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あの時何が起こっていたのか

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「それでは、陛下、リク様」 
「はい、ありがとうございます」
「ヒルダ、ありがとう」
「……はい、ごゆっくり」

 皆が去って、食器の片付けやお茶をヒルダさんが用意してくれた後、向かい合って座る姉さんと俺に礼をするヒルダさん。
 俺はともかく、珍しく姉さんが感謝の言葉をかけたので、一瞬ヒルダさんが驚いた様子だったけど、すぐに退室して行った。
 姉さんは女王としてお世話される事に慣れているし、感謝していないわけじゃないんだろうけど、口に出す事は珍しいから、ヒルダさんが驚くのも無理はない。

「ん……ふぅ。相変わらずヒルダの淹れてくれたお茶は一級品ね。贅沢ばかりもいけないから、こういう時の茶葉はあんまり高級な物でもないはずなんだけど」
「うん……ん。そうだね。これを飲むと、ペットボトルや缶のお茶じゃ物足りなくなるね」
「ヒルダのお茶は美味しいのだわー。ふー、ふー……だわ」

 ヒルダさんの用意してくれたお茶を一口飲み、少しだけ厳しい雰囲気と表情を崩す姉さん。
 俺も一口飲んで、変わらない美味しさを味わう。
 皆が部屋からいなくなる中、俺から離れないとばかりに残ったエルサも、お茶に息を吹きかけて冷ましながら飲んでいる。
 まぁ、エルサはいつも一緒にいる事が多いし、姉さんも気にしていないようだから一緒にいても構わないんだろう。

「ふぅ……さて、さっきの話ね」
「うん」
「……エフライムに対して、急に怒ったのは失敗だったわ。まぁ、バルテルが言っていた事と似ていたから、ついね……」
「バルテルと?」
「近い事……いえ、もっと自分の事しか考えていないような感じで、りっくんを利用するような事を言っていたかしら。エフライムにそういう意図はないのでしょうけど、あの時の事を思い出してつい怒ってしまったのよ。りっくんとエフライムの仲だったり、これまでの拘わりから悪意があったり私欲で利用しようとしていないのは、わかっているのだけどね」

 息を吐き出して、先程不機嫌になった時の話に戻す姉さん。
 エフライムは私欲で俺を利用して……という考えはないと思うけど、バルテルが俺の知らないところで姉さんに言って怒らせたのと近かったから、つい怒ってしまったらしい。
 なんて言ったのかは知らないけど、バルテルが凶行に走るきっかけになった時の話だろう。

「俺は直接話していないけど、バルテルはなんて言ったんだろう?」
「聞いていて面白いとは思わないから、あまり気にしない方がいいわよ。でもそうね……『王国のために利用価値が高く、ゴブリンとは言えあの数を相手にできる人間はそうはいない。例え誇張された報告だとしても』とか『ひいては、王国のため私に預けてもらえれば忠実な配下にして、国益のために利用できるようにしましょう』なんて言っていたわね……」
「国のため……ねぇ……まぁわからなくもないけど」

 今更自分に利用価値がない、なんて事は思わないけど……確かにエフライムの言っていたのと似ていると言えば似ているかな。
 エフライムは国のため、戦争になった場合に国の損害を減らすためとかを考えて。
 バルテルは国が利用して国益を得るため……本心であれば、アテトリア王国を考えての事と言えるのだろうけど……。

「ただ、それを言った時のバルテルは、表向き国のため国のためと連呼して強調しながらも、いけ好かない笑顔を浮かべていたわ。言葉はともかく、あの場にいた他の者達もバルテルが自分の配下としてりっくんを利用したいだけってのは、わかるくらいにね」
「いけ好かないって……姉さんを人質に取ってユノを脅していたバルテルは、確かにいけ好かないっていうのもわかるけど」

 顔をしかめてバルテルの事を話す姉さん……俺が突入する寸前、姉さんを捕まえてユノを脅していた様子を思い出せば、言いたい事もよくわかる。
 見た目は小さい女の子相手なのに、姉さんに剣を突き付けてにやけながら勝ち誇っていたくらいだからなぁ。
 まぁ、ユノは見た目通りの女の子じゃないけど。

「言葉では国益が、と言いながら自分のならず者集団と一緒に、私欲で利用しようとしているのが見え透いていたからね。バルテルの評判は元々悪かったし、ガラの悪い連中を従えて好き勝手にしていたのはわかっていたのよ。あの場にいた全員が、表面だけのバルテルが言う事を信じている者なんていなかったわ。そしてそんな中にりっくんを……まぁ、話す前にりっくんだって事を知らなかったら、あそこまで怒らなかっただろうけど」
「……勲章授与式からすぐ後に、俺と話しての再会だったからね。順番が違えば結果も違ったのかもしれないね」
「とは言っても、勲章の授与があった後に貴族達との会談……りっくんも一緒にって予定だったから、変わり様がなかったのだけれどね。りっくんが授与式の際に倒れたのは皆が見ているから、結局参加させなかったのだけど。あれは参加させなくて良かったと思うわ、バルテルとその一派である一部貴族の話は、気分が悪くなるだけだから」

 授与式で姉さんの事がわかり、その後話して日本からこの世界に転生してきたのだと知った。
 だから、バルテルと話すのが授与式より先だったら、姉さんが言っているように怒っていなかったのかもしれない。
 ともあれ、元々の予定が決まっていたんだし、順番が変わっていたらなんて考えるの今更か。
 それにだからこそ、貴族達との話なんて堅苦しそうな場に出なくて良かったとも言えるからね……ただ、その場に俺がいたら姉さんを止められたのかもと思ったりも……。

「でも、ふふふ……あの時のバルテルの顔はりっくんにも見せたかったかもね。驚いて焦って絶望して……最後は勝手に怒りだしたのだけど」
「姉さん……その言い方はちょっと性格悪く聞こえるよ? というか、バルテルに何を言ったの?」

 うん、俺がその場にいても姉さんを止めるなんてできないね。
 バルテルの反応を思い出す姉さんの表情は、言葉の内容もあってどう考えても悪人方面にしか見えないかった。
 というか、姉さんはその時何を言ったんだろうか……?

「あまり気にしない方がいいわよ?」
「え……あ、うん……」

 にっこりと笑って俺を見る姉さんからは、これ以上は聞かない方がいいと言っている雰囲気が伝わる。
 気にはなるけど……聞くと後悔しそうだから、突っ込むのは止めておこう……姉さんの笑顔がなんとなく怖いし。

「ともあれ、そうして怒り出したバルテルが一部の貴族と一緒に、暴れ出したのよね。それで、私も含めて拘束されて謁見の間に連れていかれたってわけ。私を押さえているから、途中の兵も手出しできなかったし……そもそも元々何かするつもりだったらしいから。ヴェンツェルとかも動けなくされていたのよね」
「あぁ、そういえばそうだね。バルテルが毒というか痺れ薬みたいなのを仕込んで、兵士の半分くらいが動けなくなっていたんだっけ」
「えぇ。だから私の傍にいた護衛も少なくなっていたし……まさか貴族を集めた話し合いで、その貴族が暴れ出すなんて思わないでしょ? 完全に意表を突かれたわ……」


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