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農地予定地に到着
しおりを挟むエルサでの移動中、初めて乗るシュットラウルさん達は緊張がほぐれるにつれて、下を見下ろしたり遠くの景色を見たりと、キョロキョロして落ち着かなかった。
空を飛んでの移動自体が初めてだから、仕方ないけどね。
高度や速度は、初めての人の方が多いため控えめだ。
「考えていたよりも、快適なのだな。もっとこう、風に飛ばされないように気を付けねばと思っていた。揺れもほとんどないし、比べるのも失礼だが馬よりも快適だ」
「意外と、空って揺れる事は少ないですけどね。走っているわけでもないですから。それに、風は結界を張ってあるのでそれで防いでいるんです」
キョロキョロしながらも、感心するように言うシュットラウルさん。
リネルトさんやアマリーラさん、執事さん達はフィリーナが話している。
空って、走るのと違って体を大きく動かさないから、エルサに乗っていると揺れをほとんど感じない。
飛行機は風の影響で揺れる事があるけど、そちらは結界で防いであるし、ただエルサの背中に乗っているだけなのに凄い快適だ。
乗員は少ないけど、地球の飛行機よりよっぽど優秀なのかもしれない……やろうと思えば速度や高度も上げられるからね。
「結界か……すごいものだな。それにしても、慣れないせいか下をみると少し眩暈を感じるが……」
「あんまり高い所に行く事自体が少ないですから、やっぱり慣れですかね」
建物の中のように、絶対安全だとわかりきっている所から見下ろすわけでもないからね。
まぁ、落ちても結界があるし、こちらもかなり安全だけど……結界は目に見えないから、どうしても恐怖心とかは湧いて来るものだろうと思う。
俺は何度も乗って慣れているし、日本の電波塔の展望台でガラス張りの下を見れる場所でも、平気だからってのもあるんだろうけど。
「あと、初めて見た時から思っていたのだが、この毛は素晴らしいな。風呂では濡れてそうは感じないのだが……」
「そうですよね! エルサの毛ってすごくモフモフで……!」
そんな感じで、シュットラウルさんと話しながら、体感で一時間にも満たないくらいの間、空の旅を楽しんだ。
シュットラウルさんも、エルサのモフモフには注目していたみたいで、ちょっと仲間を見つけた気分。
濡れていたら、モフモフが体に張り付いてぺちゃんこになって……とか、エルサの毛がどれだけモフモフなのかを力説していたら、なんとなく引いている気配を感じたけど。
解せぬ……。
準備中の農地近くでエルサに降りてもらい、シュットラウルさん達を伴って移動する。
農地は、上空から見てもかなりの広さがあった。
整備されて見えたのは、徐々に農地を広げたのではなく、計画をして一気に開拓したからだろうか。
「まずは近くの村だな。農地の東西に一つずつ村がある。とは言っても、まだ村その物も作っている途中だが。この辺りは元々、何もない草原になっていたのだが、魔物がそれなりに出るようでな。まぁ、人がいないから魔物が出るのか、魔物がいるから人が来ないのかはなんとも言えないが」
移動しながら、シュットラウルさんに教えられる。
以前はただの草原だったらしく、特に街や村間の移動で通る場所でもないため、放っておかれた土地らしい。
魔物が出るからそうなったのかは、シュットラウルさんもわからないらしいけど、今回農地と村を作る事を決めて兵士や冒険者が協力して魔物を追い払ったのだとか。
まぁ、今魔物がほとんどいなくなったのなら、結界を張って維持すれば中に入って来れないから、最初が一番苦労するって事だろう。
空から見た時にも見えていたんだけど、東西に建物らしき物がいくつか見えていた。
東側は農地の向こう側なのでほとんど見えなかったけど、西側では建設途中のような建物もそれなりにあるようだ。
人員などを投入して、急いで作っている最中なのだから仕方ない。
その東西の村が、広大な農地の管理をする村らしい。
「それじゃまずは、クォンツァイタを安置する場所の確認ね」
「うん、そうだね。シュットラウルさん、そちらはどうですか?」
「問題なく、物資は運び込まれているようだな。村の建設、農地の開墾など、人員が少々足りないようだが……そちらはリク殿達には影響しないだろう」
西側の村に到着し、結界を張るための準備などを始める。
村の入り口で、東側にいるはずの人達も西の村の人達も、総出で平伏して迎えられたのは驚いたけどね。
領主様が直々に訪問するんだから、そういった事があっても不思議はないのかなぁと思っていたら、ほとんどの人が俺を一目見たいと思って集まったのだろう、と執事さんに言われた。
シュットラウルさんは、自分を名目にされて話題の英雄様を見に来るのも、仕方ないしそれが 民主感情というものだ、と苦笑していたけど。
領主様を迎えて挨拶を、というのも間違いではないので、シュットラウルさんは特に気にしていないようだ。
「じゃあまずは、個々から一番近い安置場所からね」
「うん、行って見よう」
クォンツァイタなどの必要な物は、滞りなく到着しているようで、村で先に待機していた兵士さん達が運んでくれるようだ。
農地は馬や馬車などで通るわけにもいかないため、ここからは歩いて回る。
無理をすればできなくもないけど、せっかく開墾した農地を荒らす事になるから、仕方ない。
新たに合流した兵士さん達を連れて、皆で一番近い西側の小屋へ移動。
「ここ、ですか?」
「うむ。予定通り、立派な建物になっているな」
到着した場所では、小屋どころか人が暮らしていてもおかしくない程の、立派な建物がぽつんと一つだけ建っていた。
平屋だけど、西の村で作られていたどの建物よりも大きい。
さらに、厳重に管理するためなのか、入り口は鉄扉、建物そのものは木造なのに大きめの扉が激しく主張しているようだ。
建物の周辺は石壁で囲まれており、そちらも鉄の門を通らないと内部が見られないようになっている。
一応、建物そのものには窓がないけど、それがまた異様というか……特殊な建物感を醸し出している。
ヘルサルでは、間に合わせで掘っ立て小屋だったから、こちらも似たような物かなと思っていたんだけど……。
「大きくて、厳重過ぎませんか?」
「リク殿の結界を維持するための物であり、農地を守る要(かなめ)になるからな。良からぬ事を企てる者が、悪さをしないようにそれぞれに兵を配置して警備する手配もしている」
それって、農地への出入りだけでなく、建物に誰も入らないように管理するって事か。
出入口より人の数は少なくできるだろうけど、クォンツァイタを安置する場所はここだけじゃないから、それなりに人員が使われるんだろうなぁ。
まぁ、変な事をされたら結界の維持に影響が出るんだから、それなりにちゃんとした管理をするのも当然なのかもしれない。
「それでは、クォンツァイタを中に。私が、魔法具化していつでもリクの結界に魔力を供給できるようにします」
「うむ、頼んだ。……エルフ殿の魔法具化の場面が見られるのは、貴重だな」
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