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中央で中心地が必要

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「さて、後は俺が全体に結界を張ればいいだけだね」

 すぐにクォンツァイタの魔法具化を終え、建物を出て呟く。

「あら、何を言っているのリク? もう一つ魔法具化しないといけないわよ?」
「え、そうなの? でも、東西南北の四か所を回ったはずだけど……」
「一番重要な、リクの結界と繋げる中心、中央が残っているのよ」
「中央……でも、ヘルサルの時は四か所だったよね?」

 魔法具化したクォンツァイタは、安置する四か所で終了かと思っていたら、何やらもう一か所あるらしい。
 しかも、フィリーナが言うには一番重要なのだそうだ。
 でも、ヘルサルの時はそんなことしなかったはずだけど……。

「あの時はクォンツァイタではなく、リクの魔力で作られたガラスだったからね。魔力を蓄積させたクォンツァイタよりも、結界との親和性が高かったのよ。でも、ガラスと違ってクォンツァイタは採掘された鉱石だから、長く繋げておくにはちょっと工夫が必要なのよ」
「へぇ~、そうなんだ」

 確かに、ガラスは俺が使った魔法で作られてしまい、魔力もその時に含んでいたからね。
 クォンツァイタみたいに、後から魔力を蓄積させたのと扱いが変わるのはわかる。
 まぁ、クォンツァイタの方は誰でも魔力を蓄積させて、結界を維持するための魔力にできるんだから、使い勝手がいいのはこっちだろうけど。
 ガラスは魔力の塊みたいになっていて、逆に扱いが難しくなっていたからね。

「とはいっても、四か所の交点……中央を繋げる中心にするくらいで、手順とかが大きく変わるわけじゃないのよね。まぁ、最後にしなきゃいけないってくらいかしら、面倒なのは」
「あはは、順番が関係なければ、途中で中央に寄って魔法具化してからでも良かったのにね」
「ほんと、そうなのよね。こればっかりは仕方ないわ」

 東西南北の四か所はどこから魔法具化をしてもいいけど、中央だけは最後にしないといけないらしい。
 どちらにせよ、結界を張る時は中央に行ってからと思っていたし、大した手間がかかる程ではないので、話しながらシュットラウルさんと一緒に、農地の中央を目指した。


「ん? なんだか他のよりも大きい建物のような……?」

 ほどなくして、農地の中心らしい場所に近付くにつれ、見えて来るクォンツァイタ安置所。
 広大な農地だから、見晴らしが良くても建物が大きくても平屋なのもあって、他の場所からは見えなかったんだけど……。

「中央であり中心地だからな。一際大きく頑丈な建物にさせてもらった。農地の管理棟も兼ねているからな」
「あぁ、成る程。それで……」

 建物は農地の中心である事を利用し、全体の管理をするための場所にもなるらしい。
 そのため建物も大きくなったんだそうだ。
 頑丈というのは、石造りだからだろう……平屋なのは他と同じだけど、広さは倍以上あって柵も二重になっていた。
 聞けば、兵士さん達や東西の村からの代表者などが、集まったり会議をしたり、休憩などをする場所と考えられているとか。

 ただし、他の場所同様許可された人以外は立ち入り禁止。
 クォンツァイタを守るためと、中心地である事、他の場所と違って人の出入りがあるので、特に厳重にするとシュットラウルさん。
 フィリーナが言うには、中央のクォンツァイタに異常があっても、すぐに魔力供給が止まるわけではなく、他の場所にあるクォンツァイタが代わりを担ってくれるような処置をするらしいけど。
 当然ながら、他の場所で肩代わりをするとそちらに負担がかかるし、クォンツァイタそのものの寿命も短くなる。

 安置しているクォンツァイタの交換や、魔力補充の頻度を上げる必要が出てくるため、できればちゃんと守って欲しいと言っていた。
 結界と繋がっている状態だから、クォンツァイタは魔法具化してから出荷されたのを置き換えるだけでいいのだとか。
 一応、ある程度の有事には備えるように考えられているらしい……さすがに、五か所全部破壊されたりしたら、駄目だけど。

「こっちは、部屋が別れているんですね」
「人の出入りや他の用途もあるからな。もちろん、クォンツァイタは一番奥で厳重に管理する」

 中央安置所……農地管理棟かな? 建物の中に入ると、他のとは違って廊下があって各部屋へと繋がっていた。
 シュットラウルさんが言うように、クォンツァイタを安置する場所は一番奥まった場所にあり、そこへ行くための通路は一つのみ。
 部屋に入る扉は金属扉で、その周辺の壁も金属の板で補強されている……さらに、昼夜問わず兵士さんが常駐して警備するとか。
 厳重さの段階が他より二段や三段上な気もするけど、人が入れないようにしている他の建物と違って、人の出入りがある事が前提なので、これくらいは必要なんだろう、多分。

「いっそ、ここにも結界を張るのはどうだろう? そうすれば、人が入れなくなるよね?」
「リク、それだとクォンツァイタの魔力補充ができないわ。蓄積されている魔力がなくなる前に、誰かが魔力を補充しないといけないのだから、誰も入れなくしたら本末転倒よ?」
「あー、そういえばそっか……」

 これだけ厳重にするなら、いっそ結界で覆ってしまえば……と思って話したんだけど、誰も入れなくなったらいけないんだった。
 厳重さにばかり注意が行っていて、定期的な魔力補充の事が頭から抜けていた……少し前に考えていたのになぁ。
 ともあれ、人が出入りできるようにするには、結界で扉の部分に隙間を空けておけばいいんだろうけど、それなら別に今のまま兵士さんが警備するのと変わらないだろうから、必要はなさそうだ。
 金属板で覆われているから、壁を壊して侵入というのも考えづらいからね。

「それじゃ、最後の魔法具化を始めるわね」

 クォンツァイタが安置されている部屋は、他の建物とそう大差ない場所で、内側の壁が石で造られているくらい。
 あと、他の部屋がある関係上、少し狭くなっているかな。
 部屋に入って、先に置かれていたクォンツァイタを確認した後、魔法具化に取り掛かるフィリーナ。
 その様子を見ながら、俺はシュットラウルさんと話す。

「成る程、そうすれば知っている人以外、引っかかるかもしれませんね。ただ、一度通った人はわかってしまいますけど」
「そこは仕方がない。完全で絶対侵入されない建物や部屋、というのは存在しないからな。それこそ、完全に隔離してしまわない限りは。だがそれでも、ほんの少しは猶予ができる。その間に捕まえるなりなんなりすればいい。とは言えさすがに、ここでは使えない方法だろうがな」
「まぁ、通路が一つですし、コッソリ侵入しようとしても見つかりますからね。そこで引っかかるくらいまで来られるなら、兵士さんの警備も抜けているはずですし、ほんの少し猶予ができても変わらないかなと」

 話している内容は、部屋を結界で覆うと提案した俺の考えを、別の形にした物だ。
 と入っても、完全に人の出入りを拒むものではなく、不可視の結界を使って入り口にちょっとした細工をする、といった話しだね――。


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