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マリーさんからの提案
しおりを挟む「……ほら、これで手は動かせ……こら、こっちに手を伸ばさない!」
「あーん、英雄様はつれないですねぇ」
「……やっぱり、完全に身動きできないくらい縛り付けて、口も塞いでおいた方がいいんじゃないかしら? 一日や二日くらい、何も食べなくて平気でしょ」
「まぁまぁ。――モニカさんを刺激しちゃうから、変な事はしないように」
「は、はーい……」
モニカさんやマックスさんにも許可を取って、簀巻き状態を解除。
その下でさらに縛られている縄を緩めて、両手を動かせるようにしたら、すぐに俺を引き寄せるためなのか手を伸ばして来たので、距離を取る。
俺の後ろでは、モニカさんが不穏な気配を出して呟いていた……ちょっと怖い。
モニカさんを宥めながら、クラウリアさんに小声で注意。
さすがに昼のように怒られるのは嫌だと思ったのか、顔を引きつらせて素直に返事をするクラウリアさん。
「あぁ……美味しいでふぅ! はぐはぐ!」
「もうちょっと落ちついて食べれば……って聞いていないか」
カーリンさんの作ってくれた料理のいくつかをお皿に載せ、クラウリアさんに渡すとガツガツと食べ始める。
泣きながら夢中になって食べているけど、よっぽどお腹が空いていたからだろう。
料理が美味しいのもあるか。
「それで、リク。これからどうするんだ?」
「そうですね……いつまでもここにクラウリアさんを置いておくと、皆に迷惑がかかるので、明日にでもさっさと王都に連れて行こうと思います」
「まぁ、迷惑ではないとは言えないか。早く引き渡した方が、モニカも平静を保てるだろうからな」
「はい。騒動を起こした張本人ですけど、捕まえておとなしくしていますし……被害も大きくなかったので、あそこまで起こらなくてもとは思いますけどね。でも、生まれ育ったヘルサルが好きなモニカさんらしいとも思います」
「……はぁ……」
「ん?」
クラウリアさんの様子を見守っていると、マックスさんからこれからの予定を聞かれた。
さすがに獅子亭にいつまでも置いているわけにはいかないし、話さなきゃいけない事や調べないといけない事があるので、早めに王都へ連れて行きたい。
そのため、明日には出発する予定だ。
クラウリアさんを引き渡せば、モニカさんも落ち着いてくれるだろうし……と思ったんだけど、なぜかマックスさんに溜め息を吐かれた……うーん?
「母親としては、少しモニカが不憫に思えて来たわね。リク、明日出発するにしても、少しは余裕があるんでしょ?」
「まぁ、エルサに乗って行けば、王都へすぐ到着できるはずですけど……」
「それじゃ……そうだね。朝から昼過ぎくらいまで、モニカと二人でこの街を少し回って来なさい」
「ちょ、ちょっと母さん!?」
「マリーさん、それは!!」
「あらぁ、ルギネも反応しちゃったわねぇ……んふふ」
マリーさんが何やら呟いた後、話しかけられた。
エルサに乗って移動するから、大体一、二時間くらいで王都へ行けるはずだから、時間の余裕はある。
そこで、マリーさんからの提案は昼過ぎくらいまで、街を回ってくればという……まだ街の様子が気になるんだろうか? まぁ、夕方にでもならなければ大丈夫だと思うけど。
それこそ、夜中に移動だってできる……王城に迷惑がかかるから、遅い時間に到着はしたくないけどね。
マリーさんが提案するくらい気になる事があるんだったら、遅くなり過ぎなければいいかな……と考えていると、モニカさんとルギネさんがマリーさんに詰め寄る。
アンリさんはルギネさんの後ろで、ちょっと面白そうな含み笑いをしているようだけど。
「……はぁ、ちょっとこっちに来なさい! まったく、こういうのは私たちが言う事じゃないと思っていたんだけど、さすがに見かねたのよ……」
「ちょ、ちょっと母さん?」
「ま、マリーさん?」
詰め寄るモニカさんやルギネさんを見て、溜め息一つ。
マリーさんは二人の襟首を掴まえて、端の方へと連れて行った。
引きずられる二人は戸惑うばかりのようだけど……まぁ、あっちはマリーさんに任せておけばいいのかな?
