸収しているとか、それに近い事を言っていた気がするけど。
 ともあれ、クラウリアさんだけでなく、クラウスさんやトニさん、周囲の衛兵さん達にも可視化された魔力が見えたらしく、ちょっと怯えさせてしまったので、素直に謝っておいた――。


「成る程……他国と思われる組織の、元幹部だと……」
「そう見たいです。まぁ、この人の話を信じるなら、ですけど」

 あのまま広場というか、建物の入り口で話すのは邪魔になるため、場所を変えた。
 街一番の大きさだと思われる庁舎の一室、人が数十人は余裕で入れそうな大会議室に案内され、テーブルについている。
 クラウリアさんは俺の横に座っているんだけど、念のため縄で縛ったりしたのに、それでもなぜか椅子を俺の方に寄せたり、体ごと倒れ込もうとしてくるので、結局結界で壁を作って近寄れないようにしておいた……なんでそこまでして、こちらにすり寄って来るのか。
 ちなみに、事態が落ち着きを見せた事と、俺がクラウリアさんを連れて移動している最中に、クラウスさんの指示で街の状況確認に衛兵さんを走らせたらしい。

 さすがに短時間で全てを確認できたわけじゃないらしいけど、一回目の報告が庁舎内への移動直前に行われ、ヘルサルでの被害に人的被害はほとんどなさそうと伝えられた。
 建物などへの被害は結構あるらしいけど、人的被害はほとんどが爆発の余波や飛んできた物に当たって軽い怪我をした程度らしい。
 一応、工作をしていた人とも戦闘になったらしいけど、建物に向かって魔法を使ったために魔力が少なく、衛兵や冒険者側が一方的に収められたとか。
 確認したわけじゃないけど、この分なら建物以外、冒険者さん達やソフィー達、それにマックスさん達の獅子亭にいる人達、モニカさん達も無事だろう。
 大丈夫だと信頼していたけど、やっぱりちょっと安心だね。

「事情はわかりました。それで、先程言っていた人を狙わないように、というのはどういう事でしょうか?」
「むぬー! んむー! ふぬー!」
「クラウリアさん……」
「はっ!」

 クラウリアさんに関する話をクラウスさん達に伝え、改めて質問。
 ただ、そのクラウリアさんは結界に阻まれながらも、諦めず動こうとしているのに夢中なので、俺から声をかけてようやく気付いたようだ。
 ハッとなって姿勢を正した……背筋を伸ばしただけだけどね、縄で拘束されているし。

「それでクラウリアさん、人を狙わないというのは?」
「言葉の通りです。今回部下達にはヘルサルの中で、主要な部分を狙うように指示はしましたけど、人ではなく建物を狙えと命令しました」
「……それは何故ですか? 人を狙った方が、被害は出しやすいでしょうに。いえ、こちらからそれを言うのはちょっとおかしいかもしれませんが……」

 まぁ、クラウスさんが疑問に思うのもわかる。
 街そのものへ破壊工作しているんだから、建物に限らず人を狙った方がやりやすいだろうに。
 そもそも、ゴブリン達をけしかけた時なんて、建物どころか人を狙うななんて考えはなかったはずだ。

「……組織から抜けて、この街に潜んでいました。その時、ろくに働けず、お金などもなくなっていく中で、この街の人達は手を差し伸べてくれたのです。その優しさに応えるためにも、人を直接狙うのは禁じました。また、部下達にも元組織の者として、今は耐える時だと野盗に似た真似をするなとも」
「だったら、なんでヘルサルへ工作を実行したのか……」
「まぁ、こういった者達の考える事は、全て理解できないのが常ですが……」

 人の優しさに触れて、人への被害を出さないように配慮したらしいけど、それならそもそもヘルサルを狙って爆破工作なんてしなけれ良かったのに。
 というか、俺がクラウリアさんの前に落下した時、周囲を囲まれて思いっきり爆破の魔法を使われたんだけど……。

「組織に返り咲かないと、自分に未来はないと……いずれ見つかり、必ず処分されるからと考え、どうしてもやらなくてはいけないと決心しました。人を狙わない事など、反発する部下もいましたので、半分くらいは私から離れてしまいましたけど……」

 組織から処分されないために、どうしても返り咲く必要があった……と信じ込んでいるんだろうね。
 苦渋の決断とも言えるかもしれないけど、さっきまで罪の意識をあまり感じない態度だったのは、人を狙わない事と、処分されないために仕方なくやっているからと自分に言い聞かせていたとかかもしれない。
 組織に戻れるかどうかはともかく、クラウリアさんの考えが変わる中で反発した一部の部下が、仕込まれた毒を抜いて離反したとか、そんなところかな。
 結局、それでもまともに働けるわけでもなくて、結果として追い剥ぎとかをして捕まって……というのが真相だろう。

 口を揃えて、この街に集まるようにと言っていたのは、おそらくクラウリアさんと一緒に身を潜めていたためで、全てを話すと組織の前にクラウリアさんから処罰を受けると恐れたからだろうとの事。
 まぁ、結果的に人手が少なくなり、街の人達が治安の悪化などで警戒するようになったりしたわけだから、元々クラウリアさんの工作が成功する余地はなかったんだろうね――。


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