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謎に包まれたあのお方

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「そうこうしているうちに、私の部下ではなく、明らかに組織からと思われる者がこの街に現れたのです。今は、もうどこかへ行きましたけど……自分を探しに来たのだと考え、焦って計画を実行に移しましたが……」
「が?」

 組織からの人がこの街に来ていたのか……それは、クラウリアさんを探しに来たのか、それとも何か別の事を考えていたり、単純に潜入するだけだったり、理由はわからないけど、その事がきっかけになって焦ったみたいだね。
 クラウリアさんは、事情を説明する途中で言葉を切り、俺へと視線を向けた。

「このお方には逆らってはいけない、そう思わせる人と出会えたのです! これは運命です! きっと、この方と出会わせるために、私は今回の事を起こしたのだと!」 
「……えーと……」
「このお方と比べたら、組織にいたあのお方なんて、比べ物になりません!……いえ、正確にはわかりませんが……ツヴァイが使っていた魔法だけでなく、集中して爆破の魔法をかけても一切意に介さず……それだけでなく、与えられたかりそめの魔力を持つ私をはるかに上回る魔力量! もう、この方について行くしかないと思わされました!」
「それはつまり、リク様に寝返るというわけですかな?」
「寝返るとかではなく、このお方の下に付かないと、自分の未来がないとさえ思います!」
「うーん……」

 確かに色々脅すように魔力を放出したり、ツヴァイの魔法と似せた魔法を使ったりもしたけど……。
 爆破の魔法は結界で簡単に防げたわけで、魔力量に関しては自分でもよくわからないくらいあるっていうのはわかっているけど、さすがに急な心変わりをされてもなぁと思う。
 まぁ、長い物には巻かれろとは言うし、クラウリアさんがそもそもそういう性格なのかもしれないけどね。
 真実かはともかく、話してくれるのはありがたいけど、その分人間としての信頼度は下がった……というのは本人には黙っておこう……元々信頼度はゼロだけど、今はマイナスになっていた。
 ……簡単に寝返るような人って、信用しちゃ駄目だよね……色々話してくれそうなのは、こちらとしてはいい事なんだけど。

「んんっ! まぁ、俺についてはともかく……組織のあのお方、というのは一体誰なんだ? ツヴァイからも出たけど……絶対に誰かを明かそうとはしなかったんだ」
「ツヴァイならそうでしょうね。あいつはあの方に心酔していましたから。それに、もし口に出そうものなら、内部から情報が漏れたとして、そこでもまた処分されそうですから」
「相当重要な情報って事なんだね、その組織にいるあのお方っていうのは……」
「……正直に言うと、誰なのかというのはよく知らないんです」
「知らない?」

 ツヴァイを捕まえて話を聞き出した時から、ずっと気になっていた……というより謎だったあのお方という存在。
 人間なのかすらわからず、どこの誰かというのは一切情報がない。
 まぁ、帝国に関係しているだろうな、という予想くらいはできるけど。
 改めてクラウリアさんに聞いてみると、俯いて首を振り、あのお方というのが誰なのかは知らないという答えが返ってきた。

「はい。その……あの方と会うのは幹部でも、数回程度。魔力をその際に分け与えられるのはそうなのですけど、目隠しされたり身動きが取れず周囲の状況がわからない状態なのです。ツヴァイは研究の報告をする影響で、もしかしたら知っているかもしれない……というくらいですね」
「……そうなんだ」
「あ、でも。他に幹部には私のように女がいたんですけど、その人ならわかるかもしれません。あの方と接触する際には、必ずその人が先に接触するようになっていましたから。多分、側近とか身近な存在なんじゃないかと」
「その女性というのは?」
「フュンフと呼ばれていました。基本的に、その人から幹部含め組織全体へあの方からの指令は伝えられます」
「ふむ、トップからの指令を伝える役目という事は、相当近い存在と言えるでしょうね。私にとってのトニのような関係でしょうか……」

 徹底的にあの方というのが誰なのかを伝えないようにしているみたいで、クラウリアさんも誰なのかはわからないとの事だ。
 ただし、他の幹部の中で一人だけ近い存在と目されている人がいて、その人が全体への指令を伝えたりしているようで、クラウスさんにとってのトニさん……つまり秘書とか側近、片腕のような存在、という事だろう。

「フュンフの事は、すみませんが他に詳細はわかりません。幹部は常にローブで身を包み、素顔を晒さないので……声や振る舞いから、女だろうと考えているだけなので。それに、幹部はそれぞれ部下を何かしらの理由で持っていますが、幹部同士はお互いに拘わろうとはしないのです」
「幹部同士の話し合いもない、って事かな。組織としてどうなのかと思わなくもないけど……それで強力なトップを持ってワンマンで維持しているって事なんだろうね。でも、クラウリアさんはツヴァイの事をよく知っていたような口ぶりだったけど?」
「ある程度は……私は工作の作戦を実行する役割だったので、それで。ヘルサルへのゴブリンロードに関しても、ツヴァイと研究に関して話す必要がありましたから」
「成る程ね……まぁ、組織が研究をしている成果を使うんだから、そういった話も必要か……」
「ツヴァイと話すのは、かなり面倒でしたけど……あいつ、あの方以外のすべてを見下していて、私だけでなく他の幹部も、自分の部下でさえも道具にしか見ていませんでしたから。貴方様がツヴァイを倒したと聞いて、本当にスッキリしました!」
「いやまぁ、クラウリアさんもそのツヴァイと同じく、俺に捕まえられたって事なんだけど……まぁいいや」

 謎に包まれた組織は、組織に所属して幹部にまでなっていても謎に包まれている……という事か。
 やっている事を考えれば、ツヴァイのように部下やその他を道具のように扱うというのもわからなくはないけどね。
 情報を漏洩させないために毒を仕込んだり、処分をしようとしたり……処分に関しては、クラウリアさんの証言だけだけど、やりかねないのはわかっている。
 部下を大切にという程ではないんだろうけど、道具として扱ったり見下す程ではないクラウリアさんは、元々組織には向かない性格だったのかもしれない。

「……それじゃ、核心というか……重要な事を聞くこうかな。その組織、あの方というのが誰なのかはわからなくても、組織そのものは帝国と拘わっているよね? というより、帝国が作った組織じゃないかって俺は考えているんだけど」
「帝国が作ったかは、わかりません。幹部といえど組織の成り立ちまでは教えられません。ただ、帝国と深く拘わっているのは間違いないと思います。帝国の中心地……帝都ではあまり表立ってはできませんが、組織の人間であれば出入りは自由ですし、色々と好き勝手できます。まぁ、やり過ぎれば処分対象なので、皆通常の民を装っていますけど」


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