「えーっと……?」
「リク、とりあえず明日の予定は決まったな。……俺からすると微妙な気分にはなるが、マリーが言い出した事だし、仕方ない」
「は、はぁ……わかりまし、た?」
まだ了解の返事とかはしていないんだけど、どうやら明日はモニカさんとヘルサルを見て回る事に決定したようだ。
でも、ほとんど強制のような決め方をするくらい、マリーさんが街の方で気になる事ってなんだろう? 俺が冒険者ギルドでヤンさんと話している間に、獅子亭周辺の状況は確認して、特に大きな被害はなかったと確認できていたみたいなのに。
獅子亭とは離れた場所が気になるのかな? と何度も首を傾げたり呟いたりしていたら、なぜかマックスさんだけでなくソフィーやアルネ、ユノやエルサにまで溜め息を吐かれた。
フィネさんやカーリンさん、アンリさんとかは苦笑しているだけだったけど。
うーん、俺にはよくわからない何かがあるようだ――。
――夕食後、満腹になって元気を取り戻したクラウリアさんを獅子亭に残し、俺達は宿へ。
一応、何かおかしなことは絶対しないようにと、再度脅して来たし、モニカさんも見張ると言って残ったから、滅多な事にはならないと思う。
「ヘルサルでは、もう少しゆっくりできると思っていたんだけど……仕方ないか」
「リク、早くお風呂に入るのだわー!」
「はいはい」
エルフの集落から持ってきていた、クールフトやメタルワームなどの荷物を部屋に置き、溜め息と一緒に呟く。
エルサからお風呂を催促されて、お風呂へ……。
ちなみにこれらの荷物、邪魔になるのでさすがに騒動が起こった時に、別の場所へ置いていた。
というより、エルサで上空から様子を見る際に南門付近に置きっぱなしだっただけなんだけども。
まずは様子見だけで、もしエルサに乗ってヘルサルに入るのなら改めて持って行こうと考えていたんだけど、爆発が起こっていてすぐ向かわないと、と考えて忘れていた。
なので、宿に戻る前に思い出して南門から出て回収していたりと、ちょっと時間がかかった。
ただ、朝と違ってちゃんと衛兵さんはいてくれたし、俺の顔を見てすぐ通してくれたから助かった……あれでまだ誰もいなかったら、またエルサに大きくなってもらわなきゃいけなかったし。
南門は、街道とは繋がっていないため人の往来が少なく、誰かに取られたりする事もなく、荷物はそのまま置かれていた。
そもそも、騒動があったので俺達以外誰も南門からの出入りはなかったらしいけど。
ただ、門の外側とはいえ、衛兵さん達が見つけて調べ始めようとはしていた……当然だよね、本来ないはずの怪しい荷物が置きっぱなしになっているんだから。
ソフィー達と一緒に、衛兵さんに謝って荷物を引き取ってきたってわけだ。
「……おかしい、のんびりするついでにヘルサルの様子をみたり、エルフの集落に行ったはずなのに……あんまりのんびりできていないような……?」
「リクがなんでもかんでも首を突っ込むからだわー」
「そんなつもりはないんだけどなぁ。はぁ……」
お風呂でエルサを洗いながら、実際はあんまりのんびりできていないなぁなんて考えて呟く。
自分から首を突っ込んでいるわけではない……と思いたい。
一応、獅子亭にお客さんが来過ぎていた時は、手伝ったりして空いた時間はのんびりできたけど、考えていたのとは違うからなぁ。
王都にクラウリアさんを連れて行った後、少しくらいはのんびりできるといいなぁ……なんて、なんとなく叶わないと思いながらも、願いながらエルサの毛を乾かして就寝した――。
